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アニーの拳  作者: しいな ここみ
第二部 ルールと秩序
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大山澄香の生きる意味

 ランニングを終え、大学のグラウンドに戻って来た大山おおやま澄香すみかにマネージャーの女子がタオルを差し出した。


「お疲れさま、スミカくん」


「ありがとうございます、先輩」

 澄香は清々しい顔でタオルを受け取ると、汗を拭いた。


 先輩部員たちが文句の声をあげる。

「おいおいマネージャー! なんで大山ばっかり贔屓するんだよ」

「顔がいいやつはいいよなー! かわいいマネージャーにチヤホヤしてもらってよー!」


 マネージャーがふくれた顔で言い返す。

「スミカくんは我が空手部の期待のエースなんだからねっ! あんたたちみたいな弱っちぃのとは違うのよっ! チヤホヤして当たり前でしょーがっ!」


 先輩部員たちも負けずに言い返した。

「強さより顔だろーが! はっきり言えっ!」

「俺も美形になるからチヤホヤしてよー!」


「じゃ、あんたたち、スミカくんと戦って、勝てるのかね?」


 マネージャーの言葉に先輩部員たちが「うっ!」と呻く。


 大山澄香は入部するなり10人の先輩部員と組手をしてあっという間に全員を負かしていた。

 女性的な顔立ちに圧倒的な強さを兼ね揃えた彼は、空手界のアイドルとして雑誌などにも取り上げられていた。


「毎日頑張るよね、スミカくん」

 マネージャーが恋する雌の目で澄香を見る。

「あんなに強いのに努力まで怠らないんじゃ、こりゃー敵う者がないわけだ」


「ボク、スタミナがないんですよ。だから毎日走り込んで、スタミナを鍛えているんです」


「またまたぁ〜! 10人相手に闘えるスタミナがあるのに? 謙遜しちゃってぇ〜」


「力の抜き方を覚えたんです。全力で動いたら2分もスタミナが保たないんですよ」


「え……! あれで力、抜いてたの?」


「1割ってとこですね」

 澄香はちっとも得意そうではなく、当たり前のように言った。

「ボク、そのうち空手部は辞めるつもりです」


「ええ〜〜〜!? 辞めないでよ!」


「空手部とは別に『大山流空手部』を創設したいんです。そのためにもっと実績を積まなければ」


「大山流?」


「ええ、ボクの伯父が創始した、世界最強の空手です。残念ながら使える者が今のところ3人しかいない。この最強の空手をボクが世に広める! それがボクの生きる意味だ! そのためにまず、この大学に大山流空手部を創りたいんです」


「えー! そうなったら私、その部のマネージャーになりたい!」


 澄香はにっこり笑って、白い歯を光らせた。

「是非お願いします」


 その反応に、女子マネージャーは調子に乗った。

「ねぇねぇスミカくん……。今度の日曜日、ヒマ? もしよかったら私と……」


 スミカは笑顔で即答した。

「すみません。今度の日曜は家族と食事に行くんです。妹弟子たちとも久しぶりに会えるので楽しみにしているんですよ」




 

 

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