ep57 金貨(The inconsistent)
セレスティア大陸にあるアーレの城下町の外れにある「魔の酒場亭」。だがその通称とは異なる看板が今日も店の前に出されている。
「ここが、「魔の酒場亭」なのでちて?でも、看板には「魔の酒場亭」と書かれてないのでち……」
――ギィッ
「懐かしい気配が現れたと思って出て来てみたが、ウラノが言ってたのはアンタのコトだったのかい?」
「お久し振りなのでち。女神ティア・マトリクスさま」
「ちょっと「女神」なんて言うのはよしとくれ。それにここでは「おかみ」で通ってるんだ。本名を言うのもやめてもらえると助かる」
「わかりました「おかみ」さま。これでいいでちて?」
これが変な語尾で話す者が平和な「魔の酒場亭」の目の前に現れた瞬間だった――
ゴシック・アンド・ロリィタのロングドレスをその身に纏い貴族然とした振る舞いでありながらも、ピンク色の髑髏であしらわれているそのヘッドドレスが、「貴族ではない」と金切り声を上げている。
更にその振る舞いに似合わないのはドレスだけではない。その見た目からして既に怪しさが際立ち輝いて見えるのである。
先ず……体型からして幼子を想像させる容姿でありながら、瞳は妖艶さを持って怪しく光る桃色。次に……明るめの茶色の髪は頭の後ろで縦巻きロールで纏められていながらも、膝下に届く程の長さを有す。最後に……声は見た目とは裏腹に子供らしからぬ落ち着きがある……が、語尾が変。
斯くして全てにおいてちぐはぐな高位高次元生命体が現れたのである。
「女神ウラノ・スィンゲルさまからのご依頼により、不肖ヘスティ・アーベルンゲン参上仕りましたでち」
「おかみ」に拠って店の中へと案内され、全員が集合してる目の前で華麗に挨拶をして魅せたヘスティだったが、ディアと「おかみ」以外の面々はヘスティから醸し出されている「怪しさ」に対してもはや何も言えず、言葉を失って立ち尽くしていた。
「ヘスティさん、はーい!質問があります。いいですかぁ?」
「何でちて?えっと……」
「わたしはディアです。宜しくお願いします」
「はい、ディアさま。どんな質問でも、銅貨一枚から金貨千枚の範囲でお答えするでち。ただ、今回は初めてのご利用キャンペェンにつき、無料でお答えするでち。質問は何でちて?」
ウラノは言っていた「がめつい」……と。こうして、ヘスティのこのセリフは、立ち尽くしていなかった三名以外の二人も含めて凍り付かせるには充分な威力だった――
…………
………
……
…
「それで、ヘスティ。これなんだが、さっそく見てもらえるかい?」
「へぇ……これはこれは……うぅん……ほっほぅ……」
無理やり解凍した「おかみ」は危機感を覚えていた。故に……ヘスティにこの店から早々に立ち去ってもらう為に二人の首輪を見てもらう事にしたのである。
「それでこの権能……解けるのかい?」
「はい、おかみさま。「秩序」の権能を司るわたくしにお任せ頂くのでち。ところで……」
「ところで?」
ゴクリッ――
「お高いでち。大丈夫でちて?」
「幾らだい?」
「ざっと……金貨651枚でち。首輪二つ合わせて金貨1302枚でち」
「なぁなぁ!さっき、ディアに言ってた初回キャンペェンって言うので、タダにはならねぇ?」
どうやら金額の大きさに二人は強制解凍されたらしい。そして真っ先に声を上げたのはイシュだ。だが今度は「おかみ」が凍り付きかけている。
「初回キャンペェンは質問なら金貨千枚まででちが、権能行使なら金貨一枚まででち。うーん……それでは仕方ないのでその分を値引かせて頂き、二人合わせて金貨1300枚でち」
ウラノに頼んで来てもらった以上、「おかみ」はある程度の金額なら、「魔の酒場亭」が立て替える予定だった。だが、そんな途方もない金額がこの店にある筈もない。国家予算よりは少ないが、複数の大貴族の貯蓄全てくらいはまるっと消し飛ぶ金額である。
ヘスティの住まう国がどこの惑星にあるか分かれば、為替レートを使う手段もあるが、その結果高くなる事もある。
それでは元の木阿弥なので話題には挙げない。
「そ……そうだッ!カイセル共和国にあるエンの本拠地に、お宝が眠ってるハズだ。それをちょちょいって貰ってくれば……」
「イシュ……その話しなんだが、昨日……カイセル共和国は滅んだって噂に聞いたよ……。ライラ大陸全土を大規模な大暴走が襲ったとかなんとか……」
「えっ?!それって……」
「エンリの報復……かも知れないねぇ……」
「えっと……それでお金は用意出来るのでちて?」
万策尽きたとは、この事だろう。外す為に必要な方法は目の前にあるのに手段が無いのだから。
「ヘスティさん……貴女、レアな依り代に興味はござりんせん?」
「レア?それはどんな依り代でちて?」
ヘスティの姿を見たニゴウが口にしたこの咄嗟の発言、それが二人の窮地を救う事になる……かはさておき、がめついことでディアから知られるエレは依然として終始凍り付いたままだった……。




