ep523 意味(Universe Day)
「それでそれで?それからそれから?ねぇねぇ、焦らさないで、早く話してよッ!「おかみ」さんはどうなったの?エレは?イシュは?続きが気になるよぅッ!」
今日もボク達は茶色に染まった大地を眺めながら話しをしている。ボクが紡ぐ物語を友達のレイミスは瞳を輝かせながら聞いてくれてる。それがボクはちょっとだけ嬉しい。
そして、凄く眩しい――
でも、語り手が焦ったら何も始まらない。いや、始まらないばかりか、どんなに面白い話しでも詰まらなくなってしまう。
キラキラと輝くダイヤモンドも火に焚べられればその輝きを失ってしまうと言うモノだ。
それじゃあどんなに価値があったとしても誰かの興味を引く事なんて出来やしない。
だから語り手は聞き手がどんなにせがんでも焦ってはいけない。
それが鉄則であり、常識だ――
「話しを続ける前に、一つだけ謝っておかないといけない事があるんだ。ごめんね、レイミス」
「えっ?!どどど、どうしたの急に?まさか、このお話しはコレでお終いだったりしないよね?」
タイトルも回収出来ず、オチも定まらないまま尻すぼみで終わったとしたら、それは完全な出オチになってしまう。そんな事をすれば、レイミスはもう二度と話しを聞いてくれないかもしれないし、瞳を輝かせるコトはないかもしれない。
流石にそれはボクの流儀に反するし面目丸潰れで、語り手が廃るというモノだ。だけど、謝らなくちゃならない事には謝る以外の選択肢はない。
「この物語は、誰かが観測したモノなんだ。だから、その観測者の目線しか分からない。観測者はカミサマじゃないから、仮想現実第三世界にまで広がった枝葉の先にある物語は分からないってコトさ」
「んーーーーー?えっと、意味が分からないよ?」
ボクが話した内容はレイミスには難しかったらしい。だけどまぁ、それも仕方ない。実際にレイミスは子供なんだ。それこそ、お伽噺の王子様やお姫様に憧れを抱き、英雄や勇者が登場する冒険譚にドキドキして、吟遊詩人が紡ぐ詩にワクワクするようなそんな子供。
この「カナガワ」だった場所にソレらはもう何一つとして残って無いんだけどね。
「レイミスには難しかったかな?それじゃあ分かり易く言い直すね」
「むぅ!そんなに子供じゃないモン!ちゃんと分かってるモンッ!」
分からないって言っておきながら、子供扱いされれば分かったフリをするレイミスの反応に、ボクは軽く吹き出してしまった。
だけど、その直後に少しばかりの後悔が襲ってくる。それはレイミスのほっぺたが、張り裂けんばかりに膨らんでしまったのと、ポカポカと両手をグーにしてボクの肩にビートを刻んでいったからだ。
これは別に痛くはないんだけど、レイミスの機嫌が治るまでその瞳が輝きを取り戻す事はないだろう。
それではこちらが焦らされてしまう。聞き手が焦れるんじゃなくて、語り手が焦れてしまっては、やはり物語の面白味は半減してしまう。
いくら面白い話しだからって、語り手が途中で吹き出しながら話しをしていたら、聞き手は何が何だかサッパリ分からないのと一緒だ。
「レイミス、いい?この話しに出て来る「おかみ」さんもエレもイシュも、みんながどうなったかは分からないんだ。なんでかって言うと――」
「時間が巻き戻ったからでしょ?ちゃんと分かってるモン!」
ボクはちょっとだけ驚いていた。今、紡いでいる物語は群像劇だ。主人公はいないし、ヒロインもいない。魔王に連れ攫われるお姫様もいなければ、そのお姫様を助けるべく力に目覚める勇者もいない。
だからレイミスには難しい話しかなって思ったけど、それはやっぱりレイミスを子供だと思っていたからみたいだ。
でもちゃんとレイミスは理解してた。だからボクは意外にも驚かされた。侮っていたってほど大袈裟じゃないけど、意味合いはそんな感じ。
「ありがとう、レイミス。それじゃあ、話しを続けるよ? ――この群像劇で最後まで残ったのはたった二人。その二人がどうなるのか?母親の幸せを願う英雄サマと、恋を知らず愛を知らずただ必死に生きるだけの女性。二人の結末はどうなってしまうのか?見守られるアメリアは本当に幸せを掴めるのか?そして、「ユニバースディ」の意味とは如何に?――」
ボクは再び物語を紡いでいく。ボク達以外には誰もいない、この枯れ果てた茶色の大地を見下ろし眺めながら――
これは広い宇宙の中で繰り返し語られる、たった一日だけの物語。
だけど、その一日一日を繰り返さないとこの世界は容易に崩壊してしまう。
だからボクはレイミスと話しをしている。もう二度と、大事なモノを失いたくなどないから。
物語が紡がれる事で、その一日は永遠にループし続ける。そうしなければこの世界は簡単に崩壊してしまう脆い世界。
だからボクは話しを紡ぐ。いつまでもいつまででも、終わらない一日をこの宇宙の片隅で続けていく。
それはボクにしか出来ないコトで、そうする事で何も失わずに済むのだから――




