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ぜーんぶこの人のせい ②

「ごめんなさい、そこまでは聞いていなくて……」


「ディタナ君もかわいそうだよねぇ。第一王子なのにマリに追いやられて、挙げ句の果てには殺されて。哀れな子だよ」

 

 ダガンさんがやれやれ、と首を振る。

 私も何もいえず、下を向く。


 まもなく陛下の周りに軍の人達が続々集まってきた。そして兵の数や、武器の数、戦場の話をし始める。


 そんな話を横で聞いていて、腐ってもこの人たちは王や将軍なのだと、身に染みて理解する。「征服王」の名は伊達じゃない。

 

 場違い感がすごいので、サーラさんと一緒に部屋を出た。サーラさんは短くなった髪を寂しそうに見つめたのち、なにかスイッチが入ったらしく、お体を清ましょう!お体ピカピカに磨きますよ!と意気込んだ。

 

 確かにここまで沐浴するタイミングがしばらくなかった。早くサッパリしたい。


「ノア様が連れ去られて、陛下はずっと案じておられました。……ふふ、さっきなんて、ノア様ったら陛下に馬乗りになっちゃって! お2人すっかり仲良しですね!」


「い、いやぁ……久々にお会いできたので嬉しくなっちゃって……あ、サーラさん。さっき陛下が女の人に命を狙われていたの知ってます?」


「やだうそ、私が神殿瞑想タイムをやっている間に?」


 サーラさんの顔が青ざめる。


 陛下つきの女官であるサーラさんがいない時間にくるとは、あの女の人、運良く入り込めたものだ。


「そうなんです。無事でよかったですが……。犯人は陛下も隊長も知らない人でした。……でもその女の人は隊長さんから『体に力が入らなくなる媚薬』を受け取り、陛下に飲ませたみたいなんです。隊長さんは、彼女が薬の中身を知っているようだったから、渡してお部屋に通してしまったと……」


 サーラさんが顎に手を当て、眉間に皺を寄せる。


「あの薬ですか……昔からイルタニ様が陛下にお使いになる薬ですね。あの薬のことを知っているのはバビルの王宮の中でもごく少数……」


「となると、バビルの王宮の中に……外部に情報を漏らす人がいる……?」


「……もしや、私の二日に一度の神殿瞑想タイムのことも知っていて……私の不在時を狙った?」

  

「サーラさんのプライベートなことを知っている人って……かなり限られてくるのでは……」


 サーラさんがハッ!とした顔をしたが、すぐにブンブンと首を横に振った。


「まさか……まさかね……」

 

 私の脳裏にも、とある女性の名前が浮かんでいるがその名は口に出さなかった。


 滅多なことは言うもんじゃない。確証もないのに言うもんじゃない。


 2人無言で歩いていると、突然、女の悲鳴が聞こえた。サーラさんとふたり、目を見合わせて早足で向かう。


 声がしてきた奥の方の小さな部屋をこっそり覗き込む。

 

 その中では手足を縛られた先ほどの女が、バビルの下級達に尋問されているところだった。目を覚ましたのか。隊長はいない。


 女は部屋の真ん中に座らされ、時折棒のようなもので突かれ、叩かれて……私とそんなに歳は変わらなさそう。素朴な顔立ち、控えめな胸。茶色い長い髪に、この辺りには珍しい色白の肌。確かに私と間違えられてもおかしくはない。


 だが沈黙を貫き俯く彼女は、まだ上半身裸である。兵達の顔には下衆な表情が浮かんでいる。このままだと嫌な展開になるのは目に見えていた。


「……その女、なにか吐きましたか」


 サーラさんが姿を現し問いかけた。兵たちが慌てて振り返る。


「さ、サーラ様! い、いいえ、まだ何も。強情な女です。分かり次第ご報告にあがります。…………見ていて気持ちのいいものではないでしょう。あとは我々にお任せを」


「そうですか。……彼女は王の命を奪おうとした極悪人ですが、重要な参考人です。頼むから変なことはしないでくださいね。……ね、ノア様」


 サーラさんが言いたいことを全部言ってくれた。その横からひょっこり顔を出すと、兵たちは驚きながらもすぐさま膝をついた。


 捕らわれの女は顔を上げた。

 その目にはまだ光が宿っていた。

 そして彼女はつぶやいた。


「……これが……ノア……」


 呼ばれたので、彼女の前に歩み出る。


「そうです。ノアです。……あなたはどこから来たんですか。誰の指示で陛下を狙ったのですか?」


 彼女はニヤリと微笑んで、また口を開く。

 

「…………イケメンやな」


 やな。

 (なま)り?


 その言葉に、サーラさんの顔が青ざめた。


「……マリの人間ね、その方言。マリ王が送り込んできたのね」

 

 兵たちは手に持っていた道具を強く握り構え直した。


 それでも彼女は変わらず強気に微笑んでいる。


「私の命は王のもの。私の全ては王のため」


「……」

 

 ……この状況でまだ余裕を見せる彼女が、えらく不気味に感じられたし、


 かつてアーシャちゃんが一度だけ、「ええ夫婦やな」、なんて訛っていたことを思い出さずにはいられなかった。


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