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修学旅行の夜 ②

「きゅ、急になに!」


 陛下の眉がピクリと動く。


「こんないい男たちに囲まれて、何も思わねーってわけじゃねーだろ?」


「う、うわぁ……」


 この神官様はご自身のお顔にたいそう自信があるらしい。


「あー? そーだろ? 俺は神官だってのにモテちゃうし、ムトは黙ってればまぁいい顔だろ。ラビは言わずもがな、あの癖さえなけりゃあなあ」


「ライル……」


 陛下がジロリとライルを睨む。


「あー……はいはい。それで嬢ちゃん、もといた国で好きな男はいなかったのか?」


「え?!ま、まぁ……ぼちぼちだよ」


「なんだよぼちぼちって。嬢ちゃん教えて」


 陛下も興味があるらしく、ずいっと身を寄せてくる。ムトはどうでもよさそうだ。


「好きというか、憧れというか、そんな人はいたんだけど…………私の上司。仕事ができて、部下への気遣いもできて、スタイルも良くてかっこよくて。とにかく素敵な人!だったんだけど……でも既婚者だったの。だから片想いで終わっちゃった」


「そんなの寝取ればいいじゃん」


 さらりとそんな事を言うこのイケメンは、そう、神官。神に仕えるお方である。


「…………何言ってるの……だいたい職場内不倫なんて最悪だよ。ダメダメ」


「えー? 別によくねー?」


「よくない」


 耳元でヘラヘラするライルを半目で睨んでいると。


「……なぁ、その男が『カカリチョー』か……?」


 振り向いたらラビ陛下がとても凄みのあるお顔をされていた。あまりの圧に思わず目が泳いでしまう。


「あ……はい……私、時々口走っちゃってましたよね。すみません、辛い時につぶやく口癖みたいなもので……」


「口癖? 好きだった男の名が口癖?」


 陛下が黒いオーラを発し始める。見るからに機嫌が悪くなっていく……!


 そりゃそうか、陛下と仲良くなりたい!と言っておきながら、昔好きだった人の名前ではないけどが口癖だなんて……失礼にも程がある!

 

「あっ、陛下……ごめんなさい!もう係長は言いません!」


「そういえばいつだか、寝言でカカリチョー!と絶叫していたな。そんなに好きだったんだな」


「ちょ……!ちょっとムト!今余計なこと言わないでよ!」

 

 こっちが必死に取り繕っているのに、ふむふむ、と頷き空気をぶち壊してくるムト将軍。さっきまで全然興味なさそうだったのに突如殴り込んでくる破壊神。


 おかげで陛下の黒いオーラが濃くなった。


「へ、陛下……あの、気を悪くしたらごめんなさい……」


「…………」


 陛下の唇が尖っている!この人、結構感情が顔に出る!


「こ、これからは口癖『陛下』にします!辛い時は陛下って言うようにします!私が今、仲良くなりたいのは陛下ですので!」


 陛下の目がまた丸くなって、それからどこか照れたような顔になる。でも一瞬でふい、と横を向かれてしまった。照れ隠しかな。


「おぉ、嬢ちゃん積極的……にしてもえらいよな、ラビは形だけの夫婦でいいって言ってるのに、嬢ちゃんはちゃんと仲良くなろうって頑張ってなぁ。えらいえらい」


 ライルがテキトーに手をパチパチさせる。だが、そんな偉いことじゃない。


「……形だけの夫婦だなんて、つまらなくて……虚しくて、ストレスなだけだから」


 ポツリというと、ライルはわからんのぉという顔をする。


「そうかー? 下手に関わって首絞められるよりよくね?」

 

 陛下がライルを睨む、睨む睨む。


「……私の両親がそうだったの。形だけの夫婦。私の前では夫婦を装って、裏ではお互い罵りあってた。なんなら浮気してた。だから家の中はいつも緊張状態で、居心地が悪かった。そんな状態が長く持つわけなくて、結局父は家を出ていっていつのまにか死んでて、母は発狂して病んじゃった」


 ボソボソ話すと、陛下もライルも、あのムトまでもが憐れみの目を向けてきた。


「……まじか。嬢ちゃん……大変だったな……」


 話してみるともうすっかり過去のことなはずなのに、胸焼けするような感覚が波のようにやってくる。

 

 でも、いい機会かもしれない。陛下にはちゃんと伝えたい。


「だから……陛下は『神からの贈り物』として私を利用したいだけだとわかってはいるんですけど、でも、やっぱり形だけの夫婦はいやだなって。本物の夫婦にはなれなくても、せめて安心できる仲にはなりたいなって……


 陛下も嫌な相手と無理やり仲良く振る舞うより、気の知れた相手との方がストレスも少ないでしょ? 私たち、この1週間ほどでだいぶ知り合えたかな、とは思いますが……


 ……すみません、上手く言えないな。だからその、つまり……もっと陛下と仲良くなりたいんです。ですので……引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします」


 寝台の上に正座し、ぺこりと頭を下げる。

 陛下は少し目線を下げて、こくりと頷いた。

 

「……お前の考えはわかった。……そうだな。仲良くなる。……お前と。努力する」


「陛下!ありがとうございます!」


「仲良くなって、そのあとはお世継ぎ作っちゃうの?」


 喜んでいたら、ライルがセクハラ発言と共に、私の腰に手を回してきた。


「うわっ」


「ライル、ノアに気安く触るな」


 陛下がライルの頭を押しのける。私も思いっきり下劣な生物を見るような目を向けてやる。


「そういうのセクハラって言うんだよ。私の国だったら大変なことになってるんだから」


「えー? でも俺だって嬢ちゃんと仲良くなりたいんだぜ? ラビとだけズルくね?」


「ノアはお前が俺のために召喚したんだろ」


「そーなんだけどさぁ。でもなぁ、嬢ちゃん色々慣れてなさそうだし、なんなら俺が手取り足取り……」


「アンタが絡むとロクなことにならないだろ。ここに来る道中も下級女官がアンタをめぐって言い争っていたと聞いた」


 ムトがそう言うとライルがジロリ、余計なことを言うなと目を向けた。


「ライルって……やっぱりチャラかったんだ……」


「ちげーよ? 俺は女の子に優しいだけ。紳士なの」


「どこが紳士?? 紳士っていうのはラルサに残ったシンさんみたいな人をいうんだよ。爽やかで癒し系で、優しくてかっこよかったよ」


 何気なく放ったその言葉が引っかかったのか、3人が一斉に振りむき、目をぎらつかせ睨んできた。

 猛獣3体に睨まれる気分。怖。


「……な、なんですか……?」

 

「ノア、お前は何も分かってない」

「マジでなんも分かってねぇよ嬢ちゃんは」

「男を見る目がまるでないな」


「3人揃って……なんなんですか……シンさんが何したって言うんですか〜」


 3人は目を見合わせ、頷きあう。


「シンはあぁ見えて……女たらしだ」

「そーそー、あんなに善人っぽい顔してやることやってんだぜ」

「俺の部下もシン殿に妻を取られたと言っていた」


「う、嘘でしょ……」


 シンさん……!私の癒しのシンさん……!

 あんなヤックルみたいな雰囲気なのに、人は見かけによらないものだ。


「シンは仕事はできる。非常に優秀な男だ。信頼はしているが……」

「いやー、俺は嫌いだね。あの貼り付けたような微笑みフェイス!」

「軍の中にまで女絡みのいざこざを持ち込まれるのは困る。俺もシン殿がラルサに残るのは正直ありがたい」


「……まさかシンさんがラルサ総督に選ばれた理由って……それ?!」


「そーよ」

「ちげぇよ」


 ーーシンが優秀だからだ、とフォローする陛下。でもライルは陛下の頭をクシャクシャ撫で、嬉しそうな顔をする。


「まぁ何にしてもよくやったラビ!アイツをラルサに追っ払ってくれて俺は心底感謝してる!さすが俺の弟分!陛下万歳!」


「……」


 陛下は、無言。この国でこの人の頭をクシャクシャできる人なんて他にいないだろう。


◇◇◇


 ……そこからはライルによるシンさんへの怒涛の愚痴大会。どうやら以前口説いていた女性がシンさんに横取りされ、美麗な神官様はそれを根に持っているようだった。


 フィーバーするライル、シンさんへの不満という点だけはライルに同意できるらしく真面目に話を聞いているムト。一方陛下はお眠りになった。


「……んでよ、アイツったらその子に何吹き込んだと思う? 俺が神官だから、実はアレが無ぇ、なんて言いやがったんだ。んなわけねぇだろ!すげーのがあるわ!」


「風評被害も甚だしいな。アンタに同情する」


「ねぇ私もう寝ていい??」


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