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ふつかめのよる ①

 その後、しつこく追いかけ回してくるムトを適当にやり過ごし無事まいて、王宮探検で時間を潰し、用事を終えたサーラさん達と合流した。すぐにまた湯浴み、お肌の手入れの時間。


「ノア様……陛下は時折女性に対して難しい態度をとられます。しかし、それも時間が解決してくれるはずです。共に過ごす時間が増えれば自然とお二人の仲は深まりますわ」


 サーラさんが私の身支度をしながら、慰めるような、労わるような声で言う。「難しい態度」なんて言葉では片付けられないと思うが、陛下の事情も分かった今ならまあ素直に聞き入れられる。


「サーラさん。ご心配ありがとうございます。……昨日はショックで取り乱しちゃいましたけど、ムトさんから聞いて陛下の事情もわかったので……もう大丈夫です」


「ノア様……」


「それに、せっかく夫婦になるんだもの。私、陛下と仲良くなりたいです。サーラさん、陛下のことたくさん教えてください」


「ノア様……!えぇ、もちろんです!ノア様ならきっと陛下を変えられますわ。ええと……陛下はですね、あぁみえて天然な一面があるんですよ。それとふわふわなものが大好きです」


「いや、どんなキャラ…………あ、そうだ。できれば夕食までに用意してもらいたいものがあって……」


「なんでもおっしゃってください!」

 

 そして準備が済み、昨晩と同じように夕食へ――


「…………」


「……ノア。どうした、そんなところに突っ立って。早く座れ」


 食事の部屋に入れば、昨晩同様穏やかなイケメンフェイスをまとったラビ陛下。

 

 でもその仮面の下に「女は嫌いだけど人前だから必死に紳士に振る舞う頑張り屋さん」がいると思うと、その健気さに胸を打たれてしまう。


「……ノア? どうした」


 この感情を言葉にするなら「憐れみ」が近いだろうか。背負った過去のように深く黒いその髪を、ワシャワシャワシャ撫で回して思いっきり甘やかしてあげたくなる。


 陛下は……頑張っている!


「……はい!失礼します!座ります!」


「?……それにしても、今日はえらく男っぽい服だな」


「気づいていただけました? サーラさんに用意してもらったんです。カッコいいでしょう?」


「……人前に出る時はやめろよ」


「は、はーい」


 女嫌いと聞いたから少し男らしい格好をしてみたのだけど、あまりお好きではなかったようだ。残念。

 

 そしてすぐにまた食事の時間が始まる。昨晩の首絞め男が嘘のように、陛下は和やかに話しかけてくれる。


「……昼間は何をしていた?」


「王宮を探検していました。私のいた世界とはまるで違うから、新鮮で興味深くって」


「……ノアのいた世界とはどんな世界だ? 『ソームカ』はどんな場所なんだ?」


「どんな場所? うーん……そうですね……」


 改めて聞かれると難しい。私がいた世界は……どんな世界? どんな場所? そんなの真面目に考えたことはなかったけど……


「……私のいた世界、なかでも私がいた国は戦争もなく、平和な国だったと思います。……ですが、問題は沢山ありました。私の国では……少子高齢化が急速に進んでおり、物価上昇にともなう経済への影響も大きく……また人々のニーズは多様化・複雑化し、課題は山積みでした。その一方で財政状況はますます厳しくなり、人員も限られた中で対応せねばならず、我々は効率的・効果的な行政運営を推進して」


「役人の論文試験か!!」


 陛下のツッコミに、ムトが吹き出したらしい音が背後から聞こえた。


 「す、すみません、社畜な役人だったもので……つい熱くなっちゃいました、あ、私国家の行政を担う△△省の総務課という部署で働いていたんです」


「……その国では女も役人になるのか?」


「えぇ。とても優秀な女性が沢山いたんですよ。……バビルの役人はどんな方々が? 試験に合格すれば誰でもなれるんですか?」


「政治を知らない女や(やから)に役人は務まらないだろ。基本は世襲制だ。就任前に試験はするが」


「そうですか。でもいろんな出自の人がいた方が組織の柔軟性が高まると思います。同じような人ばかりだと思考が固まってしまいますから」


「…………」


 ふと顔を上げると、ラビ陛下が真っ直ぐこちらを見ていた。ちょっと怖い顔をしている。調子に乗って喋りすぎたかもしれない。


「……すみません。口が過ぎました」


「いや、いい。面白い考えだ」


 そう呟いて、陛下はまた食事を口に運び始める。

 ひとまず、ホッ。


 そしてひと通り食事が終わり、陛下が立ち上がった。


「……ノア、今日は仕事がある。寝るのは別々の部屋に……」


 ……やはり陛下は逃げる気だ。

 だが逃してやらない!


「陛下!ひとりじゃ寂しくて寝れません。一緒に寝ましょう!」


 部屋の端で控えていた人たちがザワっとする。

 

「いや、おま……」


「はい、陛下!一緒に寝室にいきましょう!」


 ざわつく皆さんの視線が痛いが、負けない。陛下の手を取り、寝室へ引っ張る。陛下は少し躊躇いつつも、なんとか着いてきてくれた。


 廊下をズンズン進み部屋に入り、寝台の上にペタンと座る。


 陛下はそのまま寝台の前で立ち止まった。明らかに戸惑っている。


「……ノア、どういうつもりだ?…………わっ!」


 ちょっと無礼かと思ったが、陛下の手を取り思いっきり引っ張った。陛下が寝台に倒れ込み、その隣にコロンと横になる。寝台の上、二人うつ伏せに並ぶ形になる。


「ごめんなさい、どうしても陛下とお話をしたくって」


「近づくな!俺は女とそういう空気になると……」


 ーーそこまで言って、陛下が息を止めた気配がした。


 たぶん、私渾身の変顔(白目)を見て固まっているのだろう。


 変顔で意表を突き、首絞めを回避する作戦。アホな自覚はある。


 だがもしや、成功か?!

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