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アニーの拳  作者: しいな ここみ
第二部 ルールと秩序
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声明

「メイファンーーーっ! 頼む、成仏してくれーーーっ!」


 目をぎゅっと閉じて、大嫌いなドライヤーを向けられた猫のようにアニーが泣く。


「フフフフフフ……。アニー、私が死んで嬉しくはないのか?」


 顔をドロドロにとろけさせたメイファンがじりじりと迫る。


「嬉しいもんかーーーっ!」


「フフフ……。では、再び会えて嬉しいか?」


「幽霊はやだーーーーっ!」


 メイファンは壁に追い詰めると、腕を青龍刀に変えた。


「ならば貴様も死んで幽霊になれ。そうすれば幽霊も怖くなくなるだろう」


 青龍刀で首をはねにきたメイファンの攻撃を、アニーは跳躍してかわした。

 壁を蹴って高く跳び、メイファンの頭の上を越え、畳の上に着地する。


 メイファンが振り向き、賛辞を贈る。

「フッ……。さすがだな。恐怖に身を縛られていてもその動きとは……。本気で首をはねに行ったのだがな」


 アニーは恐怖で気を失っていた。

 無意識状態で正拳の連打を繰り出す。


「貴様は吾妻あがつまなんとかか」

 ひらひらと攻撃をかわしながらメイファンがツッコむ。

「しかし無意識状態になったほうが強くなるとかはないようだな。動きが遅いぞ」


 メイファンが全身をチェンソーに変え、アニーの身体を縦に真っ二つに裂きに行く。


 ロレインの声が響いた。

「うさぎさんっ!」


 アニーの前に長身ヒョロガリのうさぎさんが立ち塞がった。そして上品な声で、たしなめるように言う。


「ヘイ、チャイナガール。友達どうしで殺し合いはよくないぞ? アニーくんを殺りたいなら、この私を──」


 うさぎさんのお腹にチェンソーが突き刺さる。

 しかしそれは見た目とは裏腹にとても柔らかく、うさぎさんのタキシードすら破ることなくふにゃふにゃと折れ曲がって、止まった。


「……なんだ、チャイナガール。殺す気なんてなかったんだね? おふざけかい?」


 元の姿に戻ったメイファンが、うさぎさんを見上げ、感激して嬉しそうな声をあげた。


「わぁ……! うさぎさん、私、あなたのファンです。サインください」


「そうかね。よしよし、その額にマジックペンでサインをしてあげよう」


 額に『うさぎさん』と書かれ、上機嫌になったメイファンがアニーをにこにこしながら見て、言った。

「いい加減に現実を見ろ、アニー。私は幽霊ではない。生きていたのだ。この額のサインを見ろ」


「う……、うさぎさんのサイン……」

 アニーの目に、理性が戻った。


「いいだろう?」

 得意げにメイファンが見せつける。


「おまえ、キョンシーだなっ!?」

 アニーが安心したように、笑った。

「お札を貼ったからもう大丈夫ってことだっ!」


 花子がわけわからなそうに声を漏らす。

「なんだ、これ……」



「ムッ──!?」

 澄香が異変に気づいた。


 TV画面をジャックした者がいた。

 ニュース場組からどこかの倉庫のような場所に切り替わり、白い天使の羽根の仮面で目元を隠した男が、カメラに向かって声明をはじめた。


『やぁ、日本国民の皆さん、初めまして。僕はミカエル──板垣首相に粛清を加えた者だ』


「天神……先輩!」

 澄香が拳を握りしめる。


『このたびは日本を悪い方向へ導こうとする悪しき権力者の粛清に、皆さん歓喜していることと思う』


 メイファンが頬杖をつき、TV画面を楽しそうに見つめた。「こんな面白いTV番組は久々だ」という表情だ。


『さて、総理大臣が死んだ。次のを選ばなければなるまい』

 ミカエルはカメラに向かって、言い渡す。

『国会は慎重に、次の総理大臣を選出するがいい。国民の声をきちんと取り入れて、ね。そいつがまた国民の声を無視するようなら、僕がまた粛清する』


 アニーとロレインはよくわかっていないような顔をして、ぼんやりとその声明を聞いていた。


『僕がこの国を統べてあげよう』

 ミカエルはそう言って、真剣そのものの声を大きくした。

『僕が見守っている限り、この国がこれ以上落ちぶれることはない! 僕がこの国に秩序を与えよう! 新しい国家元首どもは、僕の存在に怯えろ! そうしてこの国は、明るい未来へ船を漕ぎ出すことになるのだ!』


 澄香も、メイファンも、アニーもロレインも何も言わなかった。

 しかし花子には感じるものがあった。


 今、日本のあちらこちらで、この声明を聞いて歓声をあげている人間が大勢いる──花子の勘が、それを感じ取っていた。




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>今、日本のあちらこちらで、この声明を聞いて歓声をあげている人間が大勢いる──花子の勘が、それを感じ取っていた。 きゃーーー!ステキ!(≧∀≦) ↑ てのひらくるっくる
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