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神の裁き ①

 不安な気持ちをアーシャちゃんと分け合って目を閉じて、夜明け前。


 起こされ歩かされ、両手両足を縛られ、2人幌馬車の荷台に乗せられた。アーシャちゃんと向かい合い座っていると、身体を縄でぐるぐるまきにされたムトが荷台に転がった。


「……ムト!?大丈夫?!」


 ムトの肌には無数の切り傷、アザ。目の下にクマ。明らかに痛い目に遭っている。

 

 だがムトは、私を見てホッとする。

 

「ノア……無事か?」


「うん。ムトは……いっぱい怪我してる……」


「大丈夫だ。 ……ん? そこにいるのは……アーシャ殿?」


「はい、アーシャです。ムト将軍」

 

「アーシャちゃん、ヤリムさんに騙されて監禁されてたの」


 すると噂のヤリムさんが現れ、飄々(ひょうひょう)と馬車に乗り込んできた。

 

 ムトとアーシャちゃんが、同時にギッ!と睨みつける。


 ヤリムさんは刺さる視線を気にせず私の隣に座り、肩を大きくまわし出す。


「はー疲れた疲れた。肩凝るわ。ノア様おはようございます。ちょっとは寝れました? 俺はムトさん見張るので全然寝れませんでしたわ。この人少しでも油断するとすーぐ逃げようとする。ほんまに大変でした」


「……私たちをマリに連れて行って、どうする気?」


 単刀直入に聞くと、ヤリムさんはニコニコ微笑んだ。


「そんな怖い顔せんでも、ノア様を取って食いやしませんよ。ただね、うちのボスがね、前に『神の贈り物』に会いたいなぁ言うてたんで、マリ帰省のお土産にしようかと思っただけですよ。あー……でもこれでバビルの地とはほんまにおさらばやなぁ。寂しいなぁ」


「…………」


 ……昨晩アーシャちゃんから詳しく聞いた話によると、どうやらこの人は陛下がエシュヌンナを攻撃すると知った時点でバビルを抜け出し、アーシャちゃんを拉致してこの国境近くの村にやってきた。


 辺境の小さな村には、まだマリとバビルが決裂したことを知る者はおらず、村人たちはマリの外交官御一行を好意的に受け入れていた。酒屋の店主ともすっかり馴染みになっていたようだ。


 そして今、村人たちが起き出す前に、この人たちは密かにマリへ行こうとしている。


 マリの外交官御一行は、少なくとも10人はいる。抜け出すのは難しそう。


 でもマリに連れて行かれたら絶対ろくなことはない。陛下の足を引っ張りたくない。どうしたら逃げられるだろう。

 

 考えているうちに、ヤリムさんの部下らしき人たちが縄を持ってきて、ムトとアーシャちゃんの口に巻きつけた。


「ノア様の口は塞ぎませんけど、頼むから大声はあげんでくださいね。あげたら俺が口で塞いじゃいますわ」


「…………」


 すぐ隣からキモめの脅しをしてくるヤリムさん。ウザい。


「でもちゅーしたかったらいつでもどうぞ。俺、自信あるんで」

 

 ムカついて、その無駄に整った顔目がけて思いっきり頭突きした。


「……いだっ!ノア様、痛いて!」


「…………」


 ムトとアーシャちゃんは目で拍手を送ってくれた。


 そして馬車が動き出す。後ろにはとらえられたバビルの兵と、マリの男たちが続いている。


◇◇◇


 一行は進み、時折休み、マリへ向かい川沿いの道を北上する。

 

 馬車の中には私、ムト、アーシャちゃん、それにヤリムさん。ムトとアーシャちゃんは目を光らせて隙を探っており、隣のヤリムさんはやたら話しかけてくる。


「ノア様聞いて? 俺な、これでも本気でマリとバビルの友好を願ってたんですわ。こんな風に終わってしまってほんまにショックなんですよ」


「じゃあなんでマリはバビルを裏切ったの?」


「さぁ。俺はもちろん反対でしたよ。王宮の連中の考えることはよう分かりません。なんせタイミングが悪すぎますよねぇ。だってまだバビルにはマリから派遣された兵がいっぱいおるんですよ。それなのに今バビルと戦おうなんてアホすぎますわ。ボスやシブトゥ様は何考えてるんですかねぇ」


「シブトゥ様?」


「マリの王妃でボスの奥さんです。女とは思えないほど気丈な方でなぁ。ムトさんは会ったことあるよなぁ?」


「…………」


 ムトは無言で睨み返す。


「あれはもう十年近く前のことか。エシュヌンナがマリを攻めてきた時、ラビさんがマリに送ってくれた援軍の1人がムトさん。あの時のムトさんは大活躍で、大ピンチのマリを文字通り命がけで守ってくれたもんな。


 そうやそうや、あの時はエシュヌンナがマリを攻めてきて、バビルが助けてくれた。それが今はバビルを攻めるためにマリはエシュヌンナと組んだ。世の中何が起こるかわからんなぁ」


 たしかに、世の中何が起こるかわからない。そこだけは同意する。


「だからな、ノア様、俺がほんまは戦争なんて嫌なこと、それは分かってくださいね。俺はバビルでのほほんと暮らしたかったんですよ。美味いもん食うて、アーシャみたいに可愛い女の子と遊んで、時々マリに帰って、そんで平和に暮らしたかったんです」


「じゃあなんでアーシャちゃんを騙して情報聞き出して、陛下の命を狙うような下劣なまねをしたの?」


 ヤリムさんは肩をすくめる。

 

「だってバビルには『最終兵器』があるんやろ? ようわからんけど、そんなん使われたくないですもん。王家が密かに準備してる聞いたから、とりあえずこっそりラビさん()っとこう思ったんです」


「……最終兵器? なにそれ?」


 反応を見る限り、ムトとアーシャちゃんも知らなそうだ。将軍のムトが知らないなんて……そんなことあるのだろうか。


 王家? 陛下が密かに用意していた?


 ヤリムさんはニヤリとする。


「詳しく知りたいです? 教えてもいいですけど、見返りが欲しいなぁ。……俺、ノア様が欲しいです」


「え」


「今晩小さな町に泊まりますけど、そこで俺の言うことをなーんでも、聞いてくれたりしませんかねぇ……」


 ムトとアーシャちゃんがものすごい形相で、ンー!ンー!と首を横に振る。


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