ep96 天然(Portable rations)
「ところで、お二人はどこまで行きたいんですかぁ?」
「「あっ……」」
二人はヒッチハイクした……ワケではないが成り行きとは言え、目的地はあるのだろう。
だがディアはそれを知らない。だからこそ、ランデス任せのハンドル任せで自動運転頼りに走っていたワケだ。
そして、それでいいハズもない。かれこれもう、数十分は走っている。方向が真逆だった場合は即Uターンが推奨になるだろう。
初めて見る「自動車」に対してテンションが上がり過ぎて、大事なコトを忘れるコトがそもそもの問題と言えるかもしれない。
「うち達はクランカルケの地下迷宮を目指してるんだけど、近くに街とかなくて何を目印にしたらいいか分からないんだ。その……ディアちゃん分かる?」
「わたしはこの世界に初めて来たので、流石に土地勘は無いですよぉ。前以って地理試験とか受けてませんし……。ところで、方向はこっちであってますかぁ?」
「ううん、あってるかどうかも分からないんだ。でもでも、ここら辺かなって思ってるから探してればそのうち見付かるかも?……それでも今までは見付からなくって、ぱいたんと二人で彷徨ってたんだよねぇ」
要するに二人は迷子だったワケである。ディアが現れたのは「渡りに船」だったのだろうが、現状に於いて迷子が三人に増えたと言っても過言ではない。ただ、迷子として彷徨っていたとしても、速度だけは段違いになったと言える。
「彷徨うって……こんな何も無い場所で……ですか?」
「ディアさん、わちき達はけっこう強いので盗賊とかが出て来ても大丈夫なんですよ」
「へぇ。お二人はお強い冒険者さんなんですね」
「うち達は冒険しながら、この世界の地下迷宮のどこかにある「女神像」を探してるんだよ。だけどなかなか見付からないから、全部の地下迷宮を攻略する事にしたんだッ!」
今のところディアにしては珍しく「壁」を作っていない。そんな気がする。それは二人が獣から進化した人間種族だからなのか、はたまた別の理由かは分からない。
だがそんな中、ランデス車内での会話は弾んでいった。
「お二人共仲がいいんですね」
「うんッ!うちと“ぱいたん”は仲良しだし、“ましまっし”や“わんたん”とも仲良しだよッ!でも、一番ままが大好きッ!!」
「姉さん、ママの独り占めは許しませんよ?ママはみんなで食べるんですから」
「ふぇッ?!ま……まぁ、家族揃って仲良しなんですね。わたしも昔はそうだったなぁ……」
少しばかりディアが意味ありげな感傷モードに入ったワケだが、それは意味深なセリフを聞かなかった事にしたかったのかもしれない。だがその直後、その空気をブチ壊したのは豚骨だった。
うん……。なんとなくだが、ディアと豚骨はなんだかんだ似た者同士なのかもしれない。ディアが養殖系の天然キャラと言えるのに対して、豚骨は天然系の天然キャラだ。養殖と天然では大きな違いこそあれど「天然」には変わらない。
うん。何を言ってるかもう分からない。
――ぐぎゅるるるる〜
「ねぇ、ぱいたん。うち、お腹空いたぁ!お腹空いたぁッ!ねぇねぇ、お腹空いたぁ!!」
「姉さん、ましまっしから連絡が来なければ、ご飯はありません。我慢して下さい」
「あ……あのぅ、携帯糧食ならありますけど、いります?」
「ディアさんッ!わちき達はお金が本当にないんですッ!それに、姉さんを甘やかさないで下さ……きゅるん……あっ……」
「携帯糧食しかありませんけど背に腹は替えられませんし、大物を釣るには先ずエビを投げろって言うじゃないですかッ!たくさんありますから、一緒に食べましょ?」
よし!先ず……ディアが何を言っているのか分からない……が、なんとなく説得出来てしまうのは、天然故なのだろう。
斯くしてディアはランデスを停め、荒野のド真ん中で携帯糧食と保存水によるランチタイムとなったのである。
「ディアさん……食べ物を分けて頂いた上で言うのもナンなんですが……」
「分かります分かります。なんせ携帯糧食ですから……。でも、ぱいたんさん、お腹いっぱいになるのと、美味しいモノを食べるのって、結果的に同じですよね?それでも、とんこっつさんは美味しそうに食べて下さってますし……ね?」
「あ……はい。ありがとうございます、ディアさん。わちきも観念して……」
無心で頬張る豚骨と、一口目で諦め掛けていた白湯。マズさに定評のある携帯糧食だから仕方ないっちゃ仕方ない。
――ぼこッ
「やっと追い付きました。姉さん達、速過ぎです。一体どんなトリックを……あ……れ?姉さん達がいない?それに暗い。出て来る場所を間違えてしまったのでしょうか……?」
斯くしてわちゃわちゃランチタイムの途中、ランデスの車体の下に突然現れたのは、先端に球体の付いた植物の蔓……のようなナニカだった。そして、この蔓はなんともビックリする事に話している。
植物がどうやって話しているのか疑問は尽きないが、二人の一助となるのだろうか――




