一日目「ラブコメ回と磔刑」1
100日毎日小説チャレンジ、10日目です。
もう1割終わったと思うと楽勝やなガハハと言う気分です。
エイトにとっての『100日小説チャレンジ』もここから始まります。よろしくお願いします。
休日の昼間にしては珍しく《VRCh@》からログアウトするエイト。
それは勿論始まったばかりの『100日小説チャレンジ』に集中するためであり、そしてもう一つ、ある古い相棒に会うためでもあった。
「元気にしてるといいんだけど――」
VRゴーグル等の装備を外してデスクに置き、普段荷物置き場にしているキャビネットに目を向ける。帰宅して置いてからそのままになっているジャケットはとりあえず椅子に掛け、鞄は下ろす。
年季の入ったキャビネット。
エイトが子供の頃から愛用しているそれが今は、全ての引きだしがガムテープで雁字搦めに固められた奇抜な姿を見せている。
創作ノート、創作本、類語辞典――彼が断筆した時に使っていた創作関連の物。それが目に入った時の虚しさから全てこのキャビネットに押し込み、持っていたガムテープ一本丸ごと使って封印したのだ。
「書くっていうなら、まずはこれを何とかしないとな……」
この状態では小説を書いてるなんて言えない、と思いつつも何重にも貼られているので全て剥がすには骨が折れるだろう。
エイトはずる賢く棚からカッターを取り出す。
「大人を舐めるなよ……」
キャビネットが綺麗である必要はない。とりあえず一段目の引き出しが使えればいいので、かつての自分に悪態をつきつつ前板の周囲に沿ってテープを切り裂いた。
一分もかからない簡単な作業。
もう何年前の事だろう。おぼろげで本人にも覚えていないが、こんな事で封印して逃げた気になっていた当時の自分を懐かしみながら「馬鹿だな」と失笑した。
さて一段目の引き出しの中身はというと記憶通り十冊ほどの大学ノートが入っていた。表紙背表紙共に汚れて角も折れてしまっている使い古された汚いノートには全てナンバリングが割り振られており、数字の前には『創作ノート』とある。
その内の一番目を開いた時、彼女は口を開いた。
「遅い」
振り返る。
いつの間にか机に腰かけて膝を抱えていたのは黒髪と緋色の魔法使い。帽子の影から猫耳を覗かせる不思議な少女。
こみ上げてくる懐かしさに表情を綻ばせながらエイトは呼んだ。
「ユミィ……! 久しぶり」
ユミフェリア・ヴィオラ・サジタリウス。
それが彼女の名であり、そしてエイトが初めて考えたキャラクターの名前だった。
通称・黒猫のユミィは異世界の猫又で、魔女で、一流の冒険者だ。
猫として生活していた彼女はある時人間の姿になって困っていた所を高齢の魔女に保護されてそのまま弟子入り。そして魔女が亡くなった後に自分も魔女を名乗って冒険者として人間社会で独り立ちを始める。生来の野生の本能と運動神経、そこに魔女から授かった魔法を組み合わせて戦う――という設定のキャラクターである。
ちなみに絵が描けないエイトの妄想にも拘らず、はっきりと彼が自画自賛するクオリティの美少女キャラクターに見えているのは日頃の行いとオタ活によるものだろうとエイトは考えている。
「……?」
昔エイトは、よく想像上のユミィに話しかけていた。頭がおかしくなった訳ではない。いわゆる創作論の一つとして。彼女の物語を考えるためにそうしていたのだ。
しかし執筆中に彼女と話を続けていく内に家族といる時や学校にいる時、小説の事を考えていなくても脳内にユミィが現れるようになり、やがて本当に現実に生まれて自分の部屋に住んでいるように見え始めてしまう。そうやって誕生したのが妄想彼女のユミィである。
気が付けば自分の意思を離れてコントロールできなくなっていた彼女だが、何故かはエイトも知らないが彼女は当時の創作ノートNo.1と紐づいていた。それでノートをしまいこむことで彼女と別れる事ができたのだ。もっとも時々引き出しから彼女の声や物音が聞こえた気がしていたが。
「はぁ……何の用?」
久しぶりの再会だというのにユミィは嫌そうに溜息。あまりにも素っ気ない態度にエイトは困惑しつつ、
「何の用って」
「ずっとそこに閉じ込めてたアンタが用もなく会いに来るはずないじゃない」
「あ……そうだったな」
自分がやってきた仕打ちにようやく気付かされる。確かにこれが現実なら人としてあるまじき行いだ、怒るのも当然だろう。
「ご、ごめん……。いやさ、久々に書こうと思って。小説」
「はあ? ずっと逃げてた癖に? 私と小説から」
「うっ……」
「面白い小説書くんだーって意気込んでたからこの私が監督して、いつでも隣で一緒に考えてアドバイスしてあげたんじゃない。なのに途中から、今日はいいとか、明日やるとか、今はインプット中とか。ずーっと言い訳とゲームだけして逃げてばっかだったわよね」
「……はい」
「終いにはこんな狭い所に私を閉じ込めて? ほんといい趣味ね。そんなに私が嫌いになったんならさっさと破くなり燃やすなりしちゃえば良かったのよ」
「いや、それはちょっと……勿体ないだろ。せっかく書いたのに……それに僕らの大切な思い出だろ?」
「ッハ! 何が大切な思い出よ、気持ち悪。それに嘘ばっかり。勿体ない? 創作ノートが? あんなガキの黒歴史ノート、書くのやめたアンタに他にどんな使い道があるのよ。メル○リでも売れやしないわ」
「おっしゃる通りです…………」
「結局そんな勇気もなかったから監禁趣味に目覚めたんでしょうけど。変態作家さん」
痛すぎる事実を突きつけられて萎れていくエイト。
ユミィは監督役として優秀だった。
小説を一人で書き続けるのは簡単ではない。短編小説ならともかく長編ともなれば書き上げるのに時間がかかる上に、既に物語で溢れかえった世界では初心者の稚拙な小説を喜ぶ読者は少ないだろう。怠け癖のついた子供の元へ異世界から現れた愛らしい相棒。この大事件は正に僥倖だった、とエイトは当時を振り返る。
ただ一方で、当時の彼は困り果てた。
「こんな面白い事から逃げるなんて。本当訳が分からないわよ」
ユミィが創作にハマり過ぎたのだ。
一緒に小説を書いていく内に彼女はその面白さを知った。優秀な冒険者という事もあってか、本来創作については縁遠く無知なはずなのに一緒に本を読んで学んだ事で創作論にも詳しくなり、頼もしすぎる相棒になってしまったのだ。最終的に創作が好きすぎた彼女は正論でエイトに書く事を求めるようになってしまい、一方でエイトは就職して忙しくなったがまだ遊びたい盛りで。話作り以外にもやりたい事が盛り沢山だったエイトにとってユミィは悩みの種になってしまう。
その結果、少しでも面白い小説を書こうとして苦戦するだけでなく、書け書けと小煩いもう一人の自分が嫌で、エイトはノートと共に彼女を封印したのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
新キャラのユミィ。名前は長い付き合いのフレンドからパク……インスピレーションもらいました。
名前だけパクってそれ以外全然似てないのは悪しからず。




