進撃の社畜 ②
金属同士がぶつかり合う激しい音。耳をつんざく叫び声、雄叫び。指示を出す太鼓の音。
誰かが怒鳴り、誰かが泣き叫んでいる。
地面に倒れた兵士たち。地面には赤い水溜り。
まるで映画のセットの中に紛れ込んだような光景だ。
だがそれが紛れもない現実であることを、血生臭い風が突きつけてきた。
「ノア様、陛下はあちらです!」
サーラさんが指さす方向、ごちゃごちゃと入り乱れるその中で、一際目立つ2頭の馬が引く戦車。
目を凝らすと、血まみれの陛下とムトが見えた。戦車はあっちへこっちへ、ムトが馬を操縦し、陛下は剣を振り続けている。
「――陛下!陛下ーーー!」
声を張り上げたが、ダメだ。この喧騒の中では届かない。というか下手に邪魔したら陛下が危ない!
でも早く……早くマリの到着を知らせなければて……撤退する間も無く攻め込まれてしまうかもしれない!
はやる気持ちをどうにか鎮めようと、頭を使わねばと、呼吸を落ち着けようとしているとーー
突然、トントン。
横から肩を優しく叩かれた。
パッと振り向くと、横には馬に乗ったお供の兵。
ヘルメットを被り、鼻から下をマフラーのように覆っているが……
よくよく見ると、その琥珀色の目に見覚えがあった。
「……あれ? あなた、もしかして……」
その人はマフラーをクイっと下げる。
現れたのは、端正な青年のお顔。すぐにその口が開く。
「オウ、マデ……ハコ、ブ?」
「シャム君!? なんでここに?!……って、え、ずっとそばにいたの?!」
シャム君は優しく微笑んで頷いた。
サーラさんが振り返り、首を傾げる。
「びっくりしたぁ…………うん、シャム君、運んで! 陛下のところまで私を運んで!」
シャム君はまた頷いて、自分の前をトントン、叩いた。
「そこに乗れってこと?」
コクコク、シャム君が首を振る。
そしてグッと手を伸ばしてきた。
「ノア様? まさかあの中に行く気ですか?! バカなことはやめてください! 伝令なら私が……」
サーラさんが慌ててシャム君の馬から離れようと手綱を引く。
だが、シャム君が私の手首を掴み、思いっきり引っ張って――
私の体はスルンとサーラさんの馬から浮き、宙を舞い、シャム君の馬の上、シャム君の前に背中を向けて綺麗にストンと着地した。
サーラさんが呆気に取られている。
私もまだポカンとしている。
すぐさま腰にシャム君の片腕が力強く回された。振り向くと、相変わらずハンサムなシャム君のお顔、そして自信に満ちた声。
「ノア、ハコブ、ノ……トク、イ」
「シャム君に運んでもらうの、もう3回目だもんね。お代はあとでいい?」
シャム君が頷く。
「ありがとう。……シャム君、お願いします」
シャム君は、任せて、と言わんばかりに深く頷いた。
そして片手で手綱を引き、丘を猛スピードで駆け下りだした。そして馬の毛が赤みを帯び始める。……血糸馬だ!
「ノア様ーーー!!!」
後ろからサーラさんの悲鳴に近い声が飛んできて、シャム君越しに振り返る。
「大丈夫です! サーラさんは安全なところにいてー!」
今にも泣きそうなサーラさん。1人残していくのは胸が痛むが、今、それ以上に私の胸は高揚してしまっている。殺戮の場に向かっているというのに、こんなにも血が沸き立つような、そんな感覚に飲み込まれている。
自分にこんな一面があったのかと、なにより自分が驚いている。
変なアドレナリンが出まくっている。
吹き付ける風、血生臭い光景が目前に迫ってきて――
いっけーーー!!血糸馬!!
突撃だーーー!!




