ep71 詐欺師(The oath)
「おかえり。ちょいと邪魔してるさね」
ディアとヘスティが、獲得した真祖森人種の依り代を持って、揚々とヘスティの家に帰った時、出迎えたのは家に仕えるメイドではなく「魔の酒場亭」の「おかみ」だった。
「おかみさま?一体どう為されたのでちて?この町の観光でちて?何なら、町の観光ガイドにメイドを貸しましょうか?」
「いや、残念ながら観光じゃないから、それは遠慮しとくさね」
「おかみ」の急な来訪。ディアも含めてヘスティにも心当たりはまったく無い。しかしこの後、ヘスティは耳を疑う事になる――
「ヘスティ……我々高位高次元生命体にとって、契約は絶対だ。それは分かっているね?」
「もちろんでち。あ……れ……?まさか、わたくし何か契約違反をしましたでちて?」
「そう言うことさね。さぁ、どうするね?違約金を払って、今回の契約をこれで打ち切るか、追加料金を払って、残日数まで続行するか。それはアンタに任せるよ」
「寝耳に水」と言えばその通りであり、ヘスティとしては納得がいかない。それは表情にありありと出ている。
だが、「魔の酒場亭」と取り引きを今までして来た上で、「おかみ」が自分を謀るような事はしないだろう。
が、しかしッ!納得出来るコトならいざ知らず、「納得が出来無いのであれば聞くしかない。たとえそれが、自分を更に追い落とす事になろうとも!!」の精神で、ヘスティは口を開いたのだった。
「おかみさま……もし、お差し支えなければ、わたくしがどんな契約違反をしたか、教えて頂けますでちて?」
「まぁ……そう言うと思って、契約書を持って来たさね。ほら、よく読んでごらん?契約の際に提示したモノと同じ……これが原本さね」
「拝見しますでち。ふむふむ……確かに原本でちが、わたくしがどんな契約違反をしたか……あ……れ?あ……あ…………あ……………………。――ディアさま、わたくし、大変なご無礼を致しましたでちッ!平に、平にご容赦を賜りたく……なのでちッ!!」
契約書の文言を改めて読んだヘスティは悟ったのである。ディアを放置していた事に。
契約書に於いて、「ヘスティは利用料金の他にディアの宿泊先及び着替え等の生活必需品を供給する責務を負う」と、記されている事にヘスティは今を以って再度気付かされたのである。
ロベスティ大森林で老婆の師匠として活動する余り、ディアを完全放置していた事をようやく思い出したと言える。
要するに買って来たばかりの新たなゲームに熱中し過ぎるあまり、大量に出されていた宿題を家を出てからようやっと気付いた小学生……みたいな感覚だろうか?
ちなみにディアは、ぼっちの間、当然の如く宿泊先や着替えなどがある筈もなく、ランデスの中で寝泊まりしていた。まぁ、ランデスの中にいれば例え獣などから襲われても安全なので、下手な安宿よりはよっぽど安全と言えば安全なのだが……。
ちなみに食事はランデス内に保存している糧食がほぼメインだった。
しかしディアは、それを微塵にも気にしてなどいない。
こうして契約書を再度読み直して気付かされたヘスティは、誠心誠意を込めたスライディング土下座で、ディアの前に滑り込み、今も尚その頭は鉛のように重たそうである。
ちなみにディアは契約書の内容を読んではいるが、熟読とはいかず、サラッと流し読みした上で、読んだ内容すら覚えていない。拠って、「おかみ」がこの場で「契約違反だ」と言っても意味が分かっていないし、客であるヘスティがスライディング土下座した意味も分かってなどいない。
ディアは最初から「仕事である以上……」と割り切っており、待遇を一切気にしていないのだから、本当に分かっていないのだ。それはアメリアの記憶を取り戻し、貧村の生活苦からすれば、「ランデス内での生活は露ほどの苦にもならない」という事なのだろう。
「ヘスティさんがわたしに無礼した事なんてありました?」
「「――なッ!?」」
「アンタ……一人であそこに放置されて、困った事がなかったって言うのかい?」
「別に不便なんてありませんでしたよ?エメルゼディアさんの家のトイレを借りてましたし、食事が糧食だけじゃ物足りない時は、エメルゼディアさんの家にあったキノコとかお野菜とかも頂いてましたし、エメルゼディアさんの家の裏に小川が流れていて、そこで沐浴も出来ましたッ!いい場所でしたねッ、ヘスティさん」
「エメ……ゼディア?……誰?」という空気が流れていた。ヘスティですら、その名前に聞き覚えはない。そして、その人物の家に勝手に出入りし、食材を勝手に食べていたのだとしたら、それはそれでもう……。
――犯罪である――
後追いしていたところ、ep70とep71が同じ内容になっておりました。
訂正し、重ね重ねお詫び申し上げます____○_(土下寝)
2026.1.28
硝酸塩硫化水素




