ep66 家具(Delusion product)
――ハイヤード1日目――
「あぁん!ランデスくんさまぁッ!わたくしの事をお迎えに来て下さるなんて、なんたる僥倖なのでちて?わたくしは幸せ過ぎて幸せ過ぎて、もう死んでも構わないのでちッ!きゃはッ♡きゃははッ♡」
「ヘスティさん……あの……お迎えに来ましたけど、今日はこれから……その……どちらに行かれるのですか?」
ディアは最初から困惑させられていた。最近「魔の酒場亭」からヘスティを乗せる時とは明らかに態度が違うからだ。
最近になってみせている、熟年おひとりさまの様相とは言い難い、テンションMAXヘスティの姿に困惑を通り越して絶句しそうな勢いと言えるだろう。これでは最初の頃よりタチの悪い状態としか言えない。
拠ってディアは初手から既に、言葉を詰まらせている。
「おほんッ!そうでちた。今日はまだ準備が終わっていないので、出るのは明日以降になりますでち。なので本日は、わたくしの家で待機をして下さいなのでち。ディアさまの部屋とお着替えは、家に仕えるメイドに用意させているのでち。何か足りない物があれば遠慮無くメイドに申し伝えて頂けると助かるのでち。待機中に町に遊びに行くのも構いませんので、自分の家だと思ってご自由にして頂いていいのでち。よければ町の案内もつけますが、どうでちて?」
「いや……流石に町には行きません。――そうだ!そうでした!そうだったんです!聞いておかないといけない事が!あの……ランデスくんはどこに格納します?流石に玄関先ではお邪魔だと思うんですが……」
「そうでちた。わたくし、ちゃんとランデスくんさまの為に車庫をご用意したのでち」
「かしこまりました。それでは、そちらに入庫させますね」
途中、ディアもヘスティにつられて変なテンションになっていた気がしなくもないが、それはそれ。これはこれ。
こうして、ディアはランデスを案内された車庫に入れたワケだが、そこには本来車庫に置いておくはずではない家具の姿があったのである。
「えっと、わたしはここに寝泊まりすればいいんですかね?」
「いいえ、ディアさまの部屋はここではないのでち。ちゃんと外の景色がいい角部屋をご用意してるのでち」
「あ……の……机にベッド、ドレッサーも車庫内にありますけど……?」
「その机やベッドやドレッサーはわたくしが使うのでち。せっかくランデスくんさまが我が家に泊まりに来て頂けてるので、僭越ながらわたくしがランデスくんさまと添い寝をさせて頂く為に……キャッ♡きゃは♡きゃはは♡……でも、流石にお化粧をしてる姿をランデスくんさまに見せるのはどうかとも考えたのでちが、スッピンから映える姿にチェンジしていくその姿も愛して頂きたく……キャッ♡キャーーーーーッ♡まったくもう、何を言わせるんでちて?」
来た時のテンションMAXを遥か斜め上にかっ飛ばした「MAXハイテンションスーパースタイル」とでも言うべき、ヘスティの壊れっぷりにディアは完全に言葉を失い、呆然とただただ立ち尽くすだけだった。
当のランデスはディアがいなければ乗り降りする事は疎か動かす事も出来ないし、そもそも扱いこそ召喚獣であるがただの無機物である。無機生命体のように自発的な行動が出来るハズもない。
オブジェクトセクシュアリティ……即ち「対物性愛者」とされる人間も、多様性社会の中にはマイノリティとして存在してるとかしてないとかだが、多分ヘスティもそんな感じなのかもしれない。
ヘスティはランデスを「魔の酒場亭」の倉庫区画で初めて見た時から、時間の経過と共に違う方向に感情が向かったのかもしれないが、この手の話題は非常にセンシティブになり兼ねないので、この一文を敢えて付け加えておこう。
「※この物語は様々な表現方法も含めて作者の妄想です」と。
斯くしてハイヤード初日からそんなこんなのぶっ飛び展開の体験をしたディアだったが、恋だの愛だの好きだのが、その甲斐あって全部ひっくるめて本当に理解出来なくなったのであった――




