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メタバースマルチバース 〜ユニバースディ〜  作者: 硝酸塩硫化水素
アフターストーリー

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ep519 優しい声(The bet)

 どれだけの時間が経過したのだろう。カチャカチャ音は止まり、女は何をされるか分からない恐怖と、服ばかりか下着まで破り捨てられた恥ずかしさでこの場からすぐさま逃げ出したかった。

 ……が、殴られるのはイヤだ。痛いのはイヤだ。逆らって殺されるのはもっとイヤだ。


 女は男がこれから何をしようとしているのか本当に分からなかったが、嵐が過ぎ去るのを泣きながら、嗚咽を漏らしながらただただ震えて我慢しようと考えるに至る。

 痛い目を見るくらいなら自分自身を殺し、感情を殺し、ただ只管(ひたすら)に我慢をして遣り過ごすしかない。この貧村で自分だけが辛い思いをしているワケじゃない。でも、自分は辛い事を今までにも随分と()()()()()()きている。我慢すればいい。自我を殺せばいい。それで死なずに済むなら大した事じゃない。


 だが、そんな女の覚悟を嘲笑うかのように()()()()()()()()――



「アメリアもう大丈夫。怖い人はいなくなったよ。でも怖い思いをしただろうから、その記憶は忘れさせてあげる。 オン、タカシハヤ、マカレヤマカレヨ――」


 それは今までに聞いた事が無い優しい声だった。何故、自分の名前を知っているのか分からなかったが、まだ恐怖に打ち克っていない女の腕は顔を覆い隠したままだ。だから女は声の主の顔を見る事なく、優しい声に導かれてそのまま寝息を立てスヤスヤと眠ってしまったのだった。


「破れた服は”式”を使って直すとしよう。でもここに置いておくのは流石に……だけどボクの姿を見られるのもマズいしアメリアを誰かに渡す事も出来ないから困ったな」


 ユーベンブロイは女の服を繕うと抱きかかえ、スヤスヤと眠る少女の顔を見て「困った」と言いながらも少しだけ微笑んでいた――



 アメリアを救うタイミングの中でユーベンブロイが選んだのは、自身(ユーベンブロイ)を身籠るきっかけとなる“事件”を阻止する事だった。

 だからその“事件”が起きなければユーベンブロイは産まれて来ない。拠ってこれはユーベンブロイにとって、自分が消滅する可能性を踏まえた“賭け”でもあった。


 しかしこの“賭け”はユーベンブロイの思惑通りになったと言える。何故ならば、ユーベンブロイの魂も身体も、アメリアが身籠らない事との因果関係を持っていないからだ。

 その一方で、()()()()()()()()()()()事もある。


 それは偏に、グランドデストロイヤーの消滅である。拠って、眠っているアメリアを自宅の軒先に座らせた頃にはユーベントロイヤーの姿は強制解除させられ、魔力製素体(ホムンクルス)の身体()()になっていたのだった。


 要するにグランドデストロイヤーのみ、アメリアが身籠る事をきっかけにこの世界(「箱庭」)に輸入された……と、()()()()()が判断し引き起こした「時間の逆説(タイムパラドックス)」だったのだろう。

 しかしこれを以って、ユーベンブロイが「魔法」を使える可能性は限りなく低くなってしまい、この惑星(世界)に取り残される事になる。


 だが、それもまたユーベンブロイの使命の一つでもあった。何故ならば、“事件”が起きなかったからといって、アメリアが幸せに暮らせるとは限らないからだ。しかしそれは、()()()()()()()()()()()ではない。


 もう一つ、確定事項としてこれから先の未来に於いて迫る危険が残されているからだ。それを解決するまでは()()()()()()()、アメリアが幸せになる事は皆無だと言えるだろう。


 そう、それは即ちこの惑星(ハリスト)の消滅を回避しなければならないという事である――



 セシルラウザー公爵家は()()()、イシュ・タリバリウムの手に因って滅ぼされた。

 イシュはソフィアとの約束を果たす為にエドワードを探したが、そのエドワードは既にユーベンブロイの手に掛かっている。故に、エドワードとの再会を果たす前にソフィアはイシュの中で擦り潰され、それに因って行き場を失った怒りは八つ当たりとして真っ先にセシルラウザー公爵家へと向かったのである。


 イシュとユーベンブロイが出会わなければ、イシュがエンリの飼い犬になる事もなかったワケだが、エンリがハリストに目を付けたのは、イシュとユーベンブロイの出会いとは()()()関係がない。

 要するに、エンリによるハリストへの危害こそが、アメリアの幸せを願う以上、避けねばならない事態となるのである――



 本来の歴史であればハリストが滅ぶのは、ユーベンブロイが産まれてから七年後、ユーベンブロイの死後一年経ってから滅亡する事になる。

 だからエンリが事を起こすまでユーベンブロイは陰ながらアメリアを見守っていた。それは誰にも気付かれないように本当にひっそりと……だ。依って、「誰にも」である事から、それは当のアメリアも含んでいる。


 遠目に見守るだけの日々だったが、それでもユーベンブロイは幸せだった。何故なら貧村の生活の中とは雖も、その中にはアメリアの笑顔があったからだ。

 アメリアの笑顔があればこそ何も苦にならず、ただ見守るだけであってもユーベンブロイの中で喜びに昇華される。


 そして、再びアメリアは渦中へと連れ込まれる――

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