ep67 星間移動(Kya-ha-ha superstyle)
――ハイヤード3日目――
「今回向かって欲しい場所は、パライズ大陸にあります、ルーゼブルガ王国の東。ロベスティ大森林の更にその奥に向かって欲しいのでち」
「ヘスティさん、そのロベスティ大森林にランデスくんって乗り入れ出来ます?」
「ルーゼブルガ王国からロベスティ大森林までは街道があるらしいのでち。でも普通なら通行許可証がなければ、森林地帯は入れない可能性がありますでち。し・か・し、わたくしの権能を持ってすれば、その程度、些細な事なのでち。ランデスくんさまの為にも、いいところを見せるのでちッ!きゃは♡」
初日のMAXハイテンションスーパースタイルのヘスティは、翌朝になると落ち着きを取り戻していた。ディアはランデスの車庫に、あの日はあれから立ち入ってないので、その夜に何があったかは分からない。
だが、ヘスティのあの時のテンションを鑑みれば、何かがあったとしても可怪しくはないだろう。
念の為ディアは翌日に、ランデスの外装をチェックしてみたが、特段違和感は感じられなかったので、胸を撫で下ろしたのは事実だが、それはそれ。これはこれ。
ちなみに次の日もヘスティはディアに自室待機を頼んだ。拠ってディアが、暇を持て余したのは言うまでもない。
だが……その日の夜、ディアに対してヘスティから翌朝の出庫が唐突に依頼されたのである――
「では、行きます。安全の為、シートベルトをしっかりと着けて下さいねぇ」
斯くして、ヘスティの家の車庫でヘスティを乗せ、外に出たランデスは転移門を開くと目的地へと向かっていった――
「いつ見ても不思議でちね」
「一体何がですか?」
「ランデスくんさまは召喚獣と聞きました。なのに権能である星間移動が使えるなんて、それは凄いコトなのでち」
「わぁるどどらへる?それって、転移門の事ですか?それでしたら、ランデスくんの力じゃありませんよ?」
「そうなんでちて?じゃあ、ディアさまの権能なのでちて?」
転移門は高位高次元生命体であれば使う事が出来るかもしれない権能の一つだ。全ての高位高次元生命体が適性を持っているだけなので、端から使えるワケではない。しかしこれは人間には使えない。魔術に特化した長命種が生きている間の全ての時間を費やして研究したとしても、到達出来ない領域である。
故に、人間が召喚する召喚獣や、獣も同様とされる。
だがその前に、ディアのボケはスルーされた――
「この転移門は、おかみさんの力なんです」
「はい?おかみさまはこの場にいらっしゃらないのでち。どうやって権能を行使してるのでちて?」
「おかみさんが持ってる、「でーたべーす?」とか言うのを、ランデスくんに「りんく?」させているので、こちらで座標軸を取捨選択したものに……」
――ぼんッ
ディアのINTの値はそこまで高くない。因って、処理落ちのあまり爆発した。流石に運転中に爆発するのは危険性が増すというものだが、この世界線に於いてはそれはそれ。これはこれ。
だが、注意喚起は必要である。
※ディアは特殊な訓練を受けていますので、運転中に爆発しても問題はありません。ただし良い子は真似をしてはいけません。
「流石はおかみさま……でち。で・す・が、それを余裕でこなすランデスくんさま、素敵なのでちッ!素敵過ぎるのでちーーーーーッ!!きゃは♡」
こうしてヘスティは熟年おひとりさまモードから一転し、MAXテンションモードへと移行したのだった。
※ディアは特殊な訓練を受けていますので、客がテンションアゲアゲモードに突入しても問題はありません。ただし良い子は運転手の邪魔をしてはいけません。
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ランデスは爆走して行く。ルーゼブルガ王国からロベスティ大森林に繋がる街道を……。
道中、獣が行く手を阻み取り囲もうと、最初から妨害するモノなどいなかったかのように……だ。
そんなランデスの中でヘスティは、熟年おひとりさまモードに再移行した様子で寄り添っており、外の様子など視界にも入らないくらい盲目だった――
「さて、ここまで順調に来れましたぁ。ここがロベスティ大森林の入り口ですかね?」
「そうでちね。でも木々が生い茂っていますでち。わたくしの権能で、今、道を作りますでち。ちょっと待ってて下さい。行ってきますでち」
「あっ、ちょっとヘスティさん、待って下さい。今、外に出ると……」
「へぁ?」
――ひゅッ
「ひゃうッ!」
「いざ行かん」……ランデスに対してええカッコしぃ的な何かで意気込んで降りようとしたヘスティの鼻先を掠めたのは一本の矢だった。
ディアはランデスに搭載されたセンサーで前方の森にいる存在に気付いていたのでヘスティを引き止めたのだが、一歩遅かったと言える。
だが、この矢はあくまでも牽制と言える存在だろうが、ヘスティのテンションを下げる事には成功した様子であり、ヘスティは折られた意気込みを回収する事なく、変な声を上げすごすごとランデスの中に引き返したのであった――




