会議
「じぶんに危害がないなら、ほっとけばいい」
メイファンが言った。
「……とはいえ、アイツは私が生きていると知ったら、また殺しに来るだろうな」
澄香が人数ぶん、青汁を運んできて、それぞれの前に置いた。
花子は持参していた緑茶飲料のペットボトルを取り出すと、じぶんの前に置いた。
「一体、先輩にどんな改造を施したんだ、ラン・メイファン?」
青汁をうまそうに啜ると、メイファンは答えた。
「じつは肉体の改造は何もしていない。アイツは元々『気』の量が甚大でな、ただその使い方を知らなかった。私はそれをみっちり教えてやっただけだ」
「キミみたいに……身体をさまざまなものに変化させられるのか?」
「そんな能力はない。『気』の使い方に関しては私の足元にも及ばん。当たり前だろう、私は10年この能力を育て続けてきたのだぞ」
「じゃあ……先輩は、キミよりも弱い?」
「いや……」
メイファンは青汁の入った湯呑みを卓にコトンと置くと、嬉しそうに言った。
「使い方に関しては未熟だが、『気』の量で私を凌ぐ。特に射程範囲に関しては私のほうが足元にも及ばん。……はっきり言って、ヒカルは私よりも遥かに強い。それに……」
「それに?」
「あの性格が厄介だ。私は獲物を弄び、楽しんで、楽しんでからようやく殺すが、ヒカルは時間をかけん。見たらすぐに殺すようなやつだ。ゆえに隙がない」
「どんな技を使うんだ?」
「あれは技と呼べるものではないな。見ることで攻撃するんだ。アイツに見られたら、それだけで首を180度ひねられて殺されてしまう。実際には攻撃する際に目が緑色に光るんだが、あのメガネの厚いレンズでそれが見えん」
「……防ぐ方法は?」
「正確にいえば、見たものを破壊するのではなく、『気』を伸ばして対象に絡みつき、それで破壊するんだ。だからその『気』が見えればかわしようもある」
「……ボクに見えるだろうか?」
「試してやる」
そう言うと、メイファンの背後から黒い『気』が、悪魔の姿をして立ち昇った。
「うぉ……! 怖っ!」
アニーがロレインに抱きつく。
「……私には何も見えないわ」
抱きつかれながら、ロレインが悲しそうに言う。
「……見えない」
澄香は目を細めたり、横目で見てみたりしたが、アニーが怖がっているものがどうしても見えなかった。メイファンの背後にはふつうに大山道場ののどかな風景があるだけだ。
「見えんか……。フッ」
メイファンは再び青汁を手に取ると、美味しそうに飲みはじめる。
「大山澄香……。ヒカルは貴様のことを真っ先に粛清すると言っていた。……まぁ、せいぜい身を隠しておくんだな」
「くっ……!」
悔しそうな声を漏らすと、澄香がさらに聞く。
「先輩の射程範囲はどれぐらいあるんだ? ボクなら攻撃される前に間合いを一瞬で詰めて、先制攻撃を──」
「無理だな」
メイファンは青汁をくぴっと飲むと、面白そうに笑った。
「ヒカルの射程距離は──200メートルはある」
「はぁ〜……」
それまで黙ってみんなを傍観していた花子が、ようやく口を開いた。
「びっくりしたぁ……。なんか、メイファンちゃんの背中から、黒いモンスターが出たけど……あれ、何だったの?」
ロレインが驚きの声を出す。
「えっ?」
アニーが嬉しそうに笑った。
「見えたのかっ、花子!?」
「ほう……?」
メイファンが興味をそそられ、改造したそうな目で花子を見た。
「……くっ!」
澄香が悔しそうに、人生ゲームで負債を背負った時のような顔をして、汗をボタボタと垂らした。
「ただの女子高生に見えるものが……ボクには見えないだと……っ!?」
「とりあえず……。みんなで力を合わせてアイツを倒すぞ」
メイファンが話を続ける。
「一対一ではとてもアレには敵わん。しかしみんな一緒なら、なんとか倒せるかもしれん」
「倒していいのかっ?」
アニーが聞く。
「おまえの最高傑作なんだろっ? 壊したらもったいなくないのか?」
「じぶんで作り出した最強の人形を敵として倒すゲームも一興というもの……それに」
メイファンはあくびをすると、続けた。
「アイツ、強すぎてつまらん。裏カクカイに出しても間違いなく毎試合、相手を瞬殺だ。もっとハラハラドキドキさせてほしい。だから、壊そう」




