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第二の人生が始まりましたが…

 ――陛下と別れ、不機嫌そうなムト将軍に連れられて、

「陛下がついに王妃様を選ばれたわ!身支度なら我々にお任せを!」と謎に意気込むエキゾチック美女達に引き渡され、

入浴をさせられ、身体中にオイルのようなものを塗り込まれ、

そして今、着せ替え人形となっている。

途中から深く考えることと羞恥心は放棄した。


「ノア様、こちらの衣装もよくお似合いですよ!これはウガリト産ですが、先ほどのはシッパル産。どちらがお好みでいらっしゃいます?」

 

「ど、どっちでも大丈夫です……」


「ではこちらにしましょう!ノア様の白いお肌がよく映えますから。それにしても雪のように白い肌!」


「ブルベ冬なので……」

 

「そういえばこの黒いお召し物……『スーツ』とおっしゃいましたっけ? とても不思議な素材ですね。産地はどこですか?」


「A○KIです……」


「A○KI??聞いたことないですわ」


「ノア様は神からの贈り物なのだから、私たちが知らない世にも珍しい品々をお持ちで当然よ」


「そうでした。ノア様のあのドラマチックなご登場!私心臓止まるかと思いました!」

 

 キャッキャと楽しそうに着替えさせてくるこの美女2人組は、私が神からの贈り物だと心の底から信じているようだった。


 私もまだこの状況がよくわからないし、面倒くさいからそういうことにしておこうと思う。


 このボン・キュ・ボンな美女達はラビ陛下の女官だそうだ。こんなセクシーな人たちが近くにいたら男の人はたまらないだろう。……もしかして、陛下のお手つきだったりするのだろうか。


「やだノア様、私たちお手つきではないですよ。陛下は国中の女が憧れるお方ですけど、女性には非常に奥手なのです」


「心の中読みました……?」


「ふふふ。お顔に書いてありました。ノア様はとても素直な方ですね」


 そういってニッコリ微笑む女官長、サーラさんというらしい。歳は私より少し上くらい、カールのかかった黒髪に琥珀色の瞳がなんとも魅力的なお姉さまだ。


 もう1人はアーシャちゃん。おそらく10代後半で、子猫のような雰囲気の女官さん。


「でもやっと陛下が……ついに王妃さまをお見つけになった。やっとだわ。やっと。ここまで本当に長かったわ」


 サーラさんが私の髪をとかしながらしみじみと呟いた。いつの間にか私はすっかり、アラビアのお姫さまといった風貌に変身していた。


「……ラビ陛下って独身なんですか?」


「側室方がいらっしゃるのですけど、なかなかお通いにならないし、もう20代も半ば過ぎたのに血を分けたお世継ぎもおつくりにならなくて……。

 でもそんな陛下がついに!自ら王妃を娶ると仰ったのです!この機を逃す訳にはいきません。なんとしてでも逃せません!ノア様、陛下のお世継ぎ!お世継ぎをお願いいたします!」


「え?!い、いやぁ……??」


「王家の安定は国の安定!しっかりご寵愛が受けれますよう、念入りにお体をお手入れしておきましょう!それにしても肩こりがすごい!」


「デスクワークばかりだったもので……」


「ですくわーく!とにかくお世継ぎです!!」

 

 サーラさんたちが鼻息を荒く気合を入れている。


 ……王妃。社畜より王妃の方が遥かに魅力的な響きなのは間違いない。とはいえラビ陛下のこともこの世界のこともよくわからない。わからないことだらけの世界で、王妃だ!わーい!と単純には思えない。急に革命とか起こったら嫌だし……


 だからといって安易に逃げ出すこともできない。知らない土地、知らない人、知らない文化。なにもわからない状態で何にも持たずに逃げるなんて私には到底無理なことだ。

 

 私はこの世界で、一体どうすべきなのだろう。


  ――ここにくる前の私は、ひたすら仕事、仕事、仕事だった。自由人だった父は早くに亡くなり、母とは絶縁状態。彼氏は私の社畜っぷりに愛想を尽かして離れていったし、友達にだって長らく会っていない。自分で言ってて悲しくなるが、私がいなくなって悲しむ人は職場の人以外にいなさそうだ。


 あぁ、こんなことになるなら仕事をちゃんと引き継いでおきたかった!係長、ごめんなさい!


 ……とはいえ過ぎてしまったことは仕方ない。諦めて前を向こう。これはきっと社畜ライフを耐え忍んだご褒美だ。第二の人生をもらったと思い、存分に楽しませてもらおう。イケメン王とのキャッキャウフフな王妃ライフを楽しませてもらおう!

 

 そのために私が今、できること……

 

 まずは情報収集だ!


 何をやるにも情報が必要だ。仕事でもそうやってきた。


「……サーラさん、私、実は……神(?)のお力でここにやってきたのですけど、まだ状況がよくわからなくて……。どうか新参者の私にこの世界のことを教えてくれませんか?」


「あら!ノア様、もちろんです。そうですね、まず……陛下は偉大なる都市・バビルの王でいらっしゃいます。幼い時より王でいらっしゃる陛下は、神の御心にお応えし、各地に自ら遠征をされております。


 ここ城塞都市・ラルサもそのひとつ。陛下は半年ほどでこのラルサを攻略されました。そして本日、祝杯を捧げるため神殿(ジッグラト)に登られた時、頂上が光に包まれ、ノア様が現れたのです!

 

 ……これから少しの間、我々はこの征服したラルサの王宮に滞在します。あ、ラルサの王族はみな追い出し捕えておりますからご安心を。それから一週間ほどかけてバビルへ凱旋いたします。帰ったら陛下とノア様のご婚礼ですよ!」


「…………な、なるほど……」


 いきなり情報量が多くて頭がパンクしそうだが、つまり……バビル王ラビは征服戦争に明け暮れている、と。今いるこの場所は、征服した都市ラルサの王宮である、と……。



 めちゃくちゃ戦乱の世だった。



「……陛下のお力をもってしても、このラルサ攻略は大変でした。ラルサは非常に歴史ある、強靭な城壁を持つ都市ですから。……ですから陛下は、ラルサを攻める前に周辺の都市や遊牧民族を懐柔し、強力な同盟軍を組織したのです。この戦略手腕、見事としか言いようがありませんわ」


「あぁ……思ったより戦乱……!!」

 

 これは王妃ライフを楽しまなきゃ!とか言ってる場合じゃないかもしれない。征服戦争? 同盟軍?!……第二の人生、とんでもなく波瀾万丈な世界に来てしまったようだった。


 いや、見るからに「将軍」がいる時点で、早く気づくべきだったのだ……。


 諦め。人生諦めが大事。


「……それにしてもここからバビルまで一週間もかかるのですね。車とか電車は……なさそうだし、やっぱり歩きで行くんですか?」


「えぇ。今回の遠征は私たち女官も付き添うほどの大所帯でしたから!……と、その前に陛下とご夕食です。まだ少し時間がありますけど、王宮内を見られますか?」


「あ……はい!そうしたいです!」


 すぐに警備の兵が来て、サーラさんたちとズラズラ王宮内を歩くことになった。


 それにしても見るもの全てが新鮮だ。土色の煉瓦造りの建物、人々の艶やかな色黒の肌、中近東味を感じるエキゾチックな装い。先ほどの戦乱話がなければまるでテーマパークにでもいる気分を楽しめていただろう。

 

 そういえばこの都市、征服されたとサーラさんが言っていたけれど、王宮に限って言えばひどく荒らされたりはしていないようだ。戦争といえば普通、略奪とかするものじゃないのか。


「王宮内、とっても綺麗ですね。財宝を奪ったり……とかはしないのですか?」


「えぇ。陛下はこのラルサに寛大なお心を示されました。王の土地や財産は没収しますが、市民たちにはこれまでと変わらない生活を保証されるそうですよ。総督を置き、しっかり統治されるそうです」


「ほほぉ……」


 感心しながら見回っていると、王宮内の中庭のような場所に出た。

 

 綺麗な庭だなぁと思ったのも束の間、見すぼらしいお爺さんが両手足を大の字に壁に鎖で繋がれ、項垂れているのが見える。


「?!あ……あれはなに……誰ですか?!」


 出会ってからずっとニコニコしていたサーラさんが、途端に険しい顔になる。声も低くなる。

 

「あれはラルサの王だった男です。敗北寸前、密かに逃亡した恥知らず。ムト将軍が捕えました。見せしめであそこに繋がれています」


「…………」


 何も言えなかった。


 つい先刻までここで「戦争」がされていたという事実が、急に生々しく感じられてきた。背中がゾクリとした。


「……さ、ノア様、もう戻りましょう。冷えるといけません。なんといったって、今宵は陛下とノア様の記念すべき初めての夜なのですから!」


「はじめてのよる」


「はい!」


 サーラさんがニコニコ顔に戻っている。

 はじめてのよる。


「い、いや……ま、まだ婚礼前なのに?!」


「陛下がご所望なのです!あの女ぎら……ううん、女性に奥手な陛下が!……ふふ。ノア様緊張されているのですね。でも大丈夫ですよ。思い浮かべてください、陛下のあの美しいお顔、魅力的な男らしい肉体!あんな殿方に愛されるなんてうらやましい。素晴らしいことですよ!」


「や、まだ心の準備が」


「さぁ!ご夕食に行きましょう!しっかり精をつけて、お世継ぎです!」


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