ep77 脅威深度(Desperate squad)
「ディアさま、本当に良かったのでちて?」
「何がですかぁ?」
「先程のツクヨさまの言い分を飲む必要なんて……。ディアさまは、わたくしの護衛でここに来ているのでち。それなのに……何故、わざわざハメられるような真似を?」
「別に構いませんよぉ。このままじゃ、わたしも暇で腕がなまっちゃいます。それにせっかくヘスティさんがここに連れて来て下さったんですから、少しでも魂を集めなきゃですッ!」
それはヘスティが言うように見ようによっては、「ハメられた」と同義であった。ツクヨからのあたりが強いディアが真っ先に目を付けられたと言えるだろう。
ちなみに、ディアの腕がなまるも何も、運転は基本的にはランデスが自動で行っている。緊急時やランデスの意思とは違う方向転換、後は過度のパワースライドやテクニックとしてのドリフトなど、ディアが行うのはその程度である。しかし、その腕も特段上手いか?と問われれば、三流以下の腕前と言えるだろう。
しかし、安全の為に常にハンドルは握っている。これは非常に重要な事と言える。
「そうは仰いますが、ランデスくんさまが如何に脅威深度“8”まで対応してると言っても、多勢に無勢なのでち。ランデスくんさまに何かあったら、わたくしは……わたくしは……およよ……」
「ヘスティさん……大丈夫ですッ!なんとかなりますッ!安心していて下さい!ちゃんとランデスくんと無事に帰って来ますからッ!」
ちなみに、ディアは「脅威深度」と言うモノをまったく理解していない。まぁ、アーレでは使われない単語であり、慣れていないのだから仕方がないと言えばその通りだ。更に、ディアはヘスティを慰めているように見受けられるが、その自信に根拠など無い。
さて、ツクヨがアルテに対して上申し、ヘスティが語気強めにディアをハメたと言っている作戦とは、以下のものである――
・ディアは獣車を用いて、敵獣勢力の首魁を探し出す事
・首魁を探し出し、見付け次第座標軸を報告する事
・首魁との戦闘は極力避ける事
・首魁との接敵まで、獣達を掃討する事
……である。
今、砦を取り囲んでいる獣達の群れは個体差が大いにあるものの、その脅威深度は最大でも“6”と観測されていた。よってランデスでも対応出来ると、ツクヨはゴリ押ししたのである。だが首魁は、ランデスの“8”に対して推定脅威深度が最高値の“10”。
だからこそ戦わず「報告」だけしろというのは、ディアからすれば手柄を横取りされるのが前提の作戦とも言える。そして多勢に無勢のなか命懸けで仮に見付けたとしても、それから無事に逃げられる保証など何処にも無い。
よって当初、ヘスティは猛反対し、それに追従するようにアルテも難色を示したのだが、飄々とあっけらかんとしたディアは二つ返事でOKしてしまった。
よって、総指揮官であるアルテも許可を出さざるを得なくなったのである。しかし砦から一歩でも外に出ればそこは結界の外。多勢に無勢が過ぎる事に変わりはなく、生半な猛者では無理な戦い……いや、戦いにもならず絶命し朽ち果てる。
そんな死を覚悟した決死隊とも言える一人切込部隊の切込隊長という役目だからこそ、頑強なランデスに護られ共にあるディアしか出来ないと言えば……まぁ、その通りなのだろう。
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「では、準備OKですッ!いつでも行けますッ!!」
「ディアさま、くれぐれもお気をつけて……ランデスくんさまもどうかご無事で……」
「いいか、皆の者ッ!ディア殿とその獣車が通り抜けた後、獣達を一匹たりとも砦内に入れないよう門は絶対に死守する。門周辺から獣共を一掃した後に散開。昨日同様の掃討作戦とするッ!――皆はウラノ様からその勇姿を買われた猛者である。死ぬな、必ず生きて戻れッ!」
「「「ははッ!!!!」」」
「ヘスティ……門が閉まった後、門周辺に権能を使っておいてもらえるか?ディア殿が戻って来た時、獣達が弱体化していればスムーズに入城させられるだろうからな」
「アルテさま、承知致しましたでち」
斯くして明朝、ディア隊長が誰も率いないソロ決死隊の特攻が開始されようとしていた――
砦の空を覆う結界の向こう側は、未だに見る事が叶わない程、獣達が暗幕となっている。この作戦によって、状況が少しでも好転する事をアルテは祈っているが、ディアを未だ睨み付けているツクヨだけは、その祈りを妨げようとしている……そう感じられる程の悪意が、ディアに向けられているのであった……。




