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メタバースマルチバース 〜ユニバースディ〜  作者: 硝酸塩硫化水素
はじまり
9/343

ep9 詭弁(Accidental resemblance)

「ユウくん、これあげる」


「これって、この前ボクが描いてた、カッコイイなにかの動物さん?」


「うん。ユウくんの為にコツコツ作って、やっと出来たんだ。気に入ってくれるかな?」


「ありがとう!こんなに嬉しいプレゼントは初めてだよッ」


「喜んでくれて本当に良かった。本当に本当に……良かった……」


「このぬいぐるみ、大事にするねッ」


_____



「おかみさん、エレさんってまだ帰って来てませんよね?」


クランシス大陸(あっち)の戦況が(かんば)しくないのかねぇ?エレが苦戦するとは思えないが……ところでディア?エレに何か用事かい?」


 ここはセレスティア大陸にある、アーレの城下町の外れにある「魔の酒場亭」である。しかし「魔の酒場亭」は通称であって、表に出してある看板に「酒場」や「亭」などの文字は一つも無い。


 二人の話しに挙がっていた「エレ」はこの店の給仕兼用心棒兼雑用係だが、エレが依頼を受けた事によって「魔の酒場亭」の勤怠上は無休休暇扱いになっている。


「さっき、おかみさんから頼まれたお遣いに行った時に、エレさんにすっごく似てる人がいたんですッ!だから、エレさんが帰って来たのかなって思ったんですけど……」


「世界には似てる人間が三人はいるって言うから、他人の空似じゃないかい?」


 これは「おかみ」の詭弁である。何故なら「おかみ」はこの町に住まう者達の大体の顔を覚えているのだ。だからその中に、エレに似てる顔立ちの住人は一人もいないと言い切れる。

 全てではないので抜け漏れはあるかもしれないが、それでもこの「おかみ」なら言い切ってみせるだろう。


「やっぱりそうなのかなぁ?雰囲気がどことなく似ていて、わる〜い人みたいに目付きがかなりキワドい感じとか、中途半端な位置にある前髪とかもそっくりだったんだよなぁ……」


「アタシの悪口かい?悪口なら、当事者に聞こえないように言わないと()()()()わよ?」


「えっ?!エエエエレさん?」


 突然のエレの声に驚きの表情を隠せないディア。そして、不機嫌そうないつもの表情に対して満面の笑顔を示しているエレ。その満面の笑み――それこそが罠であると、「おかみ」は知っている。だからこそ、気配を察知した「おかみ」は何も言わないようにしていたのだが……。


「それにしても、ディアがアタシの事をそんな風に思ってたなんてね。いつもアンタの尻拭いをしてやってるアタシに対して、そッ・んッ・なッ・風ッ・にッ・思ってたなんて……アタシは悲しくて悲しくて、涙がチョチョ切れそうだよ……およよよよ」


「エ……エレさ……ん……わたし……その……」


「銀貨二枚。それで手を打とうじゃないか」


 ディアは決して悪意や他意があってさっきの言葉(悪口)を吐いたワケではない。そしてそれはエレも「おかみ」も重々承知の上だ。大事な事だからもう一度伝えるが、ディアには悪意も他意も決して無い。

 だからこそ(タチ)が悪いとも言えるのだが……。


「それで、一体何の話しをして盛り上がってたのさ?」


 「あわわわわ、わたしのお金がぁ……」と涙目でプチ抗議をしてるディアを尻目に、いつも通りの不機嫌そうな表情で口を開いたエレ。エレの顔立ちは不機嫌そうな表情よりも笑顔の方が、色々な方面にウケがいいと思うのだが、それはそれ。これはこれ。


「ディアがアンタに似たヤツをこの町で見たって言うのさね。他人の空似じゃないかとは思うんだけどねぇ……」


「アタシに似たヤツ?(いや、そんなまさか)」


「何かしら心当たりはあるかい?」


「興味無いね。おかみさん、アタシは今日まで休みだったよね?――少し出てくる。魚竜種の依頼料とか素材は明日以降でいいかな?」


 「興味無い」と言いながらもどことなく血相を変えたエレを見る限り、興味が無い感じはしないのだが、深入りする事が必ずしも幸せな結末を招くとは限らない。従って、「おかみ」は店を出て行くエレを静かに見送っていた。

 ただ、心中では「無休休暇中に素材の解体はやっといておくれよ」と呟いていたのだった……。

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