狂戦士 vs 陰キャ女子高生
「ふしゅるるるる!」
狂戦士・勇次郎が口から白い煙を吐く。
「ちょっとーーっ!」
五月がメイファンの胸ぐらを掴むと持ち上がった。
「あんたーっ! うちの勇次郎に何してくれとんのやーーっ!」
「ククク……。あいつが望んだ姿にしてやっただけだ」
「やめろ、サツキ。殺されるぞっ」
アニーが真顔で五月に注意した。
「やめなさい、お嬢さん」
恋の花が顔に緊張を浮かべ、五月の手から黒い幼女を降ろさせる。
「この幼女……、ただものではござらん。アニー殿の言うことは正しいでござる」
勇次郎が金網をブッ壊す勢いで開け、中へ入った。
リングに上がり、黒ぶちメガネにセーラー服姿の陰気な女と対峙する。
「グハハハハ!」
勇次郎が吠える。
「ゲハハハハハ!!」
「あんた脳みそ大丈夫?」
楸がメガネを指でくいっと上げ、バカにした。
「知性のかけらもなさそうな筋肉バカね」
勇次郎の強そうな見た目に、観客たちは騒然となっていた。
「ああーっ! バーサーカーのほうに賭けりゃよかったーっ!」
「おいおい! それでもヒサギストかよ? 俺はあんなのが相手でも楸ちゃんが勝つと思うぜ!」
「オッズは相当偏ったようだな」
メイファンがニヤリと笑う。
「私はもちろん勇次郎に賭けている。賭けた10万円がいくらになるかな?」
アニーがワクワクしながら言った。
「じゃっ、俺も勇次郎に賭けるぞっ!」
恋の花が横から教える。
「残念でござるが、投票はもう締め切ったでござる」
ロレインがくすっと笑った。
「アニー、お金持ってるの? 私は全財産31円だけど」
五月が弱々しく呟いた。
「あんなの勇次郎じゃ……ない」
大根はただ呆然として、姉の想い人の変わり果てた姿を眺めている。
レフェリーが両者とも危険な武器などを隠していないかを確認すると、身の安全のために金網の外へ出た。扉をがっちりと閉めると、闘いの合図を──した。
「ファイッ!」
「ギャゴアァァアー!!」
勇次郎が両腕を広げ、ツキノワグマのように襲いかかる。
楸は素速く後ろへ3歩飛ぶと、距離をとったところから『気』で作った刃を飛ばした。
「陰キャ・カッター!」
しかし勇次郎はその剛腕でいとも簡単に刃を薙ぎ払う。
「クハハハハ! 俺様、強い! 地上最強!」
次々と連続して刃を放つ楸を物ともせず、ゆっくりと前進して行く。
「フッ……。追い詰めれば勇次郎の勝ちだ」
余裕の表情でメイファンが言った。
「あの陰キャ女子高生は飛び道具しか能がない。近接格闘になれば成す術がなくなるぞ」
勇次郎が楸のすぐ側まで近づいた。リングの端に追い詰めた。勝利を確信して笑い声をあげる。
「ウキャキャキャ!」
「よし、捕まえろ、勇次郎!」
メイファンが指示を送る。
「捕まえたらその弱々しい女子高生の身体を引き裂いて殺せ! バラバラにしてやれ!」
「やあーーーっ!」
大声をあげたのは、五月だった。
「勇次郎はそんなことするひとじゃないのっ!」
「ウギ……?」
勇次郎が気づいた。五月のほうを見た。
「勇次郎!」
五月が駆け寄り、金網越しに叫ぶ。
「あんたは口ばっかりでかくて、カッコつけだけど……、誰よりも優しいの、あたし知ってるからっ!」
「サ……ツ……キ……」
勇次郎の目に少し理性が戻ったようだった。
これを好機と楸が飛び道具を放つ。ただし刃は放てない。間合いが近すぎて、モーションがとれないのだ。代わりにとっておきの飛び道具を放った。口から放った。
「おい、デクノボウ」
ズキン! と勇次郎は心にダメージを食らった。
「聞いてんぞ。おまえ、一日で強くしてもらおうと、幼女にドーピングしてもらったんだよな?」
「ウゥ……!」
勇次郎の目に弱々しい色が浮かぶ。
「なっさけねーオトコ!」
ここぞと楸が畳み掛けた。
「あたしはな、この陰キャ・カッターを習得すんのに血の滲むような修行をしたんだ。おまえはなんだ? インチキじゃねーか。おまえみてーなクズ男、好きになってくれる女はいねーよな」
ドギャア! という効果音とともに、勇次郎の体力ゲージが半分に減った。
「サツキ……」
涙を浮かべた目で五月を見る。
「俺……、地上最強生物に……」
「ならなくていいよっ!」
五月が金網をかきむしるようにして叫ぶ。
「あたし……、細っちくて、口ばっかで──だけど全力で優しいあんたが好きだったんだからっ! そんなムキムキのハリボテみたいなあんたじゃなくて……っ!」
ガアァァン! という効果音とともに、勇次郎の体力が残り1%になった。
「ここだ! ここで超必殺技──!」
楸が叫ぶ。
「喰らえ! 陰キャ乱舞!」
楸が手に、足に、頭に『気』の刃を纏う。手に纏った刃は青と黄色に光り輝き、サイリウムのようになった。その状態でヲタ芸のダンスを、キレッキレで踊った。
「ハイッ! ハイッ! ハイハイッ!」
暴風雨のごとき効果音とともに勇次郎の肉が斬り裂かれていく。血の代わりに肉汁のようなものがリング中に飛び散った。
「ウギャアアアア!!!」
勇次郎の体力ゲージがゼロを突き抜けてマイナスになった。レフェリーが金網の外から叫ぶ。
「勝負あり! 勝者、青野楸!」
「フン……」
楸が教室で肘をついて窓の外を眺めるようなポーズをし、勝利の台詞を口にした。
「どっかにまともなオトコ……いないのかしら」
リングに倒れ伏した勇次郎の身体は、元の細っちぃ小学六年生に戻っていた。




