ep521 気付き(The aim)
「そらそらどうしたどうした、英雄サマ!たった一人で「獣」達を防ぎ留めてたのはまやかしだったのか?」
――パパパパッ
「超暴走」は支配下に置いた「尖兵」が押し留めてくれている。だが数の暴力には敵わない。早い内に決壊するだろう。
そして「新月の月夜見」を解放している今、加護で生み出せる武器はその手に無い。
一方のエンリは、ユーベンブロイが下を気にしている事を機敏に感じ取ると背中の翼を羽ばたかせ、強制空中戦に持ち込むべく上空へと舞い上がった。
更には敢えて距離を取り魔術にも似た魔力弾に依る牽制攻撃で挑発を行っていく。このような状況ではユーベンブロイが地上でいくら応戦したところで、エンリに制空権を取られている限り、勝ち目は非常に薄くなる。
従って挑発に乗る形で、ユーベンブロイもまた空へと舞い上がっていくしか方法は無かった。
「オン、タカシハヤ、マカレヤマカレヨ、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前・“弓”!」
シャシャシャシャッ――
ユーベンブロイが選択したのはエンリと同じ遠距離攻撃用の武器だった。「望月の月人」とは異なり、弦は張られているがその矢はユーベンブロイの魔力に依って生み出される。
従って、無駄弾が過ぎれば魔力が枯渇の一途を辿る事になる。それは即ち今のユーベンブロイにとっては諸刃の剣と言えるが、弓であればエンリを狙う事も、空から大地を這う「獣」を射る事も出来る。
拠って今出せる最適解だった。
「面白いな英雄サマ!アンタは「人間」の魔術士か何かか?それにしても「人間」にしちゃ出来過ぎだ!それこそ「人間」にしておくのが勿体無い!ワタシが勝ったらワタシのペットにしてやるよッ!」
「それはご免被るさ、エンリ・ルールブレイカー!ボクは絶対に負けるワケにはいかないからね」
魔力弾と魔力矢が衝突し衝撃波を伴う爆発を起こしていく。これが地上付近であれば「獣」を巻き添えに出来るだろうが、狡猾なエンリはそれを善しとしない。
だがこれもまた、エンリの時間稼ぎの一環である事に変わりはない。エンリは最初からユーベンブロイの嫌がる事しかしていないからだ。その目的はそれ即ち、「超暴走」の濁流を侵攻ルートに復帰させる事にある。
このままユーベンブロイを足止めしていれば、数で勝る群れは足止めの「尖兵」を容易く薙ぎ払い、再び進軍を開始する。エンリの目的はこの「超暴走」を成功させ、ハリストの「人間」達を根絶やしにする事にこそある。
だからユーベンブロイは飽くまでも“オマケ”のようなモノだ。無理に相手をする必要はないし、嫌がらせの挙句に倒せれば万々歳といった感じなのだろう。
だがそれを悟られて困るのもまた事実。だからこそエンリは緩急を付けた挑発をチクチクと行っている。
上空では小競り合いが続いた結果、地上では濁流を押し留めていた「尖兵」が壊滅し群れは進軍を再開した。
こうなってしまった以上、ユーベンブロイに残された手段は最早、数える程にも無い。
「(「魔法もどき」を使えれば逆転の芽は出る……けど)こうなったら、先にエンリを倒すしか道は無い……か」
ユーベンブロイの予想では「超暴走」がアメリアのいる貧村に到達するまで一時間も掛からない。ならばその前にエンリを倒し、統率を失った「獣」を止めれば事なきを得るハズだ。
……が、ここでユーベンブロイは漸く気付いたのである。
「それは最初に考えていたコトじゃなかったか」……と。ユーベンブロイ一人の力では「超暴走」は止められない。だからこそ群れを足留めし、首謀者であるエンリを釣り上げ倒すハズだった。それなのにいつの間にか目的と手段が入れ替わっていた事になる。
恐らくコレはエンリの「権能」に因るモノだとユーベンブロイは判断した結果、今も牽制しかしてこないエンリに向かって一気に加速する事を選んだのである。
「(ん?気配が変わった。下は諦めた?いや、もう権能が解けたっての?)いいね英雄サマ!アンタやっぱり面白いよッ!だけど、そんな弓一本で、ワタシを倒せるとでも?ナメてもらっちゃ困るんだけどッ!」
エンリは完全に驕っていた。「慢心せずしてなにが王か!」とでも言わんばかりに図に乗り、増長し、己が力に過信を抱き、手に入れた「堕天使種」にうぬぼれ溺れていた。
だからこそユーベンブロイは、敢えてエンリの周囲に狙いを定めて射掛け、行動を阻害する弾幕を放っていく。エンリが的を正確に射抜けないと誤算してくれれば善し。武器が弓しかないと思ってくれれば尚の事、「善し」だった。
一方でエンリはユーベンブロイが何かを狙っていると考えるのは、当然の道理だ。それは偏に、突然、弓の精度が落ちたからではなく、最初からユーベンブロイを魔術士だと考えているからこそ、自分に狙いを切り替えた一発逆転の高火力魔術が来ると踏んだのである。
しかし「堕天使種」の魔術抵抗力であれば容易に防ぐ事が出来る。その上で強烈なカウンターを狙っていた――




