〇日目「エビ揉め」9
100日毎日小説チャレンジ、9日目です。
当初は0時過ぎや朝方投稿だったこのシリーズも、きづけば24時のリミットに迫ってきましたね。
こわい。
「ジョーォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「!?」
エイトは、借り物の大剣――そう言うにはあまりにも大きく、分厚く、VeryPoor、大雑把な――を振りかざして、見慣れたツインテールに襲い掛かる。
一閃。
腰の入った重い斬撃が彼を軽々と引き裂く――には至らなかった。フィクションであれば人なら優に、使い手次第ではドラゴンをも殺せるだろう破壊力。だがここはバーチャル世界、エイトが鉄塊じみたそれを振り抜いてもジョーの身体には何も与えず、ただ虚しく通り抜けるだけだった。
それでも突然、本気で自分が命を狙われて畏怖を感じない人間はいないだろう。
「うわああああああああ――って……なんだ、エイトか。はぁー……くっそ、びびらせんなよ」
「ふん……参ったか……はぁ、はぁ」
ジョーの呼吸が乱れる様に少しは鬱憤を晴らすエイト。もっとも彼は彼で現実でも同じ動きをしていたのでジョー以上に疲れているが。
それから通りすがりの黒い剣士リスペクトアバターに礼を言って武器を返し、振り返って尋ねる。
「アン・ズーさんに『100日小説チャレンジ』の事を伝えただろ」
「ああ? はあん。さては、アン氏に応援されて逃げられなくなったんだろー?」
合点がいったとばかりのにやけ顔のジョーへ、
「逃げる気なんて元々ねーよ」
「嘘つけ散々言い訳しまくってた癖に」
「したさ。でももう腹くくったんだ。今更逃げる訳ないだろ?」
「本当かねえ」
ただエイトにとって問題は「逃げるかどうか」ではなく。
「じゃなくて。よくもアン・ズーさんに言いふらしたなって言ってんだよ」
「いいじゃねーか、それくらい。つーか俺じゃない」
「は?」
意外な言葉に怪訝な顔を見せるエイトに対してジョーは、
「俺とカキラン氏だ。つーか知ってるのもアン氏だけじゃねーぞ。みんな知ってる」
「あーもう……最悪だ……。許さん……絶対許さないぞ、カキランちゃん……!」
『巻き込み事故ですわ!?』
もしもカキランがいたらそんな感じで驚いていただろう。そうエイトは妄想しつつ結局犯人が変わらない事に溜息をついた。
「結局お前じゃねーか。つーか『みんな』って……」
エイトが振り向くと同じワールドにいる知人たちと目が合う。皆揃って生暖かい目で頷きながら「頑張れよ」「応援してるぞ」「ジョーを見返してやれよ」「お前の勝ちに一万賭けてるからな」などと声を掛けられ、予想を超える最悪の状況に目を覆った。勝手に人を賭けの対象にするなと、と。
「あの話は僕らだけの話だろ……」
「確かに二人っきりだったけどよ、秘密だなんて言ってねーだろ?」
「言ってはないけどさー……」
「それにあれからカキラン氏と相談したんだよ。それで、やっぱ色んな人に知ってもらうのが一番って事になってよ。お前の背中押すためにアン氏を呼んでもらったり……カキラン氏には色々協力して貰いっぱなしだわ……」
「カキランちゃん……」
「『私はアンちゃんなら前向きに応援してくれるって話しただけですわ!? エイトさんの秘密だなんて知りませんでしたし、広めるのを無理やり決めたのはジョーさんですわ!?』ってカキランちゃんがここにいたら言いそうだな」
「お。確かに」
「やっぱ殆どお前の仕業じゃねーか」
「バレたか♡」
紳士な花の妖精がジョーのような事をする訳がない。そう信じているエイトによって、イベントキャストが大好きな愛の一番星・カキランの名誉はここに守られたのだった。
『絶対にイベントに当選しますわー!!!! ――すわー!! ――すわー……』
空に浮かぶ彼に幸運があらんことをと願いつつエイトは話を戻す。
「はあ……ま、知ってたけど。どうせこんな企むのはお前くらいだって。俺が書いてる事知ってるのはお前しかいないんだし」
「お、流石親友。お前なら分かってくれるって信じてたぜ。お前はほんと最高だぜー!」
「……いえーい」
「そこはもっと喜べよ」
「ジョー。親友って思ってるならもっと大切にしろよー?」
思ってる思ってる、とジョーは親友に相応しくない全く信用できない空返事で話を締めくくる。
「そういえば、何を書くんだ?」
「ラブコメ。好きだし、何だかんだ人気だからね。あと舞台は《VRCh@》で……って考えてる」
「ほー……」
思いの外はっきり宣言したエイトにジョーは関心するが、
「――けど、正直まだイメージがふわっとしてるかなー」
「おいおい……そんなんで書けるのかよ」
「まあ、多分? きっかけになるアイディアが見つかって大体の方向性が決まればねー。さすがに簡単なプロットは作らないと書き始めれないけど」
「ふーん。なら念のため何か罰ゲーム考えておこうぜ」
「『罰ゲーム』?」
「そう。『100日小説チャレンジ』の」
エイトは思わず露骨に嫌そうな顔をした。
「お前本当天才だよ」
「お。マジ?」
「ああ。人の嫌な事を考えさせたらお前の右に出るやついねーわ。悪友の鑑」
「おー。そりゃ俺の得意分野よ。『100日小説チャレンジ』は毎日投稿するのが肝だろ? 一日でもサボった時のために考えておかねーとな」
得意げに笑いながらジョーはペンを手に、空中に候補を書き連ねていく。
「確かに継続は大事だけど……そんな脅迫じみたチャレンジは勘弁して欲しいね……」
「分かってる分かってる。そんなやべーやつにはしねーからよ。ちょっとした遊びだって」
「本当かー? ……じゃあ僕も考えておくよ、罰ゲーム」
「お? でも罰になんねーようなしょっぺーやつだったら候補に入れさせねーからな」
「ちげーよ。百日後、もし最後まで投稿しきった時にお前にやらせる罰ゲームだよ」
「…………ちょっと後が怖くなってきたわ」
もし罰ゲームでエイトが嫌な気分になれば、その執念で百日後に倍返しされかねない。いや場合によっては倍で済まない、十倍か、あるいは百倍か。そう思うとジョーの背中が少しばかり涼しくなってくる。
「ま。罰ゲームはお互い楽しみにしとくか……」
「いや楽しみじゃないだろ」
「っつーか、大丈夫か?」
「何が?」
「もうチャレンジは今日からスタートだぜ」
「くっ……初めて聞いたぞ……!」
「初めて言ったからな。休みだし書き始めるのにちょうどいいだろー?」
確かに社会人のエイトにとって休日は貴重なまとまった時間。ジョーの言う通り、スタートダッシュを仕掛けるには丁度いいだろう。それが現在進行形で削られている事にエイトは焦りを感じ始める。
彼もジョーともう少しふざけ合いたいし色々言いたい事もあるが、仕方なく一旦《VRCh@》からログアウトする事にした。
「しょうがない。ちょっと落ちるわ」
「おお。プロット? いやアイディアだっけか。頑張れよー」
「ああ。おつー」
そう言いながら「まずはあいつに会って謝らないとな」と心に決めるエイトだった。
〇日目、これにて終わりです。次回からエイトの投稿一日目が始まります。
手直ししてたらリミットまで30分でわろた。