ep94 お気持ち表明(The letter)
「さぁって、どこに行こうかな〜ッ!そうだッ!前にヘスティさんから聞いたコトがある、「海が無い世界」に行ってみよっと!!」
斯くしてディアはランデスに乗り、星間移動を行い目的地へと向かっていった――
――目的地はメルボランチア。箱庭の中でも珍しい「海が無い惑星」であり、そこには様々な多様性溢れる人間種族が住まう。
海が無い事から海獣はおらず、陸獣と空獣は長い年月を経て独自の進化を遂げた結果、人間種族となった。逆にディアが今までに出会った、通常の人間種族達(ヒト種や森人種、小人種など)も存在しており、獣から進化した人間種族と通常の人間種族との間で「ハーフ」が存在していたりもする、本当に箱庭の中でも稀有な惑星と言えるだろう――
だが、その前に……。
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「わたしのワガママで本当にごめんなさい。明日から「ゆうきう?」っていうのを使わせて下さいッ!」
「「「ふぁッ?!」」」
あれだけ盛大に店を辞めるみたいなオーラを出しておきながら、それが全て「おかみ」が発端の勘違いだった事に全員が気付かされたセリフだった。
平たく言えば、三人が三人共にディアに騙されたと言っても過言ではない。……が、アマテラだけは騙されたと言ってもそこまでの感情移入はしていない。ただ、仕事の効率化を考えていただけだ。
まぁ、勘違いさせるようなコトを言ったディアが悪いのか、はたまた勝手に勘違いした「おかみ」が悪いのか……。
それはまるで、誘って来たから誘いに乗ったら、実は誘われてたワケじゃなく、思わせぶりな態度を「気がある」と勘違いして引っ掛かり、大金を貢いだ……が、本当に誘われてたワケじゃない事に気付き、なんの為に大金を貢いだか分からなくなった。みたいな、ある種の特殊な詐欺の様相を側面として持っているかもしれない。ちなみにそんな詐欺に引っ掛かると、詐欺られた方は恥ずかしさの余り、何も言えず公表出来なくなってしまうらしい……。
よって、特殊な詐欺師にディアは向いているのかもしれないが、それはそれ。これはこれ。
「え……っ?有……給?」
「やっぱりダメですか?わたしが「ゆうきう?」を使うのはまだ早いですか?」
「ディア……アンタ、この「魔の酒場亭」を辞める気だったんじゃ……?」
「ふぇ?エレさん?なんでですかぁ?わたし、ここを辞める気なんてありませよ?」
斯くして、ディアが店を辞める気は無いと言うのが、正式に「お気持ち表明」されたのである。
まぁ、「おかみ」はエレとディアの会話を聞きながら“プルプル”していたのだが、それが「喜び」から来ているのか、はたまた「怒り」からなのか、それともその前に「恥ずかしさ」がくっ付いているからこそ何も言えなくなっているのかは、「言わずが花」というヤツだろう。
だからこその、「二葉亭四迷とは言えない十返しの香の気苦労」というのかもしれない……が、それはそれ。これはこれ。げふん。
結果としてディアは20日間の有給を賜った。本来ならば10日間だが、「魔の酒場亭」一番の稼ぎ頭であるディアに対する貢献度ボーナス的な何かなのだろう。
「それで、アンタは有給使って何をするんだい?」
「ランデスくんと色々な場所に行ってみたいなって思ったんです。だけど、まだどこに行くかは決めてません」
「そぉかいそぉかい。それなら色々と見て回るといい。他の惑星に行くなら転移門は自由に使っていいさね」
転移門をディアは自力で使う事が出来ない――
だからこそ、「魔の酒場亭」を辞めるワケにはいかなかったというディアの本心を今はまだ「おかみ」は気付いていないが、それを知った時、「おかみ」がなんと言うかは見ものと言えば見ものだろう。
ちなみに……ディアが三人を招集した事の内、アマテラだけは特に意味が無かったと思われる。これだけの内容ならば、アマテラをわざわざ呼び付ける必要はなかっただろう。だからこそアマテラはネタバレしてから「そんな事の為にわざわざ妾まで?」と勘繰っていたのだが、最後の最後に地獄へと突き落とされる事になったのである。
「アマテラさん、これ……お手紙です」
「妾に?一体誰かr……」
――ぴしッ
ディアから手紙を受け取ったアマテラは手紙に書かれた文字を見た瞬間、その場に凍り付いていた。
『前略
アマテラ・スカイウォーカーさま
貴殿に対し以前処置を施した際、為替レートを計算に入れず、当方に不利益があった事が発覚致しましたでち。
よって、追加料金分のご負担をお願い致しますでち。
こちらの不手際もありましたので、期限は特に設けませんが、なるべく早急にご都合付けて頂けると幸いでち。
草々
不肖、ヘスティ・アーベルンゲンより』
こうして追加料金として金貨327枚が加算される事になったのである。だが、計算が少し合わない気がするが、それはそれ。これはこれであるとしよう――
これにてこの章は終わりになります。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
次回からは新章突入ですが、初っ端から数話の間は勝手に過去作コラボとして、繰り広げて参ります。
それでは、年末に差し迫り、寒い日々が続きますが、読者の皆々様におかれましては、ご自愛頂き体調を崩されませんよう、お祈り申し上げます。
今後とも宜しくお願い致します。
硝酸塩硫化水素




