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〇日目「エビ揉め」7

100日毎日小説チャレンジ、七日目です。

寝落ちしてました。

「何が関係ないだ。簡単そうに言いやがって」


 どうして自分を思いやる友人に対してこんなにすらすらと言い訳が出るのか分からない。

 言い返してばかりの自分がどこまでも情けなく、どうしようもなく腹が立ち、「わかってねーよ」と言い放つエイト。口調にはいつの間にか怒気がこもっていた。


「100日だぞ。3カ月間なんだぞ。そんなに続けて書いた事なんて一度もねーよ」

「だからチャレンジなんだろ?」

「と言うかそもそも毎日時間削ってコツコツ書くとか。僕に一番向いてないだろ」

「ま。そうかもな」

「それに仕事が繁忙期になったらどうすんだよ。絶対書いてる暇ないだろ。そこまで運良く続いても全部パーになるんだぞ」

「その時はその時だろ。いいじゃねーか駄目で元々。あくまで挑戦なんだからよ。失敗したって、上手くいかなくたって、それで」

「適当な事言いやがって……」

「だってもし途中で終わっても、そこまで頑張っただけで十分すげーだろ。そうだな、もしもそん時が来たらまあ、みんなで『お疲れ様会』でもしようぜ」


 ジョーはそう笑って吹き飛ばした、エイトの鬱憤を。高解像度の満月が霞むくらいの眩しさで。

 ここで、いつもみたいに飲んで、一晩中ふざけてさ、と続けて。


「ああ――くそ――」


 自他共に認める怠け者なのが、共通認識だと思っていたのに。こいつなら生半可な応援も諦めてくれるだろうと信じてたのに。

 逆にここまで信じられて逃げようなんて、馬鹿みたいだ。

 乾いた笑いを零しながらエイトが背中を丸めた。そのまま暫く黙り、やがて声を絞り出していく。


「……ずっと――」


 気持ちの整理をしながら、一呼吸置いて、


「ずっと、書くことから逃げてきたんだ」

「……そーか」

「また……書いていいのか」

「ああ。好きなだけ書きな」

「本当はさ。ずっと……書きたかったんだ。創作がめちゃくちゃ好きだったんだよ。一日中、毎日、飽きるまで。ずーっとそれだけしていたかったんだ」

「楽しいだろうな」

「……だろうな。もっとたくさん。最高の世界で。心躍るシナリオで。自分の考えたキャラクターをとことん活躍させて、どこまでも連れて行きたかった……」

「おお。やってみろよ」


 気が付けば、書くのは辛い事だと。それがエイトの中で当たり前になっていた。

 面白くなければならない、整ってなければいけないという硬く冷たい非常識が、溶かされ、崩落していく。

 そして最後に、親友からの駄目押しの一言が、


「俺も、お前が書いた話、読んでみたいしな」

「ッ――――……」


 十年来の付き合いの彼が読みたいと、期待してくれている。字書きとして嬉しくない訳がなかった。

 エイトにはもう、創作から逃げようなんて意識はどこにも、かけらもなかった。


「だったら……そう、だな……」


 なら邪魔になるのは己の中にしかいない事になる。

 疲れた頭でそんな判断をすると、デスク上のアルコールを掴んだ。ちびちび飲んでいたからか、飲む気力がないからか。開けてから数時間経っているのにまだ半分近く残っているアルミ缶を、呷る。自分の脳内に住む冷静でものぐさで厄介な論理的思考を酔い潰すために。

 エイトが滅多にしない飲み方にジョーも最初は目を丸くし、その内に失笑して見守った。


 空にして、重力のまま振り下ろし、なりふり構わず息を吐いた。


「っかーーーー……!!!!」


 旨い。

 アルコールが五臓六腑に染み渡り、脳内麻薬が溢れ出す。脳髄が快楽の奔流に溺れて歓喜を上げるのを全身が感じている。

 そして精一杯の答えを捻りだした。


「一晩、考えさせてくれ……」


 奇胎(おそれ)呵責(せめく)銷魂(ぜつぼう)

 ずっと逃げて来た。

 あの場所へ還るのはそれだけで重く、醜く潰されかねない旅路だったから。


「いーや。駄目だね」


 そう言って軽い口調で首を振るジョー。


「……何がだ」


 回らない頭でエイトが尋ねる。


「まだ逃げる気か?」

「う……」


 言葉に詰まるエイトへジョーが楽しそうに捲し立てる。


「今決めろ。すぐ決めろ。生憎ここがてめーの墓場だ。やるか、やりたくないけどやるか。書いて死ぬか、地獄に落ちて書くかどっちだ?」

「どっちだって……どっちも同じじゃねーか。馬鹿みたいな事言いやがって」

「いいじゃねーか馬鹿で。能天気になって自棄っぱちでやっちまえば。どうせこんな事じゃ死なねーんだ。やりたいんだろ? 男になれ、エイト。どうなんだ? 書きたいのか? 書きたくないのか?」

「くそ。お前譲る気ねーな」

「そりゃあな。これ以上つまんねーお前を見せるなよ」

「あー……もう――」


 エイトは荒っぽく自分の髪をかき混ぜた。溜息と共に、


「わかったよ……やればいいんだろ?」

「お? 言ったな?」

「言ったさ、決めたさ、腹くくったわ。こんなに応援されて逃げるかよ」

「かかかっ。よくぞ言った」


 そういいつつもジョーは少女の声色で挑発してきて。


「でもほんとにできるのかなぁ?」

「うっせー! お前はどっちなんだよ! やるっつったらやるんだよ!」


 決めた以上はもう、何を言われようが後には引けないのだ。

 目の前の親友と今までの自分自身へ、秘めた覚悟を投げ遣りに宣言するのだった。


「100日チャレンジぐらい俺にもできらぁ!!!!」

仕事行ってきます。

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