F ②
「陛下、シブトゥ様。俺は即刻、バビルとの和平協定を結ぶべきやと思います。理由はひとつ、ノア様がアホやからです」
「はい???」
ヤリムがニコニコ、私をdisり始めた。
「この人嘘とかつけない性格で、おまけにえらい短気で、こうだと思ったらすぐに体が動いてしまうんです。だから俺には容易に想像できます。ギルガメシュXの恐ろしい姿を見て、これはなんとかせんと!と思い立ったノア様のお姿が。
そんで……ウルさんは話聞かへんし、ラビさんが裏切った俺らとまた組むとは思えんし、それならマリの王に話さんとって考えて、無謀にも単身乗り込んできた経緯が……鮮明に見えるんですわ。
ハッキリ言ってこの人はアホです。でもその単純さと無鉄砲さが、かえって真実だと物語ってます」
すごく馬鹿にされている。
その通りすぎて何も言い返せないけど……
でもいつのまにか握られていたヤリムの手が、妙に温かくて、心強かった。
「だから俺は、この人を単身敵国に乗り込むまでに突き動かした、ギルガメシュXがほんまに恐ろしい兵器だとわかります。それにあのギルガメシュ王、神の血を引く伝説の英雄ですよ。そんなんと戦えます?」
「馬鹿馬鹿しい。死者が蘇る訳がないでしょう」
シブトゥさんは呆れたように笑う。
「神殿の頂上に光と共に女が現れることもありますよ」
初めて反論してみた。小声で早口だけど。
シブトゥさんにまた睨まれた。
ヤリムが背筋を伸ばし、王に向き合う。
「陛下、エシュヌンナのラビさんとこへ至急、使いを出しましょう。和平協定を結ぶんです。その間にイルナ君の軍が来ると思いますが、こちらにも使いを出しましょう。マリとバビルが再び協定を結んだといえば、ウルさんもさすがに動けやせんでしょう。それこそ明確な謀反に取られますから。まぁ、すぐに嘘やとバレるとは思いますが、今は少しでも時間を稼げれば万々歳です」
ジムリ・リムは腕を組み、目を瞑る。
「……だが……バビルの王子を殺して、エシュヌンナと組んで戦った我が国と、今や圧倒的な軍事力を誇るバビルが再び協定を結ぶと思うか? たとえ『神からの贈り物』を人質にしたとしても……女1人のためにハンムラビが動くか?」
それを改めて言われると……ちょっと自信が揺らぐ。
でも……
でもいっぱいイチャイチャしたもん!愛してるって、いっぱい言われたもん!
ちょっとは人質としての価値があると信じたい!
「動きますよ。ラビさんはノア様にとことん甘いから、受け入れますよ」
「そ、そうかなぁ?!えへへへへ」
「照れてる場合? 最悪あなた死ぬのよ」
呆れ顔のシブトゥさんがつっこんできた。
た、たしかに〜〜……
その横でジムリ・リムとヤリムは、もう次の段階へ話を進めていた。
「その交渉、ヤリム、お前やれるか?」
「もちろん。行きますよ」
ヤリムはニヤリと微笑んだ。
シブトゥさんは、冥界にまで届きそうな深いため息をついた。




