一日目「ラブコメ回と磔刑」5②
100日毎日小説チャレンジ、5日目です。
あんずー可愛いね。
確か緩めのファッションだった、とエイトは思い返す。
全体的に防御力が低そうな、小悪魔系の彼女らしい少しコケティッシュなモノトーンの装い。それが昨晩と昼間会った時のアン・ズーだった。
ところが今は打って変わって清楚。
小さな翼を生やして文字通り天使のような真っ白な衣装にその身を包んだ彼女は、これまでとは真逆のイメージに変貌していて、離れて見守っているエイトを静かに驚かせる。
「……」
海をバックに砂浜で遊ぶ可憐な少女。
その光景は余りにものどかで、素朴で。けれど、どこかアーティストの描いた風景画を思わせる特別さがあった。いつの間にか魅了されていたエイトは思わずメニューからカメラを出して一枚撮影。
それから波打ち際に描かれた絵に、なんだろう、と目を向ける。
とても見覚えがある形状。
おそらくは誰もが知っているであろう、とぐろを巻いた独特のイラストに、
「…………………………………………うんこ?」
しかし見えたのは一瞬。
もう跡形もない。
思考が止まっている間に落書きは波にさらわれてしまっている。
「まさかね……」
そう呟いていると「あ!」と叫び声が聞こえた。
勿論声の主はアン・ズーである。
「今写真撮ったでしょ!!!」
「へ? あっ、あっ……え、えっと……」
うん、と認めるべきだろうか。もしくは直ぐに謝ったほうがいいのか。
エイトが迷っている内に彼女は大股で詰め寄って片手を差し出し、こう言った。
「一万円」
「…………え?」
「一万二千円!!!」
撮ったなら写真代を払え、という事らしい。
ようやく彼女のいう事を理解したエイトは慌てふためいた後、
「……あ、ああっ!! ええっと、あの、その――ごごごごごごごごめんなさいっ!!!!」
咄嗟にその場で土下座する。
女性が苦手という点とアン・ズーの突拍子もない要求が組み合わさり、エイトは一秒と掛からずに全身で敗北宣言。頭を下げる潔さ、真っすぐに揃えられた両手と爪先、擦りつけられた額――整い過ぎて逆に美しくさえあった。
一方で、砂浜で天使にカツアゲされて土下座するハロウィン女性の姿は、アン・ズーにはあまりにも滑稽で、情けなくて、
「……………………ふ、ふふ……くふっ。あはははははははっ……!」
堰を切った様に頭上から聞こえてくる笑い声にエイトは、呆気にとられつつ、そおっと見上げながら名前を呼んだ。
「あ…………アン、ズー、さん…………?」
「――……なーんちゃって」
「……え、っと……?」
「じょーだん! 冗談だよ~~!!! お金なんて取る訳ないでしょ。あー、可笑し」
「……………………お。怒ってない……?」
「怒ってないよ、ないないナイジェリア。だから冗談だって言ってるじゃん」
アン・ズーの相変わらずの小悪魔フェイスを見てエイトの緊張がほっと解ける。逆に緊張していた分だけ疲労が押し寄せて、砂浜に顔をうずめる結果になってしまう。
「でもちゃんと撮る時は一言、相手の許可を取る事。《VRCh@》のマナーだよっ」
「う、うす……」
「ぷ……ふふっ。また出た、『うす』。うすうすっ。エイト君って本当、面白い人だよね」
褒められているのか馬鹿にされてるのかはよく分からないが、彼女に言われると何となく照れてしまうエイトだった。
いつもたくさん読んでいただき、ありがとうございます。
最近になって気付いたのですが、「アンズー」と言う名前の聖獣がいるらしいです。アンズー神話なるものもあるとか。さらに同じ名前の恐竜もいるとか(由来は前述の聖獣?)
完全に偶然なのですが、親近感が湧いて面白いです。
ではまた明日。おやすみなさい。うとうと




