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第26話 交戦の日々 その2

 翌日の四時間目は調理実習だった。整然と料理台が並ぶ調理室では、クラスの生徒たちがエプロン姿で食材と格闘している。


 その中で、俺の目の前にいる春葉だけは別格だった。彼女はプロ顔負けのスピードで玉ねぎをみじん切りにし、続けてニンジンをあっという間にさばき、さらにはピラーを使わずにジャガイモの皮をきれいに剥いていく。まるで料理番組のスターシェフのようだ。


 手際の良さを誇示するかのように、春葉は隣の夏月に勝ち誇った視線を向け、わざとらしい調子で言い放った。


「あらあら、久遠夏月さん。年頃の女生徒ともあろう方が、その手つきでは殿方に嫌われてしまいますわよ。おほほほほ」


 その言葉を受けている夏月は、危なっかしい手つきで包丁を握りしめ、まな板の上の玉ねぎに向けて剣のように振り下ろしている。見るからにぎこちない様子に、俺は思わず怪我をしないかと心配になった。


 春葉はそれを見逃すことなく、さらに攻撃を加える。


「あらあら夏月さん。殿方が見ている前でそのざまでは、勝負を捨てたと思ってよろしいのですね。ふふふふふ」


 夏月は悔しそうに包丁を置き、眉をひそめながら反論する。


「笑止千万。令和の時代に、女性だけが料理をするなんて時代遅れにもほどがあるって自覚ある? そんなもの、プロに任せればいいだけの話よ」


 その言葉にはどこか負け惜しみが滲んでいるのを、俺は感じ取った。


「でもでも、好きな相手に手料理を振る舞って喜んでもらいたいという気持ちは、時代を問わず男女共通のものじゃないかしら、久遠さん。それができなければ、殿方に喜んでもらえないわよ。うふふふふ」

「ぐぬぬ……」


 夏月が唇を噛みしめる間に、春葉は流れるような手際でチキンカレーとツナサラダを完成させた。


 やがて試食の時間になり、俺と春葉の前には彼女の手料理が、夏月の前には何やら不気味な黒い物体が並んでいた。


「「「いただきます」」」


 三人で声をそろえ、食事が始まる。


「うん、なかなかの出来栄えね。高持さん、どうかしら?」


 春葉が満足げな笑みを浮かべ、俺に感想を求めてきた。わざと夏月に聞こえるような大きな声で。


 春葉のカレーは本当に美味しかった。俺は素直に彼女を褒める。


「すごく美味しい。正直、春葉のことを尊敬するよ」

「私、いいお嫁さんになれるかしら?」

「うん、これならいつお嫁さんに行っても……」


 言い終わる前に、夏月の鋭い視線に気付き、俺は言葉を飲み込んだ。


「ふんっ!」


 鼻息荒く夏月は自分のカレーを口に運ぶ。次の瞬間、彼女は動きを止めた。


「……あら、夏月さん。お味が口に合わなかったのかしら? 自作でしょうに。対して私は立派なお嫁さん候補。もう勝負ありってことでいいのでは?」


 春葉の嫌味に、夏月は何も言い返せない。ただ悔しげに項垂れるだけだった。


 その横で春葉は勝ち誇った笑みを浮かべ、静かに呟く。


「高持さんのお墨付き、いただきました。これで私、お嫁さん確定ね」


 勝者としての余裕を見せる春葉の前で、ぐったりと肩を落とす夏月――その光景に、俺はなんとも言えない居心地の悪さを覚えたのだった。

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