ep56 多様性(Existence proof)
「妾達は一体どうなるのでありんすか?この首輪は外せるのでありんしょうか?」
「ウラノ……クロノには連絡が付くかい?」
「いや、アテシには無理。その手の権能の解除なら、イザナを頼れば早いのではないか?」
「それはどっちの「イザナ」だい?ギミックかい?ミミックかい?」
「ギミックの方だな」
斯くしてイシュが「魔の酒場亭」に着くと、エンが残した置き土産の処置について、「おかみ」とウラノで問答していた。そしてその場に当事者として、一番遅く来た事になる。
尚、一夜明けて「おかみ」の姿はいつものヒト種の姿に戻っており、イシュは安宿からこの店に着いて「おかみ」の顔を見るなりホッとしていた……というのは余談である。
時間を追うごとに二人の問答の中で複数の高位高次元生命体達の名が挙がっていった。だが、「連絡が付かないモノ」、「連絡を付けたくないモノ」などの様々な理由で「名が挙がっては却下」というコトを繰り返していたと言える。
拠って、解決策は未だ見えていない。
しかし、「おかみ」にせよウラノにせよ、二人の首輪を外さなければならない事は重々承知している。このままにしては、またいずれエンの手駒とされるのが目に見えているからだ。即ち、使い捨ての駒……である。
二人の実力を持ってすれば、排除するのは容易いが、今回助けてしまった以上、再び敵として会ってしまったら寝覚めが悪い。
「ウラノ……アンタが連絡の付くヤツで、この手の権能に強いヤツはいないのかい?」
「いるにはいる。だが、アヤツはがめついぞ?あればあるだけ持っていこうとする。それでも良いならアテシから連絡をつければ、金に目が眩んで数日も掛からず、ここまでやって来るだろう」
「別にがめつかろうと、その金を「魔の酒場亭」が払うワケじゃないさね。払うのは首輪を外してもらいたい二人……持ってなければ、金を作らせればいいんだろぅ?」
この「おかみ」のセリフに拠って、一人は頬を赤らめ恍惚とした表情を見せ、一人は顔を完全に青褪めさせていた。対象的な二人だが、どちらがどちらの表情なのかは、言わなくても分かると思われる。
「それではティア、アテシはそろそろ自分の惑星に戻る。昨夜は馳走になった。暇があれば、また馳走になりに来る……さらばだ」
結論が出た事でウラノは早々に「魔の酒場亭」から出ていった。その姿は凛として華があり、威風堂々とした姿であって、ディアは目を輝かせながら見えなくなるまで視線を追わせていた。
「おかみさぁん、ちょっと聞いてもいいですかぁ?」
「なんだい、ディア?」
「今のウラノさんの身体も人間さんなんですか?」
それはディアが抱いた些細な疑問。ウラノの身体は全身が金属光沢を発しており、パッと見で人間には見えない。ある程度、この世界の知識を持っているディアでも、そんな人間は知らなかったのである。
「あれは、レアな人間さね。ヒト種を始めとする多くの人間は有機生命体だが、ウラノの依り代は無機生命体。だから金属光沢で輝いていただろう?」
「そんな人間さんもいるんですねぇ……凄いなぁ。世界は広いんですねッ!」
無機天使種と呼ばれる無機生命体。この生命体は分類的には「人間」となる。箱庭内で数多に分岐し点在する惑星には、これまた数多の有機生命体と、数種類の無機生命体が共存している……が、全ては惑星の多様性の結果だ。拠って、全ての惑星に無機生命体が存在している訳ではない。
「ウラノが今回使っていた依り代は、無機天使種の秋系統……空戦特化した種のようだったね。まぁ、この世界じゃお目にかかれないレアな種族さね。ちなみに、エンリが使っていた依り代は堕天使種っていう、これもレア中のレアな人間だねぇ。まぁ、竜人種とじゃ格が違うってヤツさね。だから今回は流石にヤバかった……が、エンリのヤツが以前、完全支配したウラノの惑星にちょっかいをかけたモンだから、それから目の敵にされた結果……今回は助かったって感じかねぇ」
「惑星の完全支配」……これを成し遂げられる存在というのはそうそういない。恵まれた依り代と、恵まれた権能を持ち得た結果、到達に到れるかどうか……という感じであり、それを「神々の遊び」の到達点にしている高位高次元生命体もまた、少なからずいる。
逆にエンリ・ルールブレイカーのように、「人間」という生物が憎くて憎くて仕方ないから、虐殺して巡る高位高次元生命体のほうが多いかもしれない。
それは偏に、恵まれた条件を持ち合わせているか否か……という事と紙一重なのかもしれないが、高位高次元生命体として産まれた存在証明や、高位高次元生命体の概念なども深く関与している為、一概に全ての高位高次元生命体が「同条件で同じ道を歩むか?」という設問に於いては等しく「是」とはならない。
それこそが多様性の可能性であり、その可否の問われる部分なのかもしれない――




