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〇〇しないと出られない部屋 ①

挿絵(By みてみん)


「……兄上……お姉さまはどうされたんです? なんであんなに端っこで項垂れているんです?……お姉さま、シッパルに来てからずっと『あのイケメンを拝まないと調子が狂う』って言っていたのに……。やっと兄上に会えたのに、どうしてあんな死んだ目をされているんです?」


「エシュヌンナにいく話をしてから……ああなった。ノアは戦のない国に生まれたと言っていた。気が進まないんだろ」


「あら。お姉さまは平穏な国でお生まれだったのですね。……もう、これでは婚礼の打ち合わせどころじゃないですね」


 シッパルの宮殿、大広間。


 王の訪れを祝し、豪華な料理がズラリと並べられ、楽しい音楽が奏でられる。


 そんな華やかな宴が始まっているものの、全く気が乗らない。少し離れたところでひとり座っている。陛下とイルタニさんのがこちらをチラチラ見ながら話しているのが聞こえてくる。聞こえてくるが、なーんにも話したくない。


 陛下は……自分の養女を嫁がせた国を、今度は滅ぼしにいく? 自分の養女の夫を……義理の息子の首を取りに行く? なぜ陛下はそんなことを?

 

 ……戦争反対。


「ノア、いい加減こっちに来い」


 痺れを切らしたのか、声を張り上げた陛下の顔は少し険しい。大人しく従いそばに行く。


「……すみません。どうしてもあまり気が乗らなくて。食欲もなくて。部屋に戻ってもいいですか」


「…………」


 陛下はムスッとしている。せっかくお迎えに来てくれたところ申し訳ないけれど、今はあんまり一緒にいたくない。


「……お姉さまは疲れが出たんでしょう。ゆっくり休んでください。でもお姉さま、ごめんなさい、兄上がこんなに大行列でいらっしゃるとは思わなくて……部屋が足りなくなってしまいました。今晩は別のお部屋でお過ごし頂きます。……兄上も一旦、お姉さまをお見送りしましょう。どうぞこちらへ」


 イルタニさんに案内され、陛下と絶妙な距離を保ちながら宮殿の奥の部屋へ。松明の火がゆらゆらと揺れるだけの暗い部屋の中に入る。


「簡素なお部屋ですみません」


「全然! お気になさらず……」


「ゆっくりお休みくださいね」


 申し訳なさそうに謝り、そっと部屋を出るイルタニさん。それを見届け、中にポツンと置かれた大きめな寝台に腰掛ける。


 すると陛下が話しかけてきた。


「……ノア、エシュヌンナは……」


「陛下はどうぞ宴を楽しんできてください」


 つい、何か言おうとしていた陛下を遮ってしまった。


 陛下はしばらく無言で私を見て、諦めたのか部屋を出ようとした。


 ……その時。


 バタン。……ガチャ、ガチャン。


 木製のドアが外側から勢いよく閉められた。


「…………? おい、なんだ。ドアを開けろ」


 陛下がドンドン、戸を叩く。

 すると外側から、


「……兄上!申し訳ございません!」


 イルタニさんの声。


「イルタニ?」


「ご無礼をお許しください。これも全て兄上のためなのです」


「なんの話だ!」


「兄上とお姉さまがお世継ぎをこしらえるまで、お二人はここから出せません!」


「あ?!」「え?!」


 陛下と2人、目を見合わせる。

 エメラルドの瞳が揺らいでいる。


「お二人とも、早く仲直りしていい感じにしちゃってください! エシュヌンナ攻めはそのあとです!」


「……イルタニ……!!」


 陛下がふいっと目を逸らし、憎々しげにドアをバンバン叩いた。でも外側から(かんぬき)かなにかで固く閉ざされていて、開く気配はまったくない。

 

 私も立ち上がり、ドアに向かい声を張り上げる。


「イルタニさん……!そんな無茶なこと言わないでください!」


 だがイルタニさんは悲痛な声をあげる。


「お二人はお分かりになっていないのです!強力なバックを持たない私たちが……今、どんなに危険な状況にいるのか!……戦に行く前に兄上にはお世継ぎをご用意いただかないと……万が一のことがあれば、イルナが王位を継ぎ、王子派が権力を握り、正当なる王の血筋が侵略されるのです。そしてすぐに私もサーラたちも殺されます! もちろん、お姉さまも!」


「そ、そうなんですか?!」


「イルナ派にとって私たちは目の上のたんこぶ! 消されるに決まっています。ですからお姉さま、ちゃっちゃとお世継ぎお願いします!そして現王子たちを全て排除するのです!」


「イルタニ、いいから戸を開けろ!」


「……私は今まで兄上のもとに数多の女性たちを送り込んできました。寝込みを襲わせもしました。媚薬を盛り兄上を発情させようともしました。でも兄上はすぐ首を絞めてしまう! 女をお抱きにならない!……でもその兄上の暴走を、お姉さまなら止められます。兄上のお子を産めるのはお姉さましかいないのです! 早く仕込んでください!」


「そそそそう言われましても!!」


 扉の向こうの美女のとんでもない所業に衝撃を受けつつ、チラリと陛下を見る。


 陛下は深くため息をついていた。そして私の視線に気づいたのか、遠慮がちに視線を向けてきた。


「……イルタニは昔から頑固だ……こうなるとテコでも動かない……」

 

「イルタニさん〜〜」


「……それに、約束の1週間は経った」


「あ…………げっ」


「げってなんだ」


 そうだ、陛下に同衾猶予を1週間もらっていたんだった。シッパルでぬくぬく暮らしている間に猶予期間はとっくにすぎていた。


 陛下がじっとり、見つめてくる。暗闇の中で、チラリと光るエメラルド。直視できずに目を逸らす。


「……ノア……この部屋から出るにはこうするしかない。お前も閉じ込められるのはいやだろ?」


 

「……そ、そうですけど……」


 ジワリジワリと陛下が近づいてきて、ソロリソロリと後ずさる。でも踵が壁にぶつかって、ついに追い詰められたことを知る。


 ドン!――伸びてきた陛下の両腕に壁際に閉じ込められ逃げ場を失う。壁丼。あーカツ丼食べたい。一瞬現実逃避。目線を上げられないが、すぐ目の前には陛下のお顔がある。


「あの、陛下……」


「……こんなに近づいても……衝動に襲われない……」


 吐息混じりの陛下の声が、しっとり耳元で響く。

 

「……抱けないなら女なんてどうでもいいと思っていたが……お前となら……」


「陛下、でも……あっ!」


 突然、陛下に抱き上げられた。そのまま寝台に移動し、その上に優しく下ろされる。

 

「待って、陛下」


「待たない」

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