ep95 邂逅(Open feeling)
「疾走れ〜走れ奔れ〜、乱れぇ髪、弾む〜胸〜♫」
ノリノリで陽気に歌いながらランデスを駆るディアは、メルボランチア大陸の荒野を走っていた。荒野である為、第一大陸人は発見出来ていない。だが、今回のディアの旅は目的があるワケではなかった――
ディアはただランデスと共に駆け抜け、今までに見た事のない壮大な眺望、想像を絶し言葉に詰まるような絶景、絵にも描けず一流宮廷画家が筆を折る程までに洗練された景勝地。それらを「出来うる限りランデスと共に自分の目で見たい」それがディアの望みだった。
これは恐らくだが、アメリアの記憶が求めているのかもしれない。貧村に産まれ育ったアメリアは、不遇と言えば不遇の人生だった。だからこそ、果たせなかった望みを叶えたいと望むのは至極真っ当なコトと言えるだろう。
とは言っても、アメリアは別に死んだワケではないのだが……。
「あれ?あそこで誰かが手を振ってますね。誰でしょう?わたしの知り合い……なワケありませんね。だって、今までにこの世界に来たコトありませんから」
ディアの視界に映ったモノ。それは人間のようだった。人数は二人。何やらディアに向かって手を振っているとディアは思っているようだが、正確にはランデスに対してだろう。
こんな何も無い荒野で見ず知らずのクルマに手を振る行為は、ヒッチハイク的な何かを期待しているか、はたまた強盗的な手合いだと考えられる――
本来なら見ず知らずの惑星に於いて、初対面の人間に対しては警戒すべきと言える。だが仕事ではなく、開放的な気分に支配されているディアにとって、相手が困ってそう……かどうかは分からなくても、「頼ってくれてるみたい?」と感じ取れればそれで充分だったのかもしれない。
いや、「ランデスと共に走り回る望みはどうした?!」みたいなツッコミがありそうだが、それはそれ。これはこれ。
――キキッ
「どうかされました?」
「どうしよう、ぱいたん?本当に停まってくれちゃったよ?」
「……姉さん。だから興味本位で馬車に手を振るのはヤメてって言ったでしょう!」
「でも、ぱいたん。これ、馬車?」
ディアは手を振られたから停まったワケだが、やはり危機感は無い。……が、そんなディアを停めた相手もまったくもって危機感の無い話しを繰り広げていた……。
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「ディアさん、乗せて頂いてありがとうございます。でも、わちき達、本当に本ッとーーーにお金持ってませんよ?」
「ぱいたん見て見てーーーッ!!凄いよッ!この「自動車」速い速いーーーッ!こんなに速い馬車に乗ったの初めてだーーーッ!」
「姉さん、はしゃぎ過ぎ……。ディアさん、何から何までスイマセン……」
この二人、ディアが今までに見て来た「人間種族」とは明らかに異なっていた。ディアのいた惑星に於いては「陸獣」に分類される赤妖豚種と毒鶏蛇種といった獣と思しき存在だ。しかし、言語を解して介し、意思疎通も出来る。そして何よりもディアに対して敵意も殺意もない。
見た目こそヒト種といった、ディアもよく知る人間種族とは違えども、中身は今まで見て来た人間種族と何ら変わらない様子で、直ぐにディアに対して友好的に接して来た。拠って、ディアは二人をランデスの車内へと招き入れたのである。
危機感はどうした、ディア!!
……あ、そう言えば、ディアもまた人間種族ではありませんでしたね……。
「旅は道連れ、事故る時は一緒って言うじゃないですかぁ。だからお金は要りません。善意の協力者ってヤツです。それにいっくら騒いでも、わたしは気にしませんよ。慣れてますから」
車内で著しく騒ぎ立てる客をディアは知っている。それと比較をすれば、この珍客達はまだまともというコトだろう。
ちなみに、ディアが拾ったこの二人、名前を豚骨と白湯という名前らしい。幼児退行してるのかと思う程にはしゃいでいるのが姉の豚骨。だから言い換えるなら「見た目は大人、頭脳は子供、その名も“豚骨”!!」と言えるだろう。
逆に冷静沈着で姉のお守り役が白湯という組み合わせだ。これまた言い換えるなら、「見た目はこ……大人!頭脳も大人!その名も白湯!!」になる。まぁ、そこそこの発育途上なので、大人という事にしておかないと、それはそれで誰かが来てしまう……。こわやこわや……。
それは兎も角この二人、それぞれの種族は名前が現していると言っても過言ではないだろう。「名が体を表す」とはよく言ったものだ。
だがそのネーミングセンスには甚だ疑問を持ち兼ねない。この惑星全域でそのようなネーミングなら別段、気にはならないだろうが、「周りが普通、二人が異常!」なら、「名付け親はラーメン好き!」みたいな感じになるだろう……。
だが、ディアはラーメンを知らない。ディアはまだ、ラーメンを知らない。
大事なので2回言いました。




