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進撃の社畜 ①

 陛下たちを見送り、私たちもシッパルへ出発する。サーラさんと一緒の馬、後ろにピッタリに乗せてもらい、茶色の大地を進む。クイズ隊長が見繕ってくれた4人の兵が警護についてくれた。


「……どのくらいで勝敗が決まるのでしょうか」


 途中、川を渡る。渡し船に揺られながらサーラさんに聞く。


「そうですね、ラルサを攻めた時は半年ほどかかりました。エシュヌンナも歴史ある強国です。普通なら相当時間がかかりますが……ですが、今のバビル軍には勢いがあります。エラムも駆逐し、あのラルサをも征服したのです。陛下はますます賢くお強くなられているし、兵たちも育ってきています。私たちがシッパルに着くのと同時に、勝利を知らせる早馬が着くかもしれませんよ」


 サーラさんはバビルの勝利を信じて疑わない。

 

「……万が一、万が一ですよ? 例えばマリ軍が早く到着しちゃって、でも、ラルサからの援軍が到着しなくって、マリとエシュヌンナに挟まれてバビル軍が負ける……なんてことになったら……」


「そうなったらマリとエシュヌンナの同盟軍はバビルに侵攻するでしょうね。第一王子のディタナ様も亡くなったあとですから、陛下に万が一のことがあればイルナ王子がバビル王に即位します。それで同盟軍と戦うことになるでしょうけど、バビルに残留した軍だけで勝てるかどうか。他の都市もイルナに兵を貸すかどうか。

 

 ……もしバビルが負ければ我々も捕まり、奴隷にされるか慰み者にされるか殺されるか……。

 

 もしイルナ王子が勝てたとしたら、今度はイルナ派による内政の()()が始まります。反イルナ派は消されます」


 反イルナ派……養子を送り込み王位を乗っ取ろうとする、イルナ王子の家系に対抗する、イルタニさんやサーラさんたち。


 そして派閥争いに加わった記憶は全くないが、陛下の子を産む可能性アリとみなされた私も反イルナ派に分類されているのだろう。


「……ちなみにムトも『反イルナ派』なんですか?」


 サーラさんは難しそうな顔をする。

 

「微妙ですね。ムト将軍は『陛下の言うことは絶対』のお方なので、陛下が『イルナが次の王でいい』といえばそう考えますし、陛下が『自分の子が次の王だ』と言えばそれに従うでしょうね」


 確かに、ムトは陛下がいいならどっちでも良さそうだ。

 

「ムト将軍は部下の信頼も厚いですし、彼が完全にこちら側に来てくれれば心強いのですけどね」

 

「……ライルは? ライルは……陛下が良き王になることを望んでいましたけど、立場的には反イルナ派なんですか?」


 サーラさんはもっと難しそうな顔になる。


「ライル様は……正直わかりません。陛下とは親しくされていますけど、陛下のお子が次の王になるべきと考えているかどうかは……よくわかりません」


「そう、ですね……」


 ……あのクーデターがなければ。

 順調に陛下とマリカさんが結婚していれば、マリカさんが陛下のお世継ぎを産んでいるはずだった。


 その未来がなくなった今、ライルはお世継ぎについてはどう考えているのだろう。ラビのこと支えてやってくれ、とは言っていたけど……

 

 ……それで、肝心の陛下は?


 陛下は……自分の子が生まれれば、イルナ王子たちを排除したいと考えているのだろうか。本人に聞いてみなくては、わからない。

 

 とにかく、今わかっていることは……


「……つまり、イルナ王子が即位した時点で、反イルナ派の私たちはもう終わり、ということですよね……」


「そういうことです。陛下には必ず勝ってもらわなくてはいけませんね。そしてあとはお世継ぎですね!」


 サーラさんがにっこり、微笑んだ。

 

◇◇◇


 川を渡り、また馬で進む。


 途中、ゴロゴロ巨大な岩が転がる岩場を抜けている途中、遠く向こうにアリの行列のような一団が見えた。

 

 はためく旗、荷物を引く馬、武器を持った男たち。


「……軍隊だ!」


 抑えながらも緊迫感をはらむ兵の声に、皆一斉に岩場の陰に馬ごと身を潜めた。

 

 1人の兵が馬から降り身をかがめ、顔をのぞかせ様子を伺う。そして後ろを振り返り、小声で言う。


「……あの軍旗、マリ軍です」


「マリ?! もうきたの?!工作兵はなにしてるのよ!」


 サーラさんは声を荒げる。

 

 陛下はマリ軍の足止めをするため工作兵を派遣し、マリ軍が通るであろう船着場や水路を封鎖させていた。


 だが、今マリ軍がここにいるということは、上手くいかなかったということだろう。

 

「……あそこ!バビルの兵が捕まってます。引きずられて歩いてます!」


 兵が小さく指さす方向には、痛めつけられ、連行されるバビル兵の姿があった。


 内臓が縮みあがるような感覚に襲われる。


「…………サーラさん、ここから陛下達の向かうエシュヌンナまで、そう時間はかからないですよね」


「ええ……」


 サーラさんの顔も暗い。


「……もし、バビル軍がエシュヌンナを攻めている間に、マリ軍が到着しちゃったら……」


「バビル軍は……だいぶピンチです」


 真顔のサーラさんと目を合わせ、2人同時に頷いた。


「陛下に伝えなきゃ!!」



 ――来たばかりの道を全速力で駆け戻る。


 とはいえ血糸馬(チートバ)になれた私には少々物足りない速さでもある。


 急いで川を渡り終え、二手に分かれた。陛下の元に知らせに行く組と、渡し船をマリに出させないよう足止めする組。少しでも時間稼ぎをしたい。


 私とサーラさん、もう1人の兵で陛下の元へ向かう。ただひたすらに荒野を駆け抜けると、次第に空気を震わす音が聞こえてきて、心臓の鼓動が速まった。


「ノア様、すでに戦闘が始まっているようです!」


 サーラさんが息を弾ませる。


 小高い丘を越えると、一気に視界が開けた。


「――!!」


 眼下は戦場だった。

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