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王の密命 ①


――……ア!……ノア!


「……陛下……?……これは……夢……?」



――ノア!なんでマリにいるんだ!


「陛下……!ごめんなさい!……私、どうしてもギルガメシュXを止めたくて……マリに行く方がより確実に思えたんです。迷惑かけてごめんなさい……!」




――またそんな無茶なことをしてたのか!王妃様になる身だろ!陛下や……俺に心配をかけるな!


「ムト!……置いてきちゃってごめん!……でもお願い、今はイルナ君を支えてあげて……!」

  



――嬢ちゃん!なんか俺とキャラ被るやつがこっちに来たんだけど!


「え???」

  


 

――起きなさい。ねぇ、馬鹿女。起きるのよ。


「…………?」


 気づいたら、目の前には相変わらずキツい顔をしているシブトゥさんがいた。


 ヤリムの庭、地面に吸い込まれず残った血だまりに突っ伏す私の横にしゃがみ、シブトゥさんは顔を覗き込んでくる。視界には他にも動き回っている人たちがうつる。


 空はオレンジ色だった。冷たい風が熱を奪う。


 ジンジンと痛む殴られた後頭部を触ると、大きなたんこぶができていた。


 鉄のにおい。


「犯人を警備の兵が追っているけど、まだ見つからない。誰がやったの?」


 頭がぼうっとする。体も重い。地球の重力を感じる。


「ねぇ、聞こえてる? あなた……」

 

「ヤリムは……?」


「……身を清めている。これから葬儀の準備をするわ」


「葬儀…………」


 あぁ、ヤリム。

 本当に死んじゃったんだ。

 ついさっきまで、ここにいたのに。

 

「ねぇ、誰がやったの?」


 シブトゥさんは顔色を変えることなく、淡々と聞いてくる。


「……わかりません。でも犯人はおそらく……」


 殴られた時に見えたあの顔は、「情けない係長」だった。


 ヤリムが言っていた。「ダガン王を情けなくしたような顔」をした人物が、かつてマリにいたことを。


 係長王・ダガンさんの弟のーー


「……前マリ王、ヤスマフだと……思います」


 私の途切れ途切れの言葉に、そばにいた人たちが振り返る。


「ヤスマフ?……そんなバカな。あれは死んだのよ」


「でもヤリムは、『アイツ生きてた』と、……言ってました」


 シブトゥさんは一瞬、目を泳がせた。でもすぐに威厳ある王妃の顔に戻った。


「そう。……ヤリムが言うなら間違いないわね。なぜヤスマフはヤリムを殺したの? なぜあなたは刺されていないの?」


「知らないです……でもラビ陛下への……手紙を壊されたと……」


「そうね。割れた粘土板の破片がいくつか落ちていた。ヤスマフは陛下とハンムラビが組むのを止めたがっているのね。それはなぜかしら……普通に考えて、ヤスマフは王位を奪還した陛下を恨んでいるはずでしょ?」


「…………」


 わからないよ。

 知らないよ。

 頭、働かないし。

 

「シブトゥ、今は休ませてやれ」


 いつのまにか、シブトゥさんの後ろにジムリ・リムが立っていた。悲しそうな顔でこちらを見下ろしている。


「ノア殿。ヤリムのこと……残念やった。ヤリムの死はマリにとっても大きな損失や」


「…………」


「怪我はしてないか?……ひどいたんこぶだな。疲れただろう。しばらく王宮で休むといい。安全は保証する」


 頭を下げる。ジムリ・リムが合図して、担架を持った人たちがやってくる。それにのせられ王宮へと運ばれる。


 道中、運ばれる私を、なんだなんだと街の人たちが覗いてきた。

 

 ……私が聞きたい。

 なんでこんなことになってるの?


◇◇◇


 すっかり日が落ちた、マリの王宮。


 湯浴みをさせてもらい、血まみれの服を着替え、医務室らしき部屋でぼうっと横になっていると。


「起きてる?」


 眉間のシワを深めたシブトゥさんがズカズカ部屋に入ってきた。


 無礼かなとは思ったが、立ち上がる気力もなく寝転んだまま王妃を迎える。シブトゥさんは呆れた顔をして、寝台近くの椅子に座る。


「あの……」


 ……現場検証は終わったのか。ヤリムの葬儀はどうなった。


 聞きたいことは色々あったが、私が口を開こうとすると王妃は苛立ち気味に話し出した。


「面白いことになったわよ。エシュヌンナからハンムラビが軍を率いてこっちに向かってるって」


「え……!」


 陛下が……陛下が動き出した? でもなんでこのタイミングで? イルナ王子が勝手に挙兵したのを知って、それを止めにきた?……いや、止める理由はないか。一緒にマリを滅ぼしに来たのか。


「最高のタイミングよね。南からはイルナ王子の軍が、ギルガメシュX?とやらときている。北からハンムラビ。あと数日のうちにマリは挟み撃ちにされる。でも、マリは負けない。まとめて迎え撃つ。神がそう、仰ったから」


 シブトゥさんは相変わらず自信たっぷりに言い放つが……


 頑固すぎないかこの王妃。そんな頭固くていいのか。大勢の命がかかってるというのに。


「……そうですか。でも『神からの贈り物』は、今からでもバビルと和平協定を結ぶべきだと思います」


「あなたしつこいわね」


 しつこいのはどっちだ!

 ため息をつきたくなるのを我慢する。


「シブトゥ王妃……イルナ王子の軍が到着した時点で、挟み撃ちをするまもなくマリは滅ぼされます。……もう……私のことは信じなくてもいいですから、せめて街の人々を逃がしてください。戦争が始まるのは確かでしょう? その前に避難させてあげてください」


「何を言ってるの。民は羊、王は神より任命されし羊飼い。主を置いて逃げ、生きられる羊がどこにいるの」


 そんなことをさらっとのたまう王妃様。


「……それ、どういう意味ですか? 人々を避難させる気はないと?」


「当たり前じゃない。民は王と共に生き、王のために死ぬべきよ」


 その言葉に、頭にボッと火がついた。


「…………!」


 この……


 この過激派め!!どこの大日本帝国だ!!

 

 もうダメだ!この人にはなにを話してもだめだ!ウルさんくらい話が通じない。もっと話のわかる人じゃないと!


 立ち上がり、わからずやの王妃を睨みつける。

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