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アニーの拳  作者: しいな ここみ
第二部 ルールと秩序
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空中戦

 金網に囲まれているので、飛行するにも自由は限られた。

 右京四郎もJPも、そのことはわかっていた。

 右京四郎にとっては金網を蹴って急に方向を変えることができるので、いつもより奇襲がやりやすいといえた。


 しかしJPにとっては何も変わらない。

 金網があろうとなかろうと、彼は空気を蹴っていつでもどこでもいきなり方向を変えることができるのだ。


 右京四郎が急に方向を変えられるといっても、必ずそこには金網を蹴る動作がある。

 JPにとってそれは見え見えだった。


「とりゃっ!」


 JPから逃げる動きをしていた右京四郎が掛け声とともに金網を蹴り、一転攻撃を仕掛けた。


 JPは空気を蹴って、いとも簡単にそれをかわす。


 かわしたかと思いきや、また空気を蹴って横から襲いかかる。


 右京四郎は四本の腕でそれをガードしようとする。


 しかしイケメンに変身している彼の腕は、二本しかなかった。


 体重は軽いながらも、JPの蹴りは重かった。左足で空気を蹴り、その勢いが右足に乗っていた。


 ポキッ


 そんな音を立てて、右京四郎の両腕が、折れた。


「ぎゃああああ!」


「シロー先生」

 悲しむようにJPが言う。

「私をあの時倒した戦士とは思えない。正々堂々、本気の姿を見せてみろ」


「い……、いやだっ!」

 右京四郎がイヤイヤをする。

「僕はバケモノじゃないんだっ! 僕は……イケメンなんだぞ!」


「ロレインお嬢様にその姿を見せたいのですか」

 JPはため息を吐いた。

「お嬢様なら、あそこにおいでですよ」


「えっ?」


 首を回し、右京四郎はJPの指さすところを見た。


 ロレインがそこにいて、自分たちの闘いを見ていた。


「ロレたんっ!」

 右京四郎はまつ毛をバサバサと動かし、白い歯をきらりんと光らせ、笑った。


 ロレインの口が、動くのが見えた。


 き、も──と、動くのがはっきりと見えた。


「きも……?」


 右京四郎の、心が折れた。


 JPの連続空中蹴りが、その背中に突き刺さる。


「ぐわあああっ!」


 右京四郎は断末魔をあげながら墜落し、リングに頭から突き刺さって動きを止めた。


 レフェリーが手を挙げる。

「JP、ウィン!」


 JPは空中に立ったまま、無様な右京四郎を見下ろし、呟いた。


「そこで心折れずに真の姿を現し、四本の腕で闘っていれは勝機もあっただろうに……。やはりおまえは所詮インスタント戦士なのだな。覚悟が足らん」


 リングからズボッと頭を抜くと、情けない顔を現して、右京四郎はロレインのほうを見た。そして呟く。

「ロレたん……。僕、きもいの?」


 ロレインはぷいっと背中を向けると、アニーから肉まんを受け取り、ヤケ食いをするようにそれにかぶりついた。


 涙を流す右京四郎の背後にJPが降り立ち、声をかける。

「後輩くん……。先輩教師として、君にアドバイスをやろう。嘘で自分を塗り固めるな。そんな教師は生徒から信頼されない。素の自分をさらけ出せ」


「僕はただ……かっこよくなりたかっただけなんだ」

 右京四郎は口から血を吐きながら、悲しみの言葉を漏らした。

「ロレたん……君に見てもらいたくて……」


 そしてリングに倒れ、気を失った。


「フン……」

 JPは右京四郎の体を担ぐと、面倒臭そうに言った。

「私が君を教育し直してあげるよ」




「あれも結局失敗作だったか……」

 メイファンが肉まんを売りながら、つまらなそうに呟いた。

「腕が折れたな。まぁ、治してやらん。そのままでいろ」


「いや、それは可哀想でしょ!」

 同じ口がララの声で言う。

「治してあげようよ、メイ。後に残っちゃうよ」


「失敗作に興味はない。どうなってもいい。それに二本骨折しても、もう二本あるだろうが」


「だめよ! シローさんのとこ、行こ? あたしが一瞬で治してあげるんだから! 一緒に火鍋を食べた仲じゃない!」


「どーでもいい」


「何を一人で会話してるんだ?」

 珍しいものを見る目で天神あまがみひかるがメイファンを見ていた。

「君の弟子の試合は終わったんだろう? 早く僕に力をくれ」


「フン……」

 メイファンは光の顔を見上げると、肉食獣のように舌なめずりをした。

「貴様に才能があるかどうか、まずは見てやろう」


 メイファンの背後から、悪魔のような黒い影が「ズオッ」と立ち昇った。

 それは『気』で作った悪魔の形ではなく、形をもたない『気』そのものだ。


「うわっ!」

 アニーがびっくりして声をあげた。

「なんだ、それ! 怖っ!」


「えっ?」

 花子は肉まんをもしゃもしゃと食べながら、疑問符を頭の上につけた。

「何? なんか怖いものあるの?」


 メイファンの『気』そのものには目に見える形がなく、幽霊のようなものだ。並の者にそれは見ることが能わず、ゆえにメイファンが身体を少しも動かさずに『気』でパンチを繰り出しただけで倒されてしまう。


「これが見えるなら才能ありだ」

 メイファンは腕組みをしながら、『気』を動かし、光の額にデコピンを仕掛けた。

「まぁ……。今までの弟子でこれが見えたヤツは一人もおらんのだがな」


「うわっ?」

 光は頭を横に動かし、デコピンを避けた。

「な、何をするんだ、いきなり!」


「見えるのか!」

 メイファンのおおきな目がキラキラ輝いた。

「貴様! 改造のし甲斐がありそうだ!」




 

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