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やっぱり文化が違う ②

「……ひとつ聞きたい。あなたはあの神官……ラルサの神殿で例の儀礼を実行した、あの色白の神官の……なんなの?」


「?……あ、ライルのこと?……あなた、儀礼のことを知っているの?」


「私はラルサの神殿の女神官(ナディートゥム)でもあったから。それで、あの男の恋人かなにか?」


「いや、恋人とかそんなものでは……ラルサに来て、初めて知り合ったばかりだし……なんで? どういう意味?」


 王女がかすかに微笑んだ。


「……そう。やはり儀礼は失敗していたのね。知らない女、しかもこんな世間知らずな女が(よみがえ)ってしまうとは……あの神官こそ真に哀れ」


 王女の話す、その言葉の意味がわからない。


「……どういう意味? (よみがえ)る? なんの話?」


 王女は少し目を細める。


「何も聞いていないのね。あの神官あなたに何も言っていないのね。いいわ、哀れみの礼に教えてあげる。ラルサの大神官が殺される前、密かに私に教えたの。あの神官が実行したのは『死者を蘇らせる儀礼』だと。あなたはそれで蘇った死者なのよ」


「へ?」

 

「何も知らないのね。笑えるわ」


 そう言ってシェリダ王女は本当にケラケラと笑いだした。ケラケラケラケラ、面白そう。

 

 私の思考回路はフリーズした。


「……ちょっと!なんの話よ。死者だなんてノア様に失礼よ!ノア様は『神からの贈り物』。そんなおぞましい儀礼でここにいらしたのではない!」


 隣のアーシャちゃんが声を荒げる。


 でもシェリダ王女は楽しげに、挑戦的な眼差しを私に向けてくる。

 

「死者を蘇らせる禁忌の儀礼をしたなんて、人にはとても言えないでしょう。あの神官は周りを……王すらも騙して強行したのよ。それなのに儀礼は大失敗。あの儀礼は難しく、今までも望んだ死者を蘇らせた成功例はほとんど無いくらいだから。あはは、可哀想に。本当はあの神官……あなたではなく、誰を蘇らせたかったのかしらね」




 ーーその後、アーシャちゃんに引っ張られ、何事もなかったかのように部屋に戻った。少ししてからサーラさんと合流し、隣の都市に帰るイルタニさんを見送った。


「もう少しゆっくりしたかったのですが、神殿の仕事が溜まっているので帰らなくては。……サーラ、アーシャ。兄上とお姉さまを頼みます」


「もちろんです!こちらのことはお任せください。イルタニ様、気をつけてお帰りください」


「ありがとう。それではお姉さま、また近いうちにゆっくりお話ししましょうね」


「はい。ぜひ」


 イルタニさんはにっこり可憐なスマイルを浮かべて、お供の人たちと共にバビルを出て行った。


 その晩の宴はお休みさせて頂いて、夜も1人で寝させてもらって。


 ーー翌朝。


 ◇◇◇


「ねぇライル、本当は誰を蘇らせたかったの?」


「ぶっ」


 王宮のお隣に位置するエサギラ神殿。その中をぶらついていたライルを捕まえ話しかけると、美形な神官は勢いよく吹き出した。


「じょ、嬢ちゃん、アーシャも……急になんの話だよ」

 

「ライル様、誤魔化しても無駄ですよ。ノア様がラルサの王女から聞いたんです」


「ライルがやった儀礼、本当は『死者を蘇らせる儀礼』だったって聞いたよ。なんか難しい儀礼なんだってね。成功例はほとんどないんだって。ライルも失敗しちゃって……私が蘇っちゃったみたいだけど」


「あー…………あぁ……うん……」


 ライルは額に手をあて、参ったなという顔をする。


「……まぁ、知っちゃったなら仕方ねーな。……まずよ、あの儀礼が『死者を蘇らせる儀礼』だったってこと、知ってるのは俺と……死んだラルサの大神官だけのはずなんだ。ラルサの王女が知ってるとは思わなかった。つーことで、これラビも知らねーから人に絶対言わないでな」


「ふぅん、やっぱりそうなんだ。……なんか……ごめんね。ライルはきっと、誰か大切な人を蘇らせたかったんだよね? 知らない女が来ちゃってショックだったでしょ。なのに……私を気遣ってくれたんだよね? 『異世界から召喚した』なんて嘘ついて……」


 力なく呟いた言葉にライルは驚いた顔をして、でもすぐに優しい顔になり、頭をヨシヨシ撫でてきた。


「嬢ちゃんが謝ることじゃない。あの儀礼は失敗した、なんて今はちっとも思ってない。嬢ちゃんが来てくれてよかったと思ってるよ、マジで」


「ライル……」


「それに嬢ちゃんを召喚したことは嘘じゃない。確かに俺は……蘇らせようとした。でもあの呪文長過ぎて何回か噛んじまってさ。あの儀礼、ちょっとでもミスると時空が歪んでねじれてうんちゃらかんちゃらでなんか別の世界からそれっぽい人が召喚されることになってるらしいんだよな、知らんけど」


「…………」




 雑……


 ライルの説明も、儀礼の仕様も全てが雑……





「だからな、嬢ちゃんが召喚されたことは確かなんだ」


「……つまり、死者蘇生をしたかったライルが呪文を噛んだから、なんでだか私が巻き込まれてここに来た感じなのね……」


「そーだな!まーでも、儀礼の詳しいことは俺も知らねーんだ。儀礼終わった後にラルサの大神官に詳しく話聞こうと思ったんだけどさ、あのオッサン、俺が儀礼やったって聞いたらキレ始めてさ。あの儀礼は禁忌だ!決して行ってはならなかった!ってすげーキレ散らかしてさ。んで怒りすぎて死んじゃったよ。真相は闇の中だ」


「怒りすぎて死んじゃったとは??」


「そのまんまだよ、憤死憤死(ふんしふんし)


 憤死だなんて単語、ボニファティウス8世以外に使う場面があるのだろうか。

 ※フランス王と争って負けて怒って死んじゃったローマ教皇



「……それで、ライルは誰を蘇らせようとしていたの?」


 無駄に顔のいい神官は、腕を組み、空を見上げる。

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