ep64 出張(Hestie presents)
「それじゃあ、おかみさん。いってきまぁす」
「あぁ、気を付けて行っといで。だけど、あんまりやらかすんでないよ」
ディアは長期出張に出る事になった。長期と言っても最長で1ヶ月であり、ランデスに乗せる客は……いや、誰かは言わなくても分かるだろう。
今回ディアはランデスと共にヘスティの長期間ハイヤードとなる。その間の着替えや宿泊場所などはヘスティプレゼンツが確約されている。しかし、目的地はヘスティの「指示」というだけで、明記されているワケではない。決まっているのは最初の目的地……即ち、お迎え先の「ヘスティの家」だけである。
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「ディア……長期間、この町を離れる事になった場合、アンタは賛成かい?反対かい?」
「町を離れる?それは避難ってコトですか?また誰かがこの町に攻めて来るんですか?――それなら、わたしも前みたいに戦いますッ!戦わせて下さいッ!!」
「いやいや、そうじゃあないさね。これは所謂、出張ってヤツさ。ヘスティがランデスを長期間のハイヤードで所望なのさね」
――あの話しの折、ヘスティはランデスを期間限定のハイヤードにすれば、料金が跳ね上がる事については了承した。
そして「おかみ」が話した、「ディアに無理はさせられない」という点にも概ね了解の意思を示したのである――
「だがアンタは魂を集めなければならないんじゃないのかい?ずっと大口太客にハイヤードされれば魂を集める為に獣の討伐にも行けなくなるじゃないさね……」
「――ちょっと前にランデスくんに乗せた冒険者さん達が言ってました。ここ最近、アーレの町周辺の獣さん達が減ってるって。だから、北のクライス山脈に新たに発見された地下迷宮に稼ぎに行くって。流石にランデスくんは地下迷宮の中には入れませんから、そこで獣さん達を狩るのは向いてません。だから……ランデスくんや、わたしを必要としてくれるヘスティさんのハイヤードを承りますッ!」
「それはエンリの功罪ってヤツかねぇ……。町が平和になる事はいい事だが、今回ばかりはなんとも遣る瀬無い気分になるねぇ……」
こうして今までに前例の無い「ランデスのハイヤード」が、後日、「魔の酒場亭」にて正式な書面にて契約締結に至ったのである。
ちなみにその日にも浪費家は、ランデスに寄り添うおひとりさまで転移門を使う事なく家に帰っていった――
――「魔の酒場亭」とヘスティ・アーベルンゲンとのハイヤードに関する契約について。一部抜粋――
・期間は最長で1ヶ月間。その間のランデス及びディアの専属利用料として契約金の他に別途料金を徴収する
・期間が短縮された場合、契約金をそれまでの日割り計算で返却する。ただし、専属利用料金は契約金には含まれない
・契約期間の延長は認められない。1ヶ月を超える場合は一度「魔の酒場亭」に戻り、再度契約を締結するものとする
・ディアはランデスを用いてヘスティを目的地に送り届ける際にはヘスティの指示通りに運行しなければならない。しかし、ヘスティの安全を最優先に考える責務を負う
・ヘスティは利用料金の他にディアの宿泊先及び着替え等の生活必需品を供給する責務を負う
斯くしてヘスティが指定する日を契約期間初日とし、そこから1ヶ月間ディアは出張する事になったのである。
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「行っちまったね……。これで暫くの間、寂しくなるねぇ……」
「なんだなんだ、おかみさん。娘を嫁にやる母親みたいだな。――まぁ、ディアなら多少のやらかしはやっても、客はあのヘスティだ。ランデスに乗れさえすれば満足なんだろ?」
「まぁ、そうなんだがねぇ……。あぁそうだ、エレ。アンタも少し所用に行かないかい?」
「え……。またギルドの依頼かぁ……。はぁ……」
「いや、ギルドじゃあない。「魔の酒場亭」からの所用さね」
確かに「おかみ」は娘を嫁に出すような感傷に浸っていたのかも知れないが、先ず娘はいないので、その気分をリアルに味わった事はない。だがディアが心配な事にも変わりはない。過去の記憶を聞いてしまい感情移入しているのかも知れない。
拠ってエレやあとの二人とは、やはりだいぶ扱いが違うのは事実だろう。
そして扱いがディアとは違うエレには、これまた仕事を供給しないと例のかまってちゃんが出てしまう。
エレには仕事の需要供給曲線のバランスが難しいが従業員である以上、仕事はしてもらわないと困る。拠って「所用」である。出稼ぎの所用とは異なり「魔の酒場亭」からの所用であれば、エレとて無碍には出来ない。
エレの扱いに困った時こそ所用なのである――




