ep93 借金大王(Fake proverb)
「エレ、アマテラ、二人共ちょっといいかい?」
「なんだい、おかみさん。そんな神妙な顔をして。先に言っとくが、金なら貸さないぜ」
「その件についてはどうにかこうにかなったさ。だから大丈夫さね。心配かけたね、エレ。まぁ、アマテラ達の借金が増える事には変わりはないがね」
「はうぅ……」
これはディアから改まって話しがあると伝えられた「おかみ」が二人を招集しにいった時の話し。だから、時間は少しだけ遡る。
一躍借金大王になったアマテラは、それこそ馬車馬のようにコキ使われても返すに返せない金額になった事から、もう投げ遣りな様子で働いている。……が、根は真面目だ。そこはイシュとは違う。
アマテラの件は要するに「不意の一撃、一生の不始末」と言ったところだろう。
ん?でもま、そんな諺は存在しないので気にしない気にしない。
「それじゃあ、おかみさんがアタシ達に何の用だい?また新しい所用?」
「いや、そうじゃないんだが……」
「なんだか、おかみさんらしくないなぁ……。いつになく歯切れが悪いし……。それじゃあまるで、店の稼ぎ頭に「店を辞めたい」って言われたみたいじゃんかッ!」
「……」
「えっ?マジでかッ?!ディアがここを辞める……のか?」
「下手な豆鉄砲に急所を突かれる」とはこの事だろう。エレが思い付きでいったコトが「おかみ」の図星だったのだから……。ん?いや、気のせいである。
「確かにディアは契約書を交わしていないから、本人の自由っちゃ自由だけどさ……。おかみさんからすれば利益が落ちるとかで悩んでる感じ?」
「あたしゃ鬼かッ!エレがそんな目で見ていたとは……あたしゃ悲しいよ……」
この場にイシュがいたなら大いに首を縦に振っていたコトだろう。だが、イシュはいない。代わりにアマテラが小刻みに動く「赤べこ人形」のようであった。……が、この世界に「赤べこ人形」といった玩具も装飾品もない。
「そっかぁ……ディアがねぇ……。おかみさんは引き留めたい?」
「そりゃあ、この「魔の酒場亭」のコトを考えれば引き留めたいさね。だが……」
「ディアの目的……か」
「だから、ディアがこの店を「出て行く」って本気で考えているなら、引き留めはしない事にしたさね。アンタらも無理矢理引き留めようとなんて、見苦しい真似はすんじゃないよ!」
ディアの目的、それを知っている二人はそれが如何に難儀な事かを熟知している。それを知らないアマテラは、表情こそ「ぽかん……」としているが、何やら神妙そうな話しの為、横槍を入れるつもりはないのだろう。今もなお、赤べこよろしく頭を振ってるだけだ。
「そんなワケだから、アンタ達も変な事を口から滑らすんじゃないよッ!」
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「それでイシュ以外は集めたけど、みんなに話しって、一体何なのさね?」
「わたし……ウラノさんの応援で行ったハイヤードの出張で、獣さん達をたくさん討伐して、いっぱい魂を集めました――」
これは少し長い語りになる……。そして、そんな長い語りをする時、人は大抵、先を見据えた結論を持って来るコトが多いだろう――
エレは精一杯の笑顔でディアを送り出そうと考えていた。それは以前からディアが恐れているエレの「笑顔」だった。具体的には“ep9”くらいの笑顔が有力視されるだろう。
ごほん……。えぇ……だから、ディアが語っている最中に突如として笑顔になったエレを見て、ディアは言葉に詰まった。それこそ「何かをやらかしてエレさんを怒らせてしまった?!」的な恐怖によって、ディアの瞳には涙が浮かんで来ていた。
ディアが言葉を詰まらせ、涙を浮かべた辺りで「おかみ」は感極まってしまったようだ。普段鋭い「おかみ」の目尻は下がり瞳は潤み、キラキラと輝いている。ディアはその「おかみ」の姿を受け、「おかみさんを泣かす程のやらかしをしてしまったのカモ?!だから、エレさんが怒ってる!!」と困惑した上で確信したのだった。
アマテラは指示通り黙って冷静に考え事をしていた。要するに頭の中で「イシュがいない今、仕込みをどういう風に行えば効率的か?」というコトに思考をフル回転させていたと言う事だ。
――アマテラはディアに対して、特に思い入れはないのだから、まぁそればっかりは……仕方ないっちゃ仕方ない。
「――エレさん、今までわたしがやらかした後始末、本当にありがとうございました。おかみさんも、わたしの事を雇って下さり、ありがとうございました。そして、いっぱいやらかしてしまってごめんなさい。アマテラさんとは、あんまりお話しした事ありませんでしたから、なんて言っていいか分かりませんけど……」
それは……急遽取って付けたような文言だった。ディアの中で、「二人をこれ以上、怒らせてはいけない」そんな心境が加わったからだろう。そして、アマテラに対して最後に言ったのは「除け者にされた」とアマテラが思って怒らせないようにする為の姑息な作戦だったのかもしれない――




