陛下へ
陛下にお手紙をかくのは、実は2回目です。
1回目に書いた手紙は、マリにいるときに書きましたが、壊されてしまいました。
だから、実質、初めてのお手紙です。
ちょっと照れくさいですね。
でも、これはきちんとお伝えしなければと思い、勇気を振り絞って書いています。
陛下もご存知の通り、私は、ラルサの神殿でライルが行った儀礼によって、この地にやってきました。
あのとき、ライルが行ったのは、実は「王妃に相応しい女を召喚する儀礼」ではありません。ギルガメシュXと同じ、「死者蘇生の儀礼」だったのです。
ライルは、本当はマリカさんを蘇らせようとしていたのです。自分の寿命を捧げて。
ですが、失敗しました。儀礼文書は古いシュメール語で書いてあったと言いますから、ライルは読み方でも間違えたのでしょう。
結果、なぜか別の世界から、私がやってきてしまいました。
私はこの話を、ライル本人から聞きました。
でも、陛下に話すことができませんでした。
ずっと黙っていました。ごめんなさい。
お優しい陛下のことです、黙っていた私を責めたりはしないでしょう。
でも、これ以上、嘘をつき続けることはできません。
でも、面と向かってあなたに話す勇気もありません。
愛してくれた人からの、愛を失うこと、
それがどれだけ辛く惨めなことか、よく知っているからです。
私の母は、父とすれ違いの末、捨てられ、心を病みました。
私はあの人のようにはなりたくない。
私は、怖かったのです。
マリカさんの代わりに来てしまった私を、ライルの寿命をもらって生きている私を、陛下はどう思うのか。
本当は、「神からの贈り物」ではない、ただの無力な人間である私のことを、陛下はどう思うのか。
拒まれるのが怖いです。
幻滅されるのが怖いです。
そうなるくらいなら、私は、あなたの元を去ろう。そう、決めたのです。
臆病な私を、どうか許してください。
幸い、「神からの贈り物」は、バビルでの役目を終えました。
これからは、ひとりの人間として、ライルからもらった命を大切に、生きていきます。
思い返せば、この世界に来て、いろんなものを見ましたし、知りました。
文化の違いに戸惑うこともありました。
それでも、あなたとの日々は夢のようでした。
こんな私を好きだと言ってくれる陛下のことが、
私も大好きでした。
どこまでも真っ直ぐなあなたが大好きでした。
離れている間も、ずっと陛下のことを想っていました。本当ですよ!
いくら感謝を述べても足りません。
私のことを大切にしてくれて、ありがとうございました。
今までもこれからも、私はあなたのことが大好きです。
陛下、どうか、お身体を大事にしてください。
過労で倒れてはダメですからね。
それでは、さようなら。
かつて過労で倒れ、
あなたに出会い、
あなたに愛された
ノアより




