ep524 英雄(Family ties)
「超暴走」の発生から、まるまる二昼夜が経過した。魔力がある以上、疲れ知らずで戦い続けたユーベンブロイだったが、身体に疲労はなくてもパーツに負荷は残る。
如何に優秀な魔力製素体と雖も、過剰過ぎる負荷は想定していないし、されていない。
それでもユーベンブロイはアメリアを守る為に必死に戦い、戦い抜く事に成功していた。
そう、エンリ・ルールブレイカーに因って一点に集められたこの惑星の「陸獣」の群れを、たった一人のユーベンブロイが自身の力と、ツクヨミから授かった加護の力だけで切り拓いたのである――
「はぁ……はぁ……はぁ……終わっ……た」
ユーベンブロイは最後の一匹を狩り取ると、その場に仰向けに倒れた。周囲にはクロック峡谷や東方の大陸で築いた躯の山を遥かに超える死骸の大地が広がっていた。
流石にこの山を放置すれば二次被害を巻き起こしてしまうかもしれないが、今はもう何もしたくなかった。魔力製素体の身体だからこそ、疲れも痛みも感じこそしないが、完全に限界は超えていた。
それでも戦い抜けたのは偏に、精神が肉体を凌駕したからだと言える。だが、戦う相手がいなくなってしまえば、凌駕した精神が肉体に襲い掛かるのは明白だった。
故に、その身体からパーツは外れ、パーツは崩れ、パーツは光となって消えていく。
「残念だなぁ……最後にママを一目見たかった。いや、一目だけと言わず、ママが幸せになるその日まで……ううん、幸せになって笑顔でいつまでもいてくれるように、いつまででも見守っていたかったなぁ……」
ユーベンブロイの身体は朽ちていく。限界の限界を超えて、更にその超えた限界の極限にまで達した身体は、その内に取り込み過ぎた魔力と魂の莫大過ぎる量が原因で、内部から崩壊を招いてしまった事になる――
「わたしを呼びましたかぁ?」
「――ッ?! マ……マ?」
ユーベンブロイは酷く驚いていた。ココは貧村手前とは言っても、森を挟んだ場所。夜が明けたとは言っても、アメリアが森を抜けて更には死骸の山を登ってここまで来る事は皆無だと考えていたからだ。
「やっと会えましたね。あの日、助けてもらったお礼をちゃんと言えてなかったので、今まで凄く心苦しかったんです」
驚天動地の衝撃だったと言える。あの日の記憶は消したハズだった。その方が良いから……と、良かれと思って全て忘れさせたハズだった。だけど、アメリアは「あの日のお礼」と言っている。これが驚かずにはいられないユーベンブロイだった。
「わたし、たまに夢を見るんです。実はわたしには子供がいて、だけどその子と離れ離れになった先で、わたしはその子から教えてもらったクルマに乗って色んな場所に行く夢です。変ですよね?分かってます。人を好きになる気持ちが分からないんだから、わたしは変なんです。だから、今まで誰にも話してません。貴方が初めてです。あ……れ?わたし……何を言ってるんでしょう?本当に変ですね」
ユーベンブロイは何も言葉を発せずにいた。ユーベンブロイの記憶に残る、共に旅をしたアメリアはあの日、ワケも分からないままに死んだ。
今、目の前にいるアメリアは自分の事を知らないハズのアメリアで、自分の母親だったアメリアじゃない。
でも……だけれども、このアメリアを護ると誓った。このアメリアはボクを知らないままに幸せになるんだ……と、ボクを知らず、苦い記憶も全部かなぐり捨てて幸せになって欲しかった。
それなのに……だ。ユーベンブロイの瞳からは気付けば涙が溢れていた。知らないハズのアメリアが、ボクを知っていて、更にはボクの事まで知っているなんて、思ってもみなかった――
「貴方はいつも、わたしの傍にいてくれてましたよね?わたしをいつも見守ってくれてましたよね?わたし、分かるんです。知ってたんです」
ユーベンブロイの瞳から流れる涙は止まらない。止まりようがない。止まれるハズがない。それと同時に、こんな別れになってしまう事が酷く悔しかった。
アメリアを「ママ」と呼べる可能性が既に残されていなくても、愛を知らなかったタカミヤに愛の尊さを教えてくれたのはアメリアだった。
逆に、恋とも愛とも無縁のアメリアに対して何も返せなかった事が無念で仕方がなかった。
アメリアはユーベンブロイに対して母親と名乗る事を禁止された事であの日、完全に愛を知る機会を失った。だからこそ、ユーベンブロイはせめてアメリアを守り抜く事でその恩を返そうと考えていた。
それなのに……だ。この世界線では完全なる他人だからこそ、陰ながらの恩返しだったハズなのに、全て知られていただなんて、考えた事は疎か想像だにすらしていない。
逆に知られていたならば、伝えたい事がある。話したい事がある。だが溢れるのは言葉ではなく、涙だけだった。
止まりようのない涙だけが二人だけでいられる時間を費やしていく。流していく。浪費していく。
「マ……マ……ボクの名前を……呼んで欲しい」




