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メタバースマルチバース 〜ユニバースディ〜  作者: 硝酸塩硫化水素
はじまり
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ep6 サーリエ湖(The angler)

「おかみさん、ただいま戻りましたぁ。今回の片送り(クランシス大陸送り)は失敗してないはず……です!ぶいッ!」


「ご苦労だったね。それに随分早いときたもんだ。あの男は駄々を捏ねなかったのかい?それと……他に頼んどいたモンは仕入れられたかい?」


「あっ……ももも、もう一回行ってきまぁす」


ばたんッ


「まったくあの娘ときたら、毎回毎回何かしら()()()()()()()気が済まないタチなのかねぇ?」


 ディアのミスは大なり小なり毎回の事で、ある意味で風物詩になりつつある。大抵、それ(ミス)のフォローはエレが行っているが、今回は別件で動いてもらっているので、ディアが自発的に再度クランシス大陸に向かうのだった。

 しかしながら、「おかみ」としては帰って来てしまった以上、契約外の頼み事(おつかい)に対して、わざわざもう一回行く必要があるのか疑問に思ったが、ディアの反応はもう「魔の酒場亭」には無い。



 話しは少しだけ遡るが、エンゲはディアに導かれ特段のトラブルもなく、無事にユングの町に到着した。


 ユングの町は広大な湖「サーリエ湖」に寄り添う形で生業を営む者達が多い事で知られる、クランシス大陸中央部に位置するクラウゼン王国の主要な町の一つだ。その「サーリエ湖」にエンゲのターゲットである「リュウゼツゴイ」が棲息している情報があり、ディアがエンゲを連れて行く事になった訳だった。


 当のエンゲにとっては、見ず知らずの外国であり、本当に「リュウゼツゴイ」がいる確証が掴めなければ大金をはたいたのだから文句の一つでも言って、払った金を返せとは言わないまでも、せめて生まれ育った場所(セレスティア大陸)に連れ帰ってもらうつもりでいた。

 ディアはそれに納得しないかもしれないが、いる意味もない場所にいる必要はないのだから、情報が間違ってせいだと駄々をこねる気マンマンだった。だからこそ、ディアには確証が得られるまで町に滞在してもらうように申し入れた。反対されるかもしれないと思っていたが、ディアからの返答は想像以上にエンゲを拍子抜けさせてくれた。

 どうやら肩透かしのバリエーションは多かったようだ。


 しかし転機は直ぐにやって来た。町に着きその日の宿を湖畔の安宿に決め、今夜の食い扶持でも……と湖に糸を垂らした直後の事だ。


 エンゲは持参した釣り竿を部屋に置いてきてしまった事を後悔もせず、そこら辺に落ちていた木の枝を、釣師(アングラー)の力を使って簡易的な釣り竿に仕上げていく。そして、これまたそこら辺から集めた活きエサを簡易釣り竿の針にチョン掛けすると広大な湖の奥底へと投げ込んだのだ。

 どうやらエンゲという男、根っからの釣り好きであり、そこが海だろうが川だろうが湖だろうが、魚がいるのなら糸を垂らさずにはいられない性分なのかも知れない。

 だからそうなると、「食い扶持の確保」というのはある種のタテマエなのだろう。


 そんな中、糸を垂らした直後、一際大きなアタリにしっかりとアワセを行い、必死に逃げる大物を左右に振ってジワジワと体力削り、糸を巻き手繰り寄せ、釣師(アングラー)としての(スキル)を使い抜き上げたのである。


 それは見た目からして大物。一人で食べるとしたら、一食分には多過ぎるくらいの釣果だと言える。

 抜き上げられ、中空を舞う体色は陽光を浴びてオレンジ色に輝き、肉付きの良い体躯は水飛沫(みずしぶき)を振り撒き、キラキラと光を反射させている。

 本命(リュウゼツゴイ)ではないにせよ、初手からこれ程の釣果が得られるのであれば、「生涯を掛けてこの町で思う存分釣りを楽しむのも悪くない」なんて思った矢先の事。

 未だ宙を舞う「釣果」に対して、水底からの刺客が迫っていたのである。その刺客は水中よりエンゲの釣果に「物申す」と言わんばかりに飛びかかり、胴体部分を噛み千切ると水面(みなも)に盛大な水飛沫と巨大な波紋を残して去っていった。


 それはたった一瞬の出来事だったが、絶句と共に歓喜に打ち震えるエンゲの姿があったのは言うまでもないだろう。

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