ep91 アルカディア(Special-super sexual)
――ギルド内ランクSSSのイシュ・タリバリウムを1ヶ月の間、借り受ける――
その通知が来たのはアマテラがアーレの城下町に被害を齎した一週間後の事だった。
「おかみさん、ギルド内ランクって一体何なんだ?」
「はぁ?そんなのこっちが知る由もないさね。そういったのは、ギルドに出入りしてたエレにでも聞くんだねッ!」
ギルド内ランク……。それはセーリアス森林でもアルカディアが話していたが、「おかみ」も知らない謎ランクである。かといって、ギルド共通の冒険者ランクに“SSS”などというモノは存在しない。
「おかみ」はこの通達が来た後、顔をしかめていた。それもそのハズ、夜営業の二本柱である片割れ、「イシュ」をおいそれと手放したくないのは当然と言えるからだ。……が、その原因がアマテラにある以上、不承不承であったとしても、借りは返さなくては「魔の酒場亭」の名折れと言える。かと言って、先方が示したのはアマテラではなくイシュ――
これは、アマテラが行った事による「貸し」を、ギルドに作ったのが問題も問題、大問題だったと言えよう。
--アルカディアは今回の責任を全て国に対して一人で被った--
元々今回の件は、「ギルドの独断であり、自発的に人員を確保し、自分が監視の元に、今後の脅威になり得る獣の討伐を行った」と謁見の間に招集された場でアルカディアが上申したのである。ちなみに、証人としてアコウパーティも呼ばれている。
そして、何一つ偽りはない。
更に、「その責は人員を見誤った自分にこそあり、責任を取るのは自分だけでいい」と申し伝えた上で、「あのような火力の魔術が自分を罰した事で今後、アーレに落とされない事を願っている」と、脅迫までしたのである。
その場に居合わせたアコウパーティは、アルカディアから頷くように前以って指示されていたが、そんな事を宮廷の誰もが知る由はない。
クドいようだがギルドは国が運営している組織ではない。その事が徒となりアルカディアの訴求力を国家は理解していなかった。だからこそ、アルカディアを罰したその結果、アルカディア信者からの牙が国家に向くのを恐れたのである。
……が、そんな信者はどこにもいない。
要するにアルカディアは大見得を切っただけと言える。
即ち、アコウパーティがその場に招集された事はアルカディアにとって計算された結果であって、それを呼んだのは国だが最終的にアルカディアのオッズを増やした事に繋がり、無事に安牌を引くためのカードだった事に過ぎない。
……が、これが功を奏した。結果、アルカディアはお咎め無しとなり、アマテラの罪も消え失せたのである。
--これが、「魔の酒場亭」に対する大きな「貸し」となった--
しかし、塵も積もった山は失くなるワケではない。よって、ギルドからの通達に従うしかなかったのである。それもイシュ貸し出しの報酬として、見合った金額が提示されていたからだが……。
「なぁ、姉貴……」
「なんだバカ妹。アタシはアンタと話したいコトなんざ、これっぽっちも無いんだが?」
「あのさ……「ギルド内ランク」って何なんだ?」
「はぁ……アンタ、人の話しを聞いてたか?アタシはあんたと話すコトなんて……あぁん?ギルド内ランク?」
イシュはこれまでの因縁の件もあり、エレに拒絶される事から話し掛ける事を躊躇っていた。……が、アルカディアからの通達にあった「ギルド内ランク」というモノがどんなモノなのか気になり、天秤にかけた結果、エレに聞く事にしたのである。
「あぁ、まぁそうだろうな。アルカディアならアンタはド直球だろうね。まぁ、頑張んな……よ」
それだけ言うとエレは、「もう何も言う事はない」とでも言うような素振りで、イシュの肩を一回ポンッと叩くと憐れんだ様相でその場を去っていった。
その表情は先程、イシュに話し掛けられた時のような、いつもの不機嫌な表情ではなく、完全に生きる事に必死なだけの虫けらを見るような完膚無きまでの憐れみの表情であり、すれ違いざまに「同性からのセクハラって辛いよな」と、言い残したとだけ付け足しておこう。
そしてこれから1ヶ月の間、イシュの苦難が始まる事になるが、それはそれ。これはこれ。
最後にイシュの心の叫びを記しておこう。
「だから、ギルド内ランクって一体なんなんだーーーーーッ!!」
だ、そうである。
この件はいずれ、時と折りを見て、絆されない程度に語れる事を切に願っているものとしよう--




