ep80 推し(Doki-ga munemune)
「いませんッ!いませんいませんいませんーーーーーッ!まったく、でしまておさんは何処にいるんですかッ!!」
更に二日経った。ディアは砦のある大陸を駆け巡り、ランデスが走破出来る場所は全て探し回った。だが、肝心の脅威深度“10”であるハズの龍種は疎か、日を追うごとに大地に棲まう陸獣、空をねぐらにする空獣との遭遇も無くなっていった。これではディアは、ドライブしてるだけのナマケモノと同じである。
「こうなったら、さっき見掛けたランデスくんで走破出来ない山に登って、登頂成功の証に旗をぶっ刺すしかありませんね」
走り回ってみると、この大陸は比較的平坦な大地が多い。しかし、それなりに高い山や湖、幅が広い河川などもある。大陸の端には海があるので、流石にそれらはランデスでは渡れない。いくら走破性が高くてもランデスにそこまでの超技術は搭載されてないし、そもそもあり得ない技術だろう。
拠ってランデスで走破出来ない場所しか残すところが無いと言えるほど、かれこれ5日かけて走り回ったワケだが、結局目的の獲物は見付からなかったのである。
だからこそ任務達成出来ない余り、自暴自棄になっているのだろう。しかしながら「登頂して旗を刺す」……そんな登山家は売名行為をしたいインフルエンサーくらいしか今日日いないが、旗を刺すなら今回のスポンサーであるウラノの旗になるだろう。……が、果たしてソレを人間が誰一人としていないこの惑星でやったところで、ウラノが喜ぶかどうかは甚だ疑問である……と、ディアに伝える者はいない。
従って、独り言が増えた老が……いや、老人のようとも言えよう。
「こうなったらもう本当に、乗務員から登山家にジョブチェンジして……」
『マ……ディア待って。自分から降りないで。降りたら危険。ディアまで食われる』
「えっ?!今……の……ランデスくん?きゃーーーーーッ!えっえっえっ?いつ以来振り?本当にきゃわいぃーーーッ!!きゃわい過ぎますッ!!ドキがムネムネの胸熱な声ーーーーーッ!!きゃあきゃあきゃあッ!!」
これではまるでヘスティのよう……であるが、それはそれ。これはこれ。どんな形であれ推しと一緒にいられる事で満足出来るヘスティと、推しとの会話でテンション爆上げになるディア。ヘスティに至ってはアクリルチャームとかを自作したモノであっても一緒なら満足するだろう。要するに、どっちもどっちの、似た者同士と言えよう。……あ、ごほん。それはそれ。これはこれでしたね……。失敬。
『ディア、いいから聞いて。話せるのは少しだけなんだから……』
「ええぇぇぇぇぇぇッ!少しだけなのぉ?もっともっともぉっと、おしゃべりしたいよぉ」
『はぁ……でも大事なコトだからディア、ちゃんと覚えてね……。――この世界は異常なんだ。調べてみて分かった。結論から言うと、ディアが探してる獣は恐らくいない。だから、早く砦に戻って指揮官さんに伝えるんだ。「菌に注意しろ」って』
「きん?キン?金ッ!分かった、ランデスくん!金に注意するのね?じゃあ、急いで砦に帰りましょう!そうしましょったらそうしましょうッ!!」
『…………』
ディアは何か途方も無い勘違いをしたようだが、まぁこれは聞き間違いと言うヤツだ。気にするな、感じろとでも言えば伝わるだろう……。
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「あれから数日が経ったが、ディア殿は大丈夫だろうか……」
「アルテさま……ディアさまは大丈夫です。知らせが無いのは良いしらせと言うのでち。きっと、きっと……」
「有事以外こちらからの連絡をしない」その条件が、二人を苦しめていた。これは即ち、ディアが首魁を発見出来ていない、若しくはディアが既にこの世にいないという過酷な事実を突き付けている。
前者であれば、いずれ連絡は来るだろう。その時にそれまでの心配を払拭する形で歓喜が湧く事この上ない。しかし、後者の場合は捜索に出る事も出来ず、一年、二年と月日を追っても鬱々とした気持ちが晴れる事はないだろう。
だからこそ、自身が高位高次元生命体と呼ばれる者でありながらも、祈る事しか出来ない。
現状でディアが旅立ってから、砦に於ける戦況は何も変わっていない。百名程の部隊が砦から戦場に出て一日に数千から数万の獣達を屠る。それをもう幾日と繰り返しているのに、獣の数が減っている気配すら無い。
今のところ死者こそ出ていないが、負傷する者は出始めている。日を追うごとに負傷者の数は増加傾向にあり、皆がみな疲弊している証拠とも言えるだろう。いつ終わるか分からない戦いで指揮が上がらず徒労感のみが増していく。このまま勝つ見込みがなければ、いずれ物資も底を尽きる。完全なジリ貧だ。
だからこそ現況を打開する為にも、ディアからの連絡が待ち遠しいのである。
しかし、ジワジワと……本当にジワジワと、その変化にすら気付かない程の進度で、獣達からの侵略が進んでいた事を、未だに誰も気付いていない――




