1話 私という魔法使いとしての格
夜歪気と申します。
ファンタジー初めてで、温かい目で見てくれると嬉しいです。
私の固有魔法『執筆家』はある一つのメモ帳を使う。
それには今まで書いてきた概念や人物、はたまた道具だってあった。
今でも、見さえすれば直ぐにでも思い出せる。
1ページに綴られる物語は、どれも魅力的で大切なものだ。
そして、どんな本にも必ず著者名が載っている。
このメモ帳が本だという確証は、著者本人である私でさえ分からない。
だが、ライターを発動した初めの時から私に関する事が書かれているページが存在していた。
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名前:紡記 三黎
固有魔法:ライター
容姿:白銀の髪に、碧い目。白色をベースとし、所々に水色や青色の装飾がされている制服を着ている
行使可な魔法属性:炎・水・風・土・雷・聖・闇。その他にも、時間・創造・神罰系統の属性や独自の魔法も使える
魔力総量:詳細不明
戦闘:主に魔法を駆使し、その合間に剣技を繰り出す。剣自体は細く、重量がそこまでない
階級:魔帝と推測。本人は自覚なし
詳細:このメモ帳の著者であり、魔法を超越する才を天賦している。今現在、歳は16。世間一般的には、まだ成人はしていない。しかし、成人が18なのを考えるともうすぐである。
三黎は、未だにライターを完全には発動出来ない。これには要鍛錬が必要とされる。
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と、このような感じだ。
大体見てわかると思う。ただ、複数箇所を除いて。
突然だが、私の階級は魔帝⋯⋯⋯らしい。
この世界には強さや偉さを示す為に階級というものがある。
上級魔法使い→未強 神殿魔法使い→聖師 源魔法使い→魔帝
再度言うが、私の階級は魔帝。階級の中では、一番上なのだ。
それに、魔帝とは世界に15人居るか居ないか。
魔法使いの総人口が約3億人なのをみると、余りにも少ないのが分かる。
そして、これ程までに凄い階級が私にはあるらしい。
事実、それに値する程の力を持っているのかもしれないが、如何せん私は自分の階級を調べたことがない。
だから、このメモ帳は私の知り得ない事を知っている。
自分の魔法なのに、良く分からない。
先程、詳細の所に書かれていたが、私はライターを完全に発動出来ていない。
それ故に、自身の魔法を全て認識していないのかもしれない。
これは、もう私の力不足だ。
地道にしっかりと鍛錬していく他ないのだろう。
「はぁ、本当に先が見えない⋯⋯⋯」
私はそう愚痴をこぼしつつ、ライターという魔法と向き合うのだった。
❋ある荒野
「何これ〜!?ずっと景色変わんないんですけど!」
私は思ったことを言った。
少し目の岩に、地面はでこぼこしている。青い空が雲一つないように、辺りには何もない。
あるのは、荒れ果てた大地。移り替えのしない、つまらない景色。
それが何時間も続いているのだ。
「いや、仕方ないでしょ。ワタシも我慢してるの。あともう少しの辛抱だから」
そう言うのは、地図をもったユギルだ。
ユギルは、身長190cm以上の男性で顔も結構整っている。
固有魔法ライターで創った、私の息子だ。
いつも道案内をしてくれる頼もしい男なのだが、幾分オカマ口調なので威厳とかは余りない。
逆に、諭すような言葉からママと思わせる。
って!私がママやろがい!
⋯⋯⋯⋯自分で自分にツッコミを入れる。何とも虚しい。
遂に私の頭が狂ってしまったか。
「もうヤバイよ、色んな意味で」
「何言ってるの?ママはいつも通りよ」
「戦闘専門な私が、何日も戦ってないんだよ。ストレスもイライラも積もりに積もってるの」
「あら、そういう事ね」
オイ、何だその納得した顔は。
この現状に、普通納得しちゃだめだろ。
私の我慢メーターが壊れたら、何しでかすか分かったもんじゃないよ?
ユギルはそれで良いの?
「だったら、ママ。ワタシの見える範囲だったら離れていいわよ。魔法だって発動しても構わないわ」
「⋯⋯⋯⋯ユギル、それマジ?」
「えぇ、大マジよ」
「よっしゃぁーーーーー!!!」
ユギルの言葉に、私はテンションが上がる。
何故って?退屈な時間にさようならが出来るのだから当然だろう。
戦闘も何もなく、ただ歩くだけ。
無限の如く広がっているのではないか、と思うこの荒野を。
しかし、ユギルからの許可が出た今。
そんなつまらない荒野は、私の魔法で彩ってやろう。
暇つぶしも兼ねて。
「じゃあ、ユギル♪私行ってくるね!」
「余り遠くに行っちゃ駄目よ?それに大き過ぎる魔法は止しなさいよね」
「分かってるよ、それくらいは私に任せてよね!」
私はそう言い、ユギルの元を走りながら離れていく。
多分、その姿は無邪気な子供に見えるだろう。
新しいおもちゃを買ってもらった子供の気持ちが、今では分かる気がする。
いつの間にか私の身体が軽く、走るというよりスキップみたいな感じになっていた。
「全く。これじゃ、どっちが保護者が良く分からないわね」
もう遠くなってしまったユギルからは、そう聞こえた。
呆れながら、でも何処か慈愛に満ちた声で。
そんなユギルに私は思う。
何言ってんだ、この子は。私が保護者に決まってる、と。
そして、気付いたらある程度離れていた。
目にして、大体700m以上。
ユギルはもう豆粒程度の大きさになっていた。
「良し、ここまで来たら大丈夫でしょ」
私は辺りを見渡し、安全かどうか確認する。
何もないのがこういう所で役に立っているな。
これなら範囲がデカい部類の上位魔法だって発動出来る。
⋯⋯⋯⋯もしかしたら、私の魔法もいけるかもしれない。
独自で開発した魔法系統『魔砲』。
膨大な魔力を消費する代わりに、高威力の攻撃を超広範囲に放つ。
それに、この魔砲の最大の特徴と言っても過言ではない事。
それは属性付与が出来る点だ。
炎や水、聖や闇。時間・神罰といった属性を魔砲に付与し、それを高威力として放てる。
この世界の魔法は相性があることから、これは余りにも利点過ぎる。
膨大な魔力を消費するという欠点はあるが、私の無尽蔵な魔力ならその欠点さえもないのと同然だ。
っていう事は、実質この魔法系統は完成している。
しかし、それでも開発段階なことから簡易化は出来ていない。
つまりはあの長ったらしい詠唱が必要だということ。
基本的に私は無詠唱で魔法の発動が可能なので、詠唱のあるなしの差が分かる。
想像し、魔法名を言うだけで発動完了。
無詠唱とは、言わせてみればチートだ。
「でも、ごちゃごちゃ言った所で仕方ないか」
唯一の良い点。ポジティブ思考が働く。
私は気持ちを切り替え、前を向く。
そして、両手に意識を集中させる。
手というコップに魔力を溢れんばかり注ぎ込む。
限界まで、水の表面張力みたいに。
どんどん満たされていく感覚になる。
私はそれを感じ取り、この魔砲を発動する上でとても大切な詠唱を唱える。
系統:魔砲 属性:聖
「民も国も失った一人の王よ。誰もが注目する国であった"かつて"という栄光を忘れんと欲すならば、この大地に汝らの爪痕を残したまえ 孤王の一振り」
私の後ろに大きな魔法陣が現れる。
それを一目見れば美しい、とそう思うに違いない。
描かれた図形や文字の羅列さえも。
そして、私の詠唱が唱え終わると、魔法陣からはユギルを超える大きさを持つ剣が出て来る。
剣は特異なオーラを放っており、まるで詠唱に出る孤王のものではないか、と思えてしまう。
ルジリスク。独自系統─魔砲。そして、属性─聖。
私の計算だと、発動したら指示した方向へと向かって行き、どんな対象も一刀両断する。
その時に注ぎ込まれた魔力を全て解放するので、前方に斬撃を繰り出す。
つまりは、二段階攻撃だということ。
我ながらとんでもない魔法だと思い知らされる。
私は、そう再認識すると40m先にある大きな岩に行け、と剣に指示を下す。
そうすると、剣は水平となり風を、音を切り岩に向かっていく。
少しだけだが、剣に青空が反射しているのが見えた。
「⋯⋯⋯凄く綺麗」
これから猛威を振るであろう魔法には、余り似合わない感想だ。
しかし、それも別にいいだろう。
幻想を与える、元はそれが魔法の考えであったのだから。
そして、美しい剣は岩へと到達する。
一瞬、時空が歪んだと思った。
剣が岩を真っ二つにし、その余韻は虚空に響く程だったからだ。
だが、驚くにはまだ早いだろう。
このルジリスクは二段階攻撃だ。まだ斬撃が残っている。
剣から放たれた碧い斬撃は、地面へと当たる。
豆腐のように、柔らかい物を切るみたいに。
地響きもしないで、大きな亀裂が生まれた。
自然的なものではなく、人工的に創り出されたものだ。
でも、亀裂は元からそこにあったかのように存在した。
「何⋯⋯これ。もう魔法じゃなくて、災厄でしょ」
ルジリスクを発動した本人の私ですら、こう思ったのだ。
最初から全て見ていた他者は一体どんな事を思うのだろう。
災厄⋯⋯⋯。これは余っ程の時じゃない限り発動出来ないな。
惜しいが、ルジリスクは心の内に留めておこう。
余りにも苦渋の決断。私以外の人だったら無理だろう。
私はそうして気分を紛らわす。
なんせ、最高傑作の魔法を使えないし⋯⋯⋯それにこの亀裂を直さないといけないから。
地図を変えてしまえかねない亀裂が急に現れたら、怪しすぎるだろう。
はぁ、精神と身体どちらにも大ダメージだな。
自重しなかった私の責任だが。
「上位土魔法なら直せるか?」
私は未だに枯渇という二文字を知らない魔力を使い、上位土魔法を発動させる。
亀裂を強引に埋める作戦だ。
我ながら足りない頭を駆使して考えたが、良い案だと思う。
上位魔法なら無詠唱でいけるから、時間短縮になるし。
私は早速実行に移す為に、頭の中で今から行使するであろう魔法のプロセスを想像する。
この時間は一瞬。
次には、もう魔法名を言うだけで発動出来るようになっていた。
「大地の恵み」
私は目の前の大き過ぎる亀裂に向かって魔法を放つ。
ゴゴゴ、と地面から音が鳴り大地が揺れる。
ルジリスクみたいに静かじゃない魔法だな、と思うが仕方ない。
土を新たに生成して、それを亀裂に合わせて動かしているのだから。
しかし、それにしても⋯⋯⋯⋯はぁ。
ユギルの目が痛い。こりゃ、お説教コース突入ですわ。
余り大きい魔法は使わないようにって言われてたのにな。
ヘルグランドは流石に駄目だったか。
でも、全ては思った以上にルジリスクが強過ぎた、結論これだ。
あの時、魔力を多く詰め込みすぎたせいかな?
それとも私の魔法適性が高すぎたから?
はたまたどっちもという可能性かもしれない。
だが、もう過ぎたことだ。
今後悔した所で意味がない。
ここは素直にお説教を受け入れるしかないのだろう。
私はそう思いつつ、目を向ける。
地図を持ちながらも、怪訝な表情をしているユギルの方へと。
そして、歩き出す⋯⋯⋯かと思いきや。
「オイオイ、何だよ」
「痛いったらありゃしねェ。全くツイてないな」
既にボロボロになり、岩と呼んで良いか分からない物体の影から声が聞こえた。
低い変な声とチンピラみたいな声が二つ。
聞く限りだと、男性と推測できる。
ここ最近ではユギル以外の声はずっとなかった。
つまりは、ず〜と隠れていたのか?⋯⋯⋯⋯怪しいな。
私はそう思うと、バックステップを踏む。
そして、一旦距離取った所で警戒態勢をとる。
片手には神罰魔法を、もう一方の片手には聖魔法を。
身体を麻痺させたり、束縛させる。要するにデバフ系の神罰魔法を食らわせた後に聖魔法でドカーンとやっつける。
これこそ先手必勝。奇襲以外なら勝てる。
「出てこい!この⋯⋯⋯⋯変態共!」
姿が見えないので、そう言ってしてみる。
初対面なのでなんて呼べば分からなかったが、私を付けてきたという行為から変態としておく。
しかし、男2人組は変態と称されても何も抵抗してこい。
もしや、Mなのか?
少女から罵られるのが好きな、特殊性癖持ちとでも言うのか?
そんな感じで、ありもしないことに考えを巡らせている時。
多分、声の主である男2人組が物影から現れた。
私は注意深く観察する。
⋯⋯⋯やはり、私の想像していた通りだな。
ザ・小並感が漂うチンピラだ。
「武器は、ナイフだけか」
物を奪うつもりだろうが、如何せん武器がナイフ一本だけという。
リーチが短く、余り役に立たないのだが。
それに私は剣を持っているんだし、尚更なのに。
しかし、チンピラ達はそんなのお構い無しに、私へと話しかける。
この状況分かっているのだろうか?
「お嬢ちゃん、どう落とし前つけてくれるのかな?」
「持ってるもん全部よこすか、それともお前の身体を自由に出来るってんなら考えなくもねェがよ?」
「⋯⋯⋯⋯」
コイツら、私が女の子を良いことに色々と言ってるな。
"普通"の子ならそのまま従うしか無いが。
今回は流石に相手が悪すぎたな。
「すみませんが、私は何もあげません」
そう言い、挑発する。
こんな状況で抵抗する人は初めての筈。
私は、男達の顔を見る。
そうすると、驚きや困惑といった感情が読み取れる。
だが、だんだんと言葉の意味を理解したのか顔が赤くなっていく。
フッ、煽り耐性低すぎだろ。
「チッ、ふざけた事言いやがって!舐めんなよ、このクソガキが!」
「そんな服着て、何処ぞのお嬢様かしれねェがそんな事関係ねェ。今、ここで!分からせてやんねェとなぁ!」
「ヤバ、メッチャ興奮してるじゃん」
「お前ら!ヤッちまえ!」
一人の男がそう言うと、何処からか突然15人程度の集団が現れた。
コイツら、初めから多対一で仕掛けてくるつもりか。
魔法使いは6人。剣士が4人。盾士が5人。そして、先程の2人は司令官。
⋯⋯⋯何だよ、思ったよりガチガチにパーティー組んでじゃん。
少女一人に過敏戦力だっつーの。
「まぁ、ただコイツらが弱いだけか」
「あぁ?何言ってんだオメェ。強がるのも大概にしろよ!」
集団の内の一人が私に言う。
いやいや、それはこっちのセリフなんですがねぇ。
この戦い、私にしてみればお遊戯なわけ。
赤子の手を捻るみたいに簡単っていうこと。
なのに付き合ってあげる私、超優しいじゃん。
でも、コイツらはそんな事も理解できない。
相手の強さすらも分からないおこちゃまが何粋がってるのか知らないけど、私から言わせてみれば⋯⋯。
「何強がってんだよ、この弱者が」
私がそう言い終わると、必然と戦いの火蓋は切って落とされた。
はぁ、事実を伝えただけなのに。
コイツらには、その事実が気に入らなかったらしい。
現実を受け止められないなんて、本当におこちゃまなのかもしれない。
まぁでも、コイツらは大人なわけですし?
ちゃんと現実見なきゃ駄目だよね?
って事で、今からコイツらには痛い目に遭ってもらいます!
「聖者の御祈り」
上位聖魔法。
力、スピード、反射神経などを限界まで高める事が出来るものだ。
私は自身が強くなっていくことを感じ取った後、白色の鞘から愛用している剣を取り出す。
右手に剣、左手には常時魔法展開。
クックック、これで準備完了だ。
今から、コイツらには休む暇のない攻撃の雨をとくと堪能させてやろう。
「蹂躙開始だぁぁーー!!」
「な、何だアイツ!?急に大きい声だして?」
「頭おかしくなったのか。陣形をちゃんと組んでおけよ!」
「アッハハハハ!」
余りの感情の高ぶりに思わず声を出してしまった。
失敬、私は可愛い女の子。
誰もが一目惚れする可憐な少女。
だが、その子は今は戦闘をしている最中だ。
私が作り出す風で銀髪がなびく。
スカートはひらりと動き、白い足をより魅せる。
こんな美少女に倒されるのだ。
コイツらも本望だろ⋯⋯⋯⋯多分。
私は突進しながらそう考える。
横に不動の如く並ぶ盾士が、私の目の前へと現れる。
身長程の大きい盾が、太陽の光に反射されてギラリと輝く。
しかし、私はそんなの気にしないで剣を構える。
目標───盾をぶっ壊す。
「防御態勢!防御態勢をとれ!」
そう指示する声が聞こえるが、私は無視する。
剣速を高めるために、肩の力を抜く。
そして、当たる瞬間に力を込めて思い切り振る。
セイクリフトにより強化された身体能力も合わさって⋯⋯⋯。
視界に映るのは、残像しか見えない白銀の剣だけ。
それを認識した瞬間、盾は見るも無残に壊れていた。
私に綺麗な断面をチラつかせて。
「はぁ!?た、盾が一瞬で!?」
「折角新調したばっかりだってのに!もう使い物にならねぇよ!」
「リーダー!どうすんだよこれ!」
と、何か喚いている。
そんな柔らかい盾を使っているからだ。
もっと良いやつを買えばよかったのにね。
そう思いつつ、私は盾士から剣士へと注意を向ける。
今度の標的はあいつらだ。
盾士を倒した今、剣士なぞ脅威ではない。
パーティーでの利点は盾士居てこそ発揮されるものである。
攻撃を盾で受け切り、剣士がカウンターする。
その合間に魔法使いが後衛から援護。
だが、コイツらはもうそれが出来ない。
慢心は良くないが、この戦い⋯⋯⋯勝ったな。
「「「炎の化身よ、今この場にいる愚者に慈悲なき鉄槌を下したまえ!」」」
私が気持ちをリラックスしていた所に、詠唱の一部が響き渡る。
しかも、これは複数人で行う多重詠唱。
チッ、魔力全部つかって特大の上位炎魔法を放つ気か。
失敗だ。思ったより魔法使いの実力が高かったな。
このままでは、辺りが火の海と化してしまう。
少なくとも半径1kmは。
あぁ、クソ!まだユギルが居る中、そんな事させてしまったら⋯⋯⋯。
考えたくもないな。再度召喚すれば良い話だが、生憎それだと私の気分がおかしくなる。
息子を守れずして、はたして私はママと言えるのか?
答えは否。そんなの親として最低の行為だ。
なら、どうするか?
────奥の手を使うしかない。
私という魔法使いの格を見せつけてやる。
「執筆家!」
声高らかに、宣言する如く言う。
神からの贈物、多大なる恩恵を被らせる固有魔法。
これが私の奥の手だ。
左手にメモ帳が、右手に少し長い万年筆が握られる。
私は、新しいページに綴る。
───────
名前:シラクス
行使可な魔法:水
容姿:10歳前半の見た目をしている。青い髪と金のように輝く目が特徴。
◇
名前:氷華
行使可な魔法:独自系統───氷結
容姿:10歳後半の見た目をしている。真っ白な髪に灰色の目が特徴
───────
私はそう綴り、メモ帳に魔力を込める。
そうすると、先程までそこに居なかったであろう二人の人物が現れる。
今書いたシラクスと氷華だ。
「一体何なのよ、全くもう」
「ママ⋯⋯⋯どうかした?」
ツンツンしているのがシラクスで、ちょっと無口な感じなのが氷華。
ライターで人物を召喚する際、性格はランダムに決まる。
だから、今の今まで分からなかったのだが。
うん、これもこれで凄く良い!
私は心の中で二人を絶賛する。
何処からか親バカと聞こえた気がした。
まぁ、そんなわけないか。
そんな感じで、意識を変えると私は二人に指示をした。
「シラクス、氷華。今から上空に行って魔法を撃ってもらいたい」
「はぁ?何で私がそんな面倒な事を」
「ママ⋯⋯⋯⋯私お空飛べないよ?」
「大丈夫、私が一緒に行くから。シラクスもお願い、協力して?」
指示というより、頼みに近い感じになったが別に良い。
氷華は最初から協力してくれる気だが、シラクスもお願いと言ったら「はぁ、仕方ないわね」と今にも言いそうな顔で協力してくれた。
私はそれを確認すると、二人の身体をだき抱え風魔法の応用で空を飛んだ。
「い、いやぁぁぁーーー!!」
「わぁ!⋯⋯⋯⋯⋯凄い!」
地面がどんどん遠くなっていく。
そして、ある程度高くなった所で私は加速をやめ空中に留まる。
今からする事。それはシラクスが水を作り出し、それを氷華が凍らせる。
至って簡単。やられる前にやる戦法だ。
「シラクス!水を!」
「どれくらいなの!」
「沢山だよ、湖作れるぐらい」
「私⋯⋯⋯何、すれば良い?」
「氷華はシラクスの水を凍らせて」
二人にそう伝えると、直ぐに実行してくれた。
今や、目の前には大きな氷の塊が浮いていた。
やっぱり私の子♪本当優秀過ぎる。
私は髪が乱れるくらいに二人の頭を撫でた後、氷の塊へと近づいていく。
地表を見ると、巨大な魔法陣が現れていた。
もう少しで魔法が発動されてしまう。
「だけど、そんな事はさせない!」
私はセイクリフトで再度身体能力を高める。
浮いているこの氷の塊を下へ突き落とすからだ。
勢い良く、思っきり。
頭の中でイメージする。
本気で踵落としをし、更に魔力を足に注ぎ込んで放つ。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯良し、イメトレ完了。
「これが武闘派魔法使いの力だぁぁーー!!!!」
そう言いながら、イメトレ通りに踵落としをする。
先程まで浮いていた氷の塊は、今や隕石の如く下に向かっている。
そして、数瞬の後私の所まで聞こえてくる悲鳴と衝突音。
私はそれと同時に魔法陣がちゃんと消えるのを確認する。
「フッ、これで一見落着だな」
私は決まったと言わんばかりの顔で言う。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯だが、ユギルの目の前でこれやったら怒られた。
結局、地形破壊も合わせてお説教は長く続きましたとさ。
めでたし、めでたし。
「いや、私自分の息子頑張って守ったんだけど!!!!」
負け犬の遠吠えが虚しくも、響くのだった。
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