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第8話 春葉の本気 その3

 放課後、しぶしぶ部室に足を運ぶと、そこにいたのは夏月だけだった。どうやらこの部活、俺以外には部長と副部長である夏月しかいないらしい。


 そして部室に入ると、あっと言う間にソファの端にまで追い詰められた。


「ま、待てっ!  夏月!  そんな獲物を狙うような顔で近づいてくるな!  俺は拒むからな!  絶対!」


 夏月は冷たい笑みを浮かべ、さらりと告げる。


「昼休み、随分とお楽しみだったみたいね」

「それは確かに夏月の言う通りだけど、春葉が実は俺に本気だってわかったから、俺は嬉しいんだ!」

「冬也はそれで良くても、見ていた私はちょっとイラッと来たわ」

「勝手に人の密会をのぞいてる方が悪いだろ!」


 俺が抗議すると、夏月は意に介さず、さらに顔を近づけてくる。


「私、拓真って彼氏がいて、冬也とはただの浮気なんだけど、独占欲が強いのかしら。二人とも手放したくない、みたいな」

「最悪じゃねえか!」

「そうね、私って最悪」


 夏月はふふっと蠱惑的に笑うと、俺に覆いかぶさり、そのまま唇を奪おうとしてきた。


「駄目だ駄目だ駄目だ!」


 俺は必死に顔を押し戻しながら叫ぶ。


「何故?  私としたくないの?  濃厚なベロチュー」

「そういう話じゃない!  春葉が本気だってわかったんだ!  そんなことしたら春葉に申し訳が立たない!」

「私のこと、嫌いなの?  それとも女としての魅力がない?」

「違う。嫌いじゃないし、正直魅力も感じる。俺も男だから、誘われたらくらっとする。でも春葉がいるんだ!」

「じゃあいいじゃない」

「駄目だ!  春葉の気持ちを踏みにじるわけにはいかない。浮気じゃなくて、別の形で約束を変えろ!」


 俺がきっぱりと言い切ると、夏月はむっとした顔をしながらもまだ引き下がらない。


「表沙汰にできない、隠れてこそこそした恋愛なんて悲しくない?  その点、私となら堂々と好き放題できるわよ」

「いや、できないだろ!  部長はどうするんだ!」

「まあ確かに。拓真は怒るかしら。悲しむかしら。俺の女に手を出すなって冬也を怒鳴るかしら?  それとも『お前は誰のモノか教えてやる』って私に襲いかかるかしら?」


 夏月は一人で妄想を膨らませ、楽しそうに笑っている。俺にはこの女の考えがまったく理解できない。

 

 部長っていう立派な彼氏がいるんだから、普通にそっちといちゃいちゃしてればいいだろうが!


「まあ、浮気は一旦保留ね」


 ようやくわかってくれたのか、夏月は俺の上から起き上がり、乱れた制服を整える。だが、その後すぐにさらりと別の爆弾を投げてきた。


「その代わり、私に付き合って」

「……保留で付き合う?  意味わからん!」

「私、恋愛研究会のキューピッドやってるでしょ?  学園のみんなの恋を取り持つ活動に協力してほしいの」

「ああ……春葉との時も世話になったよ。浮気を要求されたのには呆れたけどな」


 俺は話を聞くため、ようやくソファに座り直す。


「そのキューピッド活動の補佐をしてほしいの。いわゆる、ワトソン役みたいな感じで」

「ワトソン?  じゃあお前がホームズ?」

「そうよ。ちょうどいまシャーロック・ホームズにハマってるの」

「俺、恋愛なんて全然素人だぞ?」

「それがいいの。素人の視点でアドバイスをくれる方が新鮮だし、私が決めつけすぎちゃう部分を補ってくれると思うの」

「まあ、それくらいなら……」

「決まりね。じゃあ早速、このあと活動を始めるわ。一年生が相談したいって図書室で待ってるの」


 浮気の話を保留にした夏月が本当に諦めたのかどうかはわからない。だが約束を変えてくれたのは事実。少し安堵しながら、俺たちは図書室へ向かったのだった。

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