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アニーの拳  作者: しいな ここみ
第二部 ルールと秩序
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法に従わないもの

「警察が僕を探してる」


 薄暗い部屋の中、ベッドに腰掛けた男が言う。メガネのレンズに窓外のネオンが映っている。


「すごいよね、ぴかぴー」

 興奮した女の子が言った。

「総理大臣やっつけちゃうなんて……! うさぴょん、見直した!」


「警察は無能だ」

 男の声が言う。

「マニュアルに従って動くだけで、誰も自分の頭で物を考えはしない。誰もがあのクズ首相を直ちに辞めさせるべきだと思いながら、ルールに従って、任期が終わるまでズルズルと総理大臣を続けさせていた」


「それをぴかぴーが辞めさせたんだよね?」


「あぁ……。誰もが僕に感謝すべきなんだ」


「でも、ぴかぴーは見つかったら逮捕されるんだよね? なんで?」


「くだらん質問をするよな、おまえは……。ルールに従わないからだ。ルールに従わないものは、悪いことをするやつはもちろんだが、社会に良いことをもたらそうとする人間でも、法によって裁かれるんだ」


「えー? いいことしようとしても? 意味わかんなーい」


「やつらには善と悪の区別なんて、つかないからな。ただ.マニュアルに従うだけのロボットさ。……電気を点けてくれ」


 ぱっと明かりが点いた。

 ファンシーなホテルの部屋のベッドに腰掛ける天神あまがみひかるの姿があらわになる。

 電気を点けたのはピンク色のツインテールの女子大生だった。

 彼女の名前を光が呼んだ。

宇佐美うさみうさぎ……」


「はーい」と、うさぎが元気に手を挙げる。


「キミだけが僕の秘密を知っている。キミは僕の仲間だ」


 うんうんうんうんとうなずきながら、うさぎは光の隣に座り、しなだれかかった。


 うさぎのほうへ顔は向けず、光が言う。

「粛清したいやつがいるんだ。そいつを呼び出してほしい」


「誰、誰? 今度は何大臣?」


「ただの大学生だ」

 光はメガネを指でくいっとあげると、その名前を口にした。

「大山澄香という、空手家だ」


「えー? 空手家だったらあの、『裏カクカイ』ってとこで対戦すればいいんじゃないのー?」


 空手界の貴公子と呼ばれる大山澄香のことを、うさぎは知らなかった。格闘技に興味がないのだろう。


「あそこでは殺しができない」

 光は無表情に言った。

「物陰に隠れて首をへし折ってやってもいいが、それではつまらない。僕の正しさ、善良さを認めさせてやりたい。どうしても認めないなら、力の差を思い知らせてやる」


「そのひとも、悪いひとなの?」


「そうさ。バカの仲間だからな」


「……バカ?」


「世にはびこるバカは放置して、ただ自分磨きだけしてればいいなんてほざくバカさ」


「よくわかんない」


「そして……何より──」

 光の顔に、殺気が漲った。

「僕がバカを放置せず、他人を裁こうとするなら、僕の前に立ち塞がるとか言いやがった。バカのくせに、僕のことをバカにしやがったんだ」


「バカじゃないよー」

 うさぎが光の頬に口づけた。

「ぴかぴーはバカじゃないよ。だって、こんな刺激的なことができるひとだもん! 大物だよ! そいつ、許せないよね!」


「だから、人気のない場所でそいつと二人きりになりたい。頼めるかい?」


「もちろんよ!」

 うさぎは、笑った。

「あたし、ぴかぴーのこと、とんでもないひとだと思いかけてたけど、違ったもん! ぴかぴーは……なんていうか、とんでもない人物だったんだもん! 惚れ直しちゃったぁ!」


「……そいつは、どうも」


「だからさ! あたしのことは信じてよ! あたしだけは、ぴかぴーの味方だからさ!」


「信じてるよ」


「あっ、ちょっとおトイレ行ってくるね!」


 うさぎが楽しそうに立ち上がった。

 その背中を、光は見た。

 うさぎの背中に、緑色の光の糸がくっついている。

 トイレのドアが閉まっても、糸は壁をすり抜けて繋がったままだった。


「ほんとうは信じてないよ」

 光が無表情に、呟いた。

「でも、まぁ……オマエが裏切っても、僕にはすぐにわかるからね」







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