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アニーの拳  作者: しいな ここみ
第二部 ルールと秩序
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温泉

 復興後の世界に存在しないものがあった。それは温泉である。

 地中に眠る二体の怪獣を掘り当ててしまわないよう、日本の法律で禁止されているのだ。

 温泉を掘り当てるには地中を1,000メートル以上掘り進む必要がある。探査機を使って温泉を探査することは出来るが、それで怪獣の存在を同時に探知することは出来ない。うっかり眠る怪獣たちを起こしてしまわないよう、厳しく法律で取り締まられているのであった。



「日帰り温泉が俺は好きだっ!」


 ロレインと花子と並んで登校しながら、アニーは懐かしそうに言った。その頭の上にはポワポワと、露天風呂の絵が浮かんでいる。


「温泉なんてもう忘れちゃったよ」

 花子がこだわりなど何もなさそうに言う。

「ところでアニーちゃん。今日は丸太引きずって登校しないの?」


「昨日、校門の脇に置いてきたっ。花子と一緒に帰るのにアレを引きずっては帰れんからなっ」


「あ……。なんかごめんね?」


「いいんだっ。正直アレ疲れるからなっ」


「でもどうしてあそこまでの修行をするの?」


「怪獣が復活した時のためだっ」

 アニーは拳を握りしめ、言った。

「今の俺ではあいつらに勝てんっ! もっともっと強くなるんだ」


「うーん……」

 花子はよく知らないことを確認したくて、アニーに聞いた。

「正直さ、私、よく知らないんだよね。怪獣って何なの? そいつらが一度世界を滅ぼしたんだよね? めっちゃ怖いんですけど……」


「俺の親父とロレインのおとーさんだっ」


「へ?」

 花子の目が点になる。

「怪獣の正体が……アニーちゃんのお父さんと……ロレイン先輩のお父さん……?」


 ロレインのほうを見ると、真面目な顔でうんうんとうなずいていた。冗談ではなさそうだ。


「温泉を取り戻すため……そして世界に『あんなおとーさんでごめんなさい』と謝るため、俺はクソ親父とロレインとこのおっちゃんを倒さねばならないっ」


「でもアニー……」

 ロレインが言った。

「地中深くに呑まれて──あのひとたち、まだ生きてるのかしら」


「生きてるぞっ! あんなバケモノどもが死ぬもんかっ!」


「そっか……。そうだね」

 ロレインがなんだか嬉しそうに微笑む。

「生きてて……くれてるよね」


「ちょ……、ちょっと待って!」

 花子は頭が混乱した。

「ロレイン先輩のお父さんがもし生きてたら、アニーちゃんがやっつけちゃうってこと? それでいいの、先輩は?」


「あんなひとでも実の親だもの……。私には殺せない」

 ロレインが寂しそうに答えた。

「だからアニーに殺してもらうの」


「何より温泉だっ!」

 アニーが声に力を込めた。

「この世に温泉を取り戻すため、あいつらを掘り起こし、勝つための力を身につけなければならないっ!」


 花子がオロオロする。

「ほ……、掘り起こすの? お……温泉を掘るのは法律で禁止だよぅ……。捕まっちゃうよぅ……」


「ムッ……?」

 アニーが前方に何かを見つけた。

「あれは……っ?」


 前方に停まっていた黒い車のドアが開き、中から姿を現した陰気そうな男に三人の視線が集中する。


「やぁ、大山アニーくん」

 黒ぶちメガネをくいっと上げながら、男が声をかけてきた。

「ここを通るだろうと思って待っていたよ」


 天神あまがみひかるだった。前に会ったコンビニの駐車場に車を停め、アニーたちが来るのを待っていたようだ。


「……誰?」

 花子が小声で聞いた。


「この間このコンビニで会っただけのひとです」

 ロレインが答えた。


「メイファンには会えたかっ?」

 アニーが笑顔で聞く。


「会えなかったんだ……。それでね、アニーくんに今日、帰りに一緒にあの『裏カクカイ』に付き合ってもらえないかと思ってね」


「いいぞっ」


「そう言わずに……って了承早いな」


「俺も久しぶりにあそこ行きたいからなっ」


「ありがとう。じゃあ、帰りにここで待ってる。お礼に肉まんでもおごるよ」


「ほ、本当かっ!?」


「こらこらアニー」

 ロレインが横から叱る。

「また師範代に怒られちゃうよ?」


「師範代の決めたルールなんてクソ食らえだっ」

 アニーが子どものように飛び跳ねる。

「ルールは破るためにあるんだぞっ!」


 光がロレインと花子にも言う。

「そちらのお友達にもおごるよ。なんでも好きなものを……」


「わっ……、私はいいですっ!」

 全力でロレインが拒否した。


「私もべつに……。っていうかアニーちゃんがひたすら心配だ」

 花子が心からアニーを心配した。


「助かるよ。アニーくんが一緒なら、例の中国人にも会えそうな気がするんだ」


「会えるぞっ」

 アニーがバンザイするように手を広げる。

「ところでどうして兄ちゃんはメイファンに会いたいんだ? 改造してほしいのか?」


「強くなりたい。力が欲しいんだ」


「なんのためだっ?」


 光はメガネを指でくいっと上げると、レンズに映る景色で目の色を隠しながら、答えた。


「粛清したいやつがいるんだ」





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