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アニーの拳  作者: しいな ここみ
第二部 ルールと秩序
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TVニュース

 伏木ふしき花子はなこはオロオロしていた。

 並んで下校するアニーの様子がずっとおかしいのだ。出産したばかりの猫のように気が立っている。


「どうしたの?」「何かあったの?」と聞いても、返ってくる言葉は「なんでもないっ!」ばかりだったので、わけがわからなかった。得意の勘を働かせようとしてもだめだった。


 今、アニーのことをよく知る先輩と3人一緒に帰り道を歩くことになって、ようやく真相がわかると期待した。


「ロレイン先輩っ」

 声をひそめ、花子が背伸びをしてロレインの耳元で聞く。

「アニーちゃんがおかしいの。ずっと眉間にシワを寄せて怖い顔してる。……何かあったんですか?」


「うーん……。なんていうか……」

 ロレインは困ったような笑いを浮かべると、教えた。

「アニーの大好きな友達がね、殺されたことになっちゃったの」


「殺された……ことに……なっちゃった?」

 花子の勘がピーンと働いた。

「つまり……。うそ話を信じちゃってるってことですか!?」


 前方の曲がり角から、コンクリートブロックの向こうから、黒いチャイナドレスの裾を引きずって、10歳の少女が姿を現した。肉食獣のような目でこちらを見る。


「おい、アニー。ロレイン……。ちょっといいか?」


「あっ。メイファンだ」

 ロレインがにっこりと笑った。

「元気そうだね」


「あっ。この子が?」

 花子はすぐに察すると、花子もにこっと笑った。

「こんにちは。アニーちゃんのお友達は私のお友達。仲良くしてね?」


「メ……」

 アニーの声が恐怖に歪んだ。

「メイファンーーーっ! うわーーーっ!」


「なんだ。格闘家のくせに幽霊が怖いのか?」

 メイファンが意地悪そうに、牙を見せて笑う。

「この世に未練がありすぎてな、戻って来てしまったぞ」

 そして顔をドロドロと溶かしてみせた。



 ▣ ▣ ▣ ▣



 ニュースの話題は板垣首相暗殺のことでもちきりだった。


 大山澄香は今日何度も見たそのニュースをまた見ながら、呟いた。


「先輩……。ボクがあなたを、止める」


 そこへロレインが帰って来た。失神したアニーをお姫様抱っこしている。


「またそのニュース? スミくん。学校でもその話題でもちきりだったよ」


「お邪魔します」

 後をついて花子が入ってきた。


「こんなの間違いなく、メイファンに改造された天神先輩の仕業だ。ボクが責任を取らなければいけない」


「スミくんは無関係でしょ」

 ロレインが微笑む。

「正義感が強いのはスミくんのいいところだとは思うけど──」


「邪魔するぞ」


 そう言って部屋に入ってきたメイファンを見て澄香が少しビクッとした。しかしすぐに気を取り直して、言う。


「やはり生きていたのか、ラン・メイファン。君がそう簡単にやられるとは思ってなかった」


「アニーは完璧に信じてたようだがな」

 メイファンがロレインの腕に抱かれて気を失っているチビ猫を見上げながら、可笑しそうに言った。

「もう少し幽霊のふりでもしてやるかな」


「あのー……」

 花子がみんなに聞く。

「もしかして……この事件の犯人に、皆さん心当たりがあるんですか?」


 澄香が初めて花子のほうを見る。

「君は?」


「アニーちゃんのクラスメイトです」

 澄香の綺麗な顔に見つめられてドキッとしながら、花子は得意の勘を働かせても相手が男なのか女なのかわからず、オドオドした。


「ボクの大学の先輩に、心当たりがある。こんなことをしでかすのは……たぶん……」


「心当たりどころか確信しろ、大山澄香」

 メイファンが腕組みをしながら胸を張る。

「殺し方がいかにもアイツだ。首を180度曲げてへし折ったのだろう? 何よりあれは私の最高傑作だ。こういうことが出来るのはアイツしかおらん」


「なぜ……、ああいうひとだと知っていながら力を与えたんだ? ラン・メイファン」


「アイツがどんな理由で力を欲したか──など、どうでもいい。強くなりたいと願うやつに私は力を与える。それ以外のことには興味がない。女にモテたいからとか、そんな理由でも別にいい。私は誰かを強くすることにだけ興味があるのだ」


「君に正義の心はないのか?」

 澄香が立ち上がった。

「君は社会秩序を混乱させる悪魔か?」


「粛清するか?」

 メイファンがニヤリと笑う。

「貴様も天神光と同じだな」


「君は許されない存在だ! きっとそのうち法が君を裁く!」


「私は中国人。治外法権というものがある」

 面白そうにメイファンが笑う。

「それに国家元首が私の飼い主だ。最高の権力によって守られているんだが?」


「うーん……」

 ロレインに抱っこされているアニーが目を覚ました。


「おはよう」

 メイファンが顔をドロドロと溶けさせながら、笑った。


「ぎゃーーーー!!!」

 一瞬でアニーが20畳の部屋の隅っこまで後ずさった。




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