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ライルのお手軽クッキング

「まぁ、気になるよな。嬢ちゃんの気持ちはわかる。でもな、もういいんだ。過ぎたことだ。過ぎたことは振り返らない。ということで、甘いもんでも食いに行こうか」


「前に陛下に聞いたけど、その儀礼のためにライルは飲まず食わずで、長い長い呪文を唱えて大変そうだったって。そんな大変な思いまでして、ライルが蘇らせたかった人って誰なの。どんな人だったの?」


「俺の話を聞けー」


「聞いてる!教えてほしいの!」


 するとライルは腕を組んだまま、グイッと顔を寄せてきた。そして耳元でゆっくり、艶かしい声で囁きだす。


「嬢ちゃん……そんなに知りたいの? 俺のこと」


 イケメン!近い!目の前の厚い胸を両腕で押し返す。


「お、教えてくれなきゃ陛下に言うよ。ライルは陛下に嘘ついて全然違う儀礼をやってたんですって言っちゃうから。脅しじゃないからね!本当に言っちゃうよ!」


 するとライルは私の腕を掴み、ヒョイと浮かせて引き寄せて、頭に顎を乗せてきた。


「わ!……なに顎でグリグリしてんの」

 

「嬢ちゃんは本当に言いそうで怖えーな。……確かに俺は、『王妃に相応しい女を召喚する儀礼』ってラビに誤魔化して、『死者を蘇らせる儀礼』を勝手にやった。でもな、その儀礼には王から神への捧げ物が必要だったから仕方なかったんだ。本当のことを言ったら……ラビはやりたがらなかっただろうから」


「なんで? 陛下はその人を蘇らせたくないの?」


「たぶんな」


「たぶんって!だからって陛下を騙すなんてヤバいよ。……あ、そうだ。陛下に事情を話してさ、また儀礼をやりたいって頼んでみようよ。意外とすんなりOKしてくれるかもしれないよ。それでまた死者蘇生チャレンジすればいいじゃない」


 顎でグリグリし続けてくる、頭上のライルにご提案。だがライルはふーと長く、ため息をつく。


「……蘇ったのが嬢ちゃんだって知ったとき、話しがちげーじゃねーか!!って……あん時は腹立っちまってさ……儀礼文書、床に投げつけちまった。んで粉々に割れた。だからもう無理」


「えーーー!!」 


 貴重な文書を!なに破壊してるんだこの人!

 粘土板文書は衝撃に弱い。


「ま……いいんだよ。死んだ人間を蘇らせるなんて世の真理に反してる。あんなのはこの世から消しちまったほうがいいんだよ。……さ、つまんねー話はそんくらいにしてさ!……あ、そうだ。占い好き? 俺が嬢ちゃんの未来占ってやるよ!」


「なんで急に??」


 突然インチキくさいことを言い出す神官に、隣でずっと黙り込んでいたアーシャちゃんがキラリと目を輝かせる。


「ノア様!せっかくだからやってもらいましょう!ライル様に占ってもらえるなんて、とってもラッキーなことですよ!」


「え、そうなの?」


「そーだよ嬢ちゃん。俺の占いは国の命運をも左右する。占いで、ーーラルサを攻めろーー っつー神のお告げをもらったのも、この俺な」


「なにそれ!占いでそんな大事なこと決めちゃうの?!」


 顎を離したライルは、フフンと自慢げな顔をする。


「そーよ? 占いは神の意思の表れだからな。な、せっかく神殿に来たんだしよ。占ってやるよ。ほらこっちこっち!」


「きゃー!行きましょノア様!」


「…………」


 ……この人いつもこうやって女の人口説いてるのだろうか。占い好きな女の人多いし。占ってやるよって巧みに誘って、ホイホイ連れ込んでるんじゃないだろうか。


 そんなチャラ神官に腕を掴まれぐんぐん引っ張られ、建物の中へ入る。


 ーーとある部屋についた。だがそこは、大きな傷だらけの木製テーブルがドーンと置かれ、部屋の隅に箱がいくつか置いてあるだけの実に簡素な空間だった。


 占いといえばの水晶玉もないし、タロットカードとかもなさそうだし、ここが占う場にはとても見えない。


「こんなところで占うの? 占いってどうやるの?」


「まぁ見てなって。簡単だからさ。まずは……」


 ライルが隣の部屋に入っていって、何かを両腕で抱えて、帰ってくる。


 それは白くて、まあまあ大きく、なにやら動くモノで……


 メェェェェ〜〜


「新鮮な子ヤギを1匹用意する」


「全然簡単じゃない!!」


 ライルは白いヤギさんを1匹、ドン!とテーブルに寝かせて置いた。


「本当は最初に祭壇で捧げるんだけど、今回はまぁ省略な。嬢ちゃんたち、ちょっとテーブルから離れてな。そんで次に……」


 ライルがまた隣の部屋に入って、なにやら細長いものを取ってきた。


 それは腕の長さほどある、鈍く光る、鋭いモノで……


「この刃物でヤギを殺して内臓を見る」


「どこが簡単なの!!!」


 思わずシャウトした直後、ライルがブン!と刃物を振り下ろし、グシャア!と、哀れヤギさんが動きを止めた。ドクドク赤い血がテーブルから流れ出し、床にピチャピチャ垂れ始める。


「そんで見たいのは……肝臓!肝臓を取り出す」


「……かん……ぞう……」


 返り血を浴びながら、まるで料理でもするかのようにヤギさんの体を切り開くライル。切った場所に手を突っ込んで、中からなにかヌメヌメしたものを取り出して、右手で掲げてじっくり見始める。


「これこれ。あー……これ見たことあるな。この腫瘍……なんの印だったかな……たしか()()()……()殿()……アーシャ、そこの箱の中から肝臓模型とってくれる?」


「はい!えっと……沢山あるわ。どの模型かしら……」


「……あ……私もうだめ……」


「……ノア様?……ノア様!ノア様が倒れた!!」


「お、おい嬢ちゃん!」



 ――目が覚めたらすでに夜で、私は寝台で横になっていた。ずっとそばにいてくれたのか、お疲れ顔のサーラさんとアーシャちゃん。申し訳ない。私は自分が注射を受けるところも見れないくらい、血が苦手なのだ。


 まったく、ヤギさんの肝臓を見て占うとか……それで神の意思がわかるとか……どうなってんだこの世界。#文化が違う

 

 それに!大事なことをライルに聞き損ねてしまった。


 翌朝、あまり気が乗らなさそうなアーシャちゃんと共に、再びライルを訪れる。


「それで、ライルは誰を蘇らせたかったの?」


「嬢ちゃん……ムトよりしつけーな……」


 結局、どんなに粘ってもライルは教えてくれなかった。

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