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クイズラビオネア ①

「こっちへ来い」


 隊長が指で合図する。


 ひとり向かおうとすると、シャム君が手をギュッと握ってきた。顔を見上げると、「俺も一緒に行く」と琥珀色の瞳が言っていた。


 そしてシャム君はおじさんを振り返り、目で何かを語った。

 

「……わかった。シャム、確実に届けろよ。絶対にバレるなよ。飲み屋で待ってるからな」


 おじさんはスタスタと歩いて行った。


 シャム君に手を繋がれたまま、隊長以下数名に連れられバビル兵の休憩場所へ。外まで騒がしい声が漏れているその小屋に入るなり、ムワッとした男のにおい、アルコールのにおい、女の化粧のにおいに包まれる。


 兵達は酒を片手に、女を(はべ)らせどんちゃん騒ぎの最中だった。町を落とした祝杯でもあげていたのだろうか。


 束の間の享楽に耽る男達は、奇妙な来客に戸口を一斉に振り返る。


「隊長?……なんですか、その女々しい坊ちゃんと顔ぐるぐる巻きの坊ちゃんは!」


 酔っ払った男が声を張り上げる。


「クイズ大会の挑戦者だ。お前達、テーブルをひとつ空けろ」


 渋くてキリッとした声で隊長が言う。


 クイズ大会……??


 男達は指示通り、テーブルをひとつ片付ける。

 

 まっさらになったその席につく。すぐ隣の席にシャム君が座る。なんだなんだと、周りをぐるりと酒くさいギャラリーに囲まれる。


「……例のものをここへ」


 隊長がテーブルの向かい側につき合図をすると、3人の兵がそれぞれ服を持って現れた。それらはテーブルに横一列に並べられる。


「……これは女性の服ですか? どれも随分上等な服ですね」

 

「そうだ。これはこの町で押収した上等な女ものの服。この中の1着を、俺はこれから陛下とノア様に献上する。この中から俺がどれを選ぶか、答えてみろ」


「……つまり、陛下の好みの服を選べということですね?」


「そうだ。チャンスは一回。本物のノア様なら簡単だろ?」


 試すような笑みを浮かべる隊長。

 少し心配そうな顔をするシャム君。

 

 ――並べられた3着の服。


 1、赤いドレス。1番華やかな雰囲気だ。ツヤツヤかな素材、胸元に宝石が縫い付けられている。生贄大好きベレトさんが着たらよく似合いそう。色っぽい雰囲気がある。


「この赤いドレスが1番だな。華やかで、これぞ王妃!って感じだ。ラビ陛下の王妃となる方はやっぱり色っぽくなくちゃいけねーよ」


 酔っ払い達が好き勝手に語り出す。


 2、白いドレス。羊毛の素材感を全面に打ち出したシンプルなデザイン。柔らかく清純な雰囲気を演出できそうだ。


「白がいいに決まってんだろ。ノア様は太陽神シャマシュの神殿に現れたんだ。まばゆい光を象徴する白がいい」


 3、紺色のドレス。繊細な刺繍が施されている。華美すぎず、地味すぎず、ほどよい素材感。落ち着いた寒色の色味が知的さを感じさせる。


「紺だな。ノア様は色白なんだろ? 紺が1番白い肌に映える。それにこの慎ましい雰囲気がいいじゃないか」


「どれもとびっきりの逸品だぜこれは……」


 ギャラリーはあーだこーだと唸り出す。


「触ってもいいですか?」


「あぁ」


 隊長の許可を得て、ドレスを順々に撫でていく。撫で終えてすぐ、私の心は決まった。


 隊長はニヤリと口角を上げる。


「……さぁ、どうする。自称ノア様はどれを選ぶ?」


「真ん中の白いドレスです」


 即答すると、周りの取り巻き達がザワザワし始めた。隊長も眉間にシワを寄せる。


「……ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサー」


 隊長は揺さぶるような、鋭い眼差しを向けてくる。


 本当にそれでいいのか? 後悔しないか?――そう、問いかける眼差しだ。

 

「……その心は?」


 だが、私には自信があった。陛下の好みはこの白のドレスだという、絶対の自信が。


「……陛下は――」


 口を開くと、騒いでいたギャラリーが静まり返った。


 私は向かい合う隊長をまっすぐ見据え、答える。


「……陛下は、ふわふわしたものがお好きです。ふわふわ陛下なんです。この白いドレスはとってもふわふわしています」


「………………」


 誰もが何かを言いたげで、それでも沈黙を貫いた。

 

 そして隊長を――テーブルに肘をつき両手を組み、目を閉じ、祈るような動作をする隊長を――固唾を飲んで見つめた。


 その無音の時間は、永遠のように感じられた。

 静寂の中に、誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。


 そして、ついに。


 目を閉じたまま隊長が、その薄い唇を開き、沈黙を破った。


「…………正解、です。……ノア様」


 隊長の言葉に、誰もが歓声をあげた。


 ビールを掲げ、女を抱き上げ、なんかよくわからないものを投げ合って、男達は喜んだ。


「うおおおおおおおおおお!!!」


 ――よかった! これで平和的に陛下のもとへ行ける!


 隣のシャム君は、ふぅ、と肩の力を抜いた。


「ノーア! ノーア! ノーア!」


 ノアコールに席を立ち、いやぁどうもどうもと周りにぺこぺこ礼をする。


 いつの間にか、向かいに座っていた隊長がすぐそばでひざまづいていた。


「わ!隊長、びっくりした」


「ノア様。ご無礼をお許しください。……ラビ陛下がふわふわなものをお好みであること、確かにこれは陛下のおそばにいる者しか知りません。……よくよく見れば、白い肌、黒い瞳、コンパクトなお体。確かにノア様でいらっしゃる」


「やっとわかってくれましたか! よかった、とにかく早く陛下に会わせてください!」


 すると隊長の顔が急に青ざめた。


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