ep68 森人種(Tombolo phenomenon)
「何者だッ!この先は我らが森。許可無く立ち入る事は許さん!」
「って、言ってますけど、ヘスティさんどうします?」
長い耳に白い肌。質素な様相でありながら優雅にも見える装束を纏い、手には弓。矢を番えランデスに向け引き絞り、臨戦態勢で返答を待っている者。
――即ち森人種である。
「困りましたでち。わたくしが会いたいのは、森人種ではなくて、真祖森人種なのでち。森人種に用はないのでちが、眷属にも匹敵する森人種を傷付ければ真祖森人種も良い顔はしないのでち……」
「えっと、お差し支えなければ……なんですが、その真祖森人種の方とのアポイントはあるんですか?あるなら、それを話せば……」
「ないのでち。わたくしの一方的な交渉の為に会いにいくのでち」
ランデスを駆るのがディアではなく、エレならこの一言で全てを察しただろう。だが、今ここにいるのはディアである。断言しよう、「察する事はない」と。
ではどうするか?――決まっている。「拳で語るのみ!」……と、これはイシュの考え方だろう。よってディアは採用しない。
相手は森人種とは言えど人間。ディアが戦えば勝てる見込みはある。だが、何を隠そう依り代こそ真祖種であるものの、ヘスティは一切の戦闘が出来ない。
ちなみに真祖種の身体能力は非常に高く性能は折り紙付きだが、ヘスティが使用している以上、宝の持ち腐れというヤツである。
更に悪い事にランデスのセンサーは、前方にいるのが一人ではないと告げている。よって、ディアが単身で外に出れば集団で取り囲み、戦えないヘスティが人質にされる恐れすらある。
それは乗客の身の安全を最優先としなければならないティアが取れる戦略ではない――
「直ちに立ち去れ!立ち去らなければ射るッ!」
「あわわ、どうしましょう?」
一触即発の危機である。「手を出す事は適わず、だがこの先に行きたい」そんな条件を満たせる可能性はゼロだった。だがヘスティも諦めるワケはない。何故ならば、ランデスにええカッコしぃ的な何かを見せてないからである。
「こうなったら、わたくしが道を切り拓きますでちッ!ランデスくんさまの御尊顔の御前でお見せ出来ないのが残念でちが……。道を切り拓いたら、全力で走り抜けて下さいでち!いいでちて?」
「あ……はいッ!いつでも行けますッ!」
「――わたくしが望む形へ万能なる秩序よ宿れ――」
車内でヘスティが自身の権能を使った。ディアは以前、「魔の酒場亭」でヘスティの権能行使を見た事はあるが、それは二人の首輪を外す為だけに行使されたモノであり、エフェクト的なナニカが少量発光し「わぁ、キレイだなー」くらいの簡素な感想しか持たなかった。
が、今回は違う。ランデスの前方、森人種が潜んでいるであろうエリアの木々達が一斉に「ざざざッ」と動き、一本の道が出来たのである。本来であれば感動に打ち震えるか、神業的な偉業に畏敬の念を覚える場面であろう――
木々が突然動き出し、木の枝や茂みに潜んでいるハズの森人種達は泡を喰らっただろうが、ディア達が視認する事はなかった。木を蹴っ飛ばした時に落ちてくる昆虫のように、木から森人種達が落ちてくる事はなかった事から、恐らく不可視化系の魔術の効果かも知れない。
「猿も木から落ちる」ように、「森人種も木から落ちる」といったシュールな姿が見れなかった事は残念だが、そもそもそれはそれ。これはこれ。
「ディアさま、今でちッ!!」
――ぎゅおんッ
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃッ
ぶろろぉぉぉぉぉぉぉんッ――
ヘスティからのGoサインが出た直後、ディアは言葉を発するよりも早く爪先に力を込めていた。それは、エフェクト的なナニカよりも感動的な光景ではあったものの、そんな感動に悠長に浸っていられる状況ではないのだから、当然と言えば当然だ。
いくらKKYDとは言えども、一分一秒を争う時に空気が読めない行動をする程、愚かではないらしい。
斯くしてディアの爪先から伝わる小さな圧力は動力機関へと伝達され、動力機関は魔力を媒介に莫大な回転エネルギーをタイヤへと供給する。その速さは決して緩慢などではなく迅速であり、タイムラグなど殆ど生じさせない。
よって、0-100km/h加速を5.98secで達成し、爆速を持って大森林への侵入を果たしたのである――




