〇日目「エビ揉め」1
100日毎日小説チャレンジ、やります。やらせてください。
季節は冬、腹の虫がすすり泣く夜七時。
暖房節約に貢献していた日もすっかり沈み、粗悪な玄関ドアから吹き込む冷たい隙間風と安いヒーターの熱風が激しくいがみ合っているワンルーム。
くたびれたスーツ姿の住人・エイトは体を縮こめながら夕食を調理していた。
もっとも調理といっても彼の献立はたった一品の主食のみで、手順もクッ〇パッド要らずで簡単。紙蓋を開けて湯を注ぐだけなのだが。
「エ〇揉め。〇ビ揉めエ〇~を~揉~め~、揉め。こんなにたい~せ~つ~な~……――」
小さなポットが健気に湯を沸かすのを待ってる間、甲殻類を揉み続ける意味不明な歌を手持無沙汰に口ずさむエイト。
暇そうにしている割には、彼の雑な性格をよく反映したかのような手狭で使いづらいシンクに残った洗い物は手付かずだ。気にする様子がないどころか、いつ置いたか記憶にもない。きっとコップが足りなくて困るまで、当分洗う予定もないだろう。
やがてポットが小気味いい音を立てる。
白い湯気を立たせながら乾燥麺の上に注ぎ、食欲をくすぐるインスタントな匂いと共に部屋の奥へと持っていった。
「――〇ビ~揉んで、くれてあ~り~が~と~お~~~~」
すっかり薄くなった敷きっぱなしの布団を踏んづけ、とっくに乾いているシャツが並ぶ部屋干し用の物干し竿を横目にPCデスクへ。ジャケットと鞄ををガムテープだらけで鬼気迫ったキャビネットの上にいい加減に載せると引き出しの中から抗議の物音がした。
首元を緩めつつ日中休んでいたゲーミングPCを叩き起こした。醤油ラーメンをすするついでに、トラッカーやVRゴーグル、ヘッドフォンを装着。彼が心身を削って得た対価によって構築した理想の環境だ。
住み慣れた、エイトにとっては居心地のいいレイアウトの一室。
とはいえ人によっては最悪だろう。
潔癖症なら見るに堪えない机上のダンジョン。
不朽の名作のついでに埃もコレクションした本棚。
休日まで脱ぎ捨てられる運命だろう仕事用のシャツ達。エトセトラ――
人を招くにはとてもじゃないが厳しい――もっとも現実に招く友人なんていないのだが――ズボラの器に収まらない、常人なら顔が引きつってもおかしくない環境。それが九里エイト・三十七歳・独身のマイホーム(家賃四万円)だった。
そんな彼は今からこの部屋で、ある美少女達と会う予定だった。
毎日投稿(一敗目)
・補足
既に友達に「今日からやるぜ」と宣言した当日にチャレンジ失敗してます。